双頭狂乱~師匠!目に物見せてやるぜ!~


◇1話◇ 

──本殿


サイゾウ
「へっへー、またおかしらに褒められたぜ!
 俺もここに来て強くなってるし? 当然だよな!」

ゴエモン
「今回も大量大量!
 悪霊は気に食わねぇが、オレ様好みのギラギラしたモンが多いのがいいねぇ。
 おかしらに見せりゃきっと目ん玉引ん剥いて驚いてくれらぁ!」

サイゾウ
「……また盗みかよ。ほんと忍が聞いて呆れるぜ」

ゴエモン
「もう忍じゃねぇ。天下一の大泥棒様よ。……忘れんな」


──後日、本殿


ゴエモン
「さーて、今日もオレ様の名を轟かせに行こうかねぇ。っととと。
 ……なんだ、オマエか」

サイゾウ
「また盗みか?」

ゴエモン
「いちいち何だぁ。オマエはオレ様のお袋か」

サイゾウ
「小言じゃねぇっつの。
 ……テメェは本殿に来てから忍術の腕上がったか?」

ゴエモン
「忍の術かは知らねぇが……当然、強くなったに決まってんだろ?
 あんな立派な方のとこでやるにゃ、実力がねぇと務まらねぇ」

サイゾウ
「だよな!」

ゴエモン
「なんで嬉しそうなんだよ……」

サイゾウ
「また師匠にぐだぐだ言われてよぉ。
 俺がまだまだ未熟だってうるせぇのなンのって。
 ……だからさ、師匠の度肝を抜いてやろうと思ってさ!」

ゴエモン
「ま、オレ様には関係ねぇな。あばよ」

サイゾウ
「待て待て。
 師匠こうも言ってたぜ。
 忍を捨てたにも関わらず忍術を使いこなした気になってる中途半端な元弟子といい、まだまだだって」

ゴエモン
「師匠が……」

サイゾウ
「な! 俺の言いたい事判ンだろ!」

ゴエモン
「いいぜ。乗ってやるよ」

サイゾウ
「へへっ。だと思ったぜ」

ゴエモン
「今だけは大泥棒のおべべを脱いで、伊賀の頃を思い出してやるよ」

サイゾウ
「おうよ! そして絶対師匠を」

ゴエモン・サイゾウ
「「泣かす!!!」」

サイゾウ
「作戦はどうする? 俺はやっぱり正面からドカンと一発」

ゴエモン
「オマエほんと忍向いてねぇな……」

サイゾウ
「ならそっちは忍らしい策があるって言うのかよ!」

ゴエモン
「あるぜぇ、当然よ。
 師匠を認めさせるとくりゃ、”これ”に決まってんだろ!!」



◇2話◇

──拝殿


独神
「え!? ……ねぇ、それって危なくない?
 私は忍の世界をよく知らないけれど、あなたたちやモモチタンバが怪我をするのは認められないわ」

ゴエモン・サイゾウ
「「危なくない!!」」

独神
「……本当?」

ゴエモン・サイゾウ
「「嘘じゃねぇ!!」」

独神
「ならどうぞ。
 モモチタンバには暫く休むよう言いつけてあるから、丁度いいと思うわ」

サイゾウ
「さっすがおかしら! やっぱり最高だな!」

ゴエモン
「オレ様のおかしらは抜かりないねぇ。流石だぜ!」

独神
「(別に二人の用件とは全くの無関係なのだけれど……)」


──少し前


ゴエモン
「……盗むぞ」

サイゾウ
「はぁああ!? 結局テメェの趣味じゃねぇかよ!」

ゴエモン
「まあよく聞け。
 オマエの言うように、師匠を一発ブッ飛ばすとする。
 ……それで、悲しむのは誰だ?」

サイゾウ
「師匠がやられて泣く奴……?
 ンなのいるわけ……………っ!」

ゴエモン
「そう。おかしらよ」

サイゾウ
「確かに……。
 おかしらは心の綺麗な方だから、悲しんで泣いちまうかもしれねぇ……。
 他の奴らなら泣いて喜ぶだろうに」

ゴエモン
「……オマエ、師匠に対してひでーな」

サイゾウ
「忍は恨まれることを喜べって、師匠言ってただろ?」

ゴエモン
「(師匠の価値観、理解不能なんだよな……)」

サイゾウ
「ゴエモンだってそうだろ? 泥棒は騒がれてナンボじゃねぇか」

ゴエモン
「そりゃあ、世の老若男女にきゃきゃー言われるのが大泥棒ってモンよ!
 良いぞ……逃げるオレ様を見上げて大衆に叫ばれるのは」

サイゾウ
「(泥棒ってもっと静かなもんじゃねぇの?)」

ゴエモン
「とにかく。師匠には切った張ったも毒も使えねぇ」

サイゾウ
「毒は元々無理だろ。フグ生で食ってんの見たぜ」

ゴエモン
「ただの例えだっつの。
 つまりは忍の技じゃ師匠に一泡吹かせられねぇ。お頭を泣かせちまうからな」

サイゾウ
「だから盗むって?
 けどよー、俺盗むってやっぱ好きになれねぇンだわ。地味だし」

ゴエモン
「そりゃオマエが素人だからだ。
 だからオマエに盗む理由をやる」

サイゾウ
「理由ぅ? 悪ぃけど、簡単にはのせられねぇよ」

ゴエモン
「────が、──────って」

サイゾウ
「おっしゃああ!!
 さっさと行こうぜ! ゴエモン!」

ゴエモン
「(いくらなんでもチョロすぎんだろ……)」



◇3話◇

──拝殿


独神
「キンシロウ、お願い!
 ゴエモンとサイゾウを少し見てもらえる?」

キンシロウ
「そりゃおかみの頼みなら喜んで!
 にしてもゴエモンとサイゾウか……これは事件だな」

独神
「事件かどうかはまだ判らないのだけれど、
 なんだかモモチタンバを認めさせてやるんだって、
 妙に元気だったから、少し心配で……」

キンシロウ
「安心しなって。おかみを悲しませるようなこと、
 このキンシロウ様の目の黒いうちにゃ絶対させねえよ」

独神
「ごめんね。でも見回りのついでとか、その程度で良いからね。
 二人も事前に私に声をかけてくれたわけだから、大丈夫と思……思……」

キンシロウ
「思ってねえんだな。
 まあいいさ。俺が出張る事がなけりゃそれに越したことはねえ。
 ちょっくらいってくる」

独神
「ありがとう。いってらっしゃい」


──外


キンシロウ
「おかみに声をかけてもらったは良いが……。
 ゴエモンだけでなく、サイゾウってのが気になる。
 あの二人は組む程仲が良かったのか?」

エンエンラ
「難しい顔をしてどうかした?」

キンシロウ
「実は(説明中)」

エンエンラ
「それは……火事の予感がするね」

キンシロウ
「おかみには悪いが、普通泥棒と爆炎とくりゃ、
 火事場泥棒が真っ先に思いついちまってな……」

エンエンラ
「カマドだけでも手を焼いているのに、二人も追加なんて。
 こうしちゃいられない。私は暫く町の方に滞在するよ」

キンシロウ
「すまねえ。もし二人の狙いが判ったら連絡する」


──エンエンラが去って


キンシロウ
「ゴエモンも所詮ただの悪党。……だが、その一言で片づけていい程浅い馬鹿でもねえ。
 頼むぜ……。おかみの信頼を裏切らねえでくれよ……」


──二人の話し合いの続き


サイゾウ
「よし! 作戦は決まったな!」

ゴエモン
「おうよ。ま、作戦ってほどの事でもねぇが」

サイゾウ
「俺とゴエモン、お互いの得意をぶつける!!」

ゴエモン
「オマエが爆炎しまくってる間に、オレ様が盗る」

サイゾウ
「「火事場泥棒作戦!!!!」」



◇4話◇

──町 とある蔵


サイゾウ
「よーし! 準備出来たぜ! 完璧じゃねぇか!」

サイゾウ
「(こいつでドカンッとすりゃ、全員腰抜かすぜ。
 ……まあ、ちょっと燃やしすぎちまうかもだが、爆炎使いの俺には丁度いいだろ!)」

サイゾウ
「はやく全部ブッ飛ばしてぇなぁ!」


──町 とある甘味処の裏手


ゴエモン
「(おーっと、見つけた。
 ネズミの情報もなかなか役に立つじゃねぇか)」

ゴエモン
「(こいつらが全部手に入るつーと、たまんねぇなぁ!
 特にこれは相当な値打ちもんだ)」

ゴエモン
「何があってもオレ様がぜってー持ち帰ってやるよ!」


──町 大通り


キンシロウ
「この町にいるって情報が入ったは良いが、あいつらどこに……」

エンエンラ
「キンシロウ! 上から見てたけどそれらしき人物はいないよ」

キンシロウ
「こういう時だけはコソコソしやがって」

エンエンラ
「忍だから、それが正しいんだけどね……」


────爆発音


エンエンラ
「何事!? これ、ボヤじゃなくて火薬の匂いだ!」

キンシロウ
「くそっ! あいつらマジでやりやがったのか!?」

エンエンラ
「キンシロウ! 上を見て!」

キンシロウ
「上って……」

エンエンラ・キンシロウ
「花火!?」


──何発も花火が打ち上げられている


キンシロウ
「そうか、これが陽動だ! きっとサイゾウの仕業に違えねえ!」

悪霊壱
「ナンダナンダ」

悪霊弐
「トリヒキ ハ ドウナッタ」

悪霊三
「アレハ英傑ダ!!」

エンエンラ
「あれは悪霊!?」

キンシロウ
「くそっ! 厄介事が次から次へと。
 まずは町民の安全が第一だ。
 俺はこっちをやる! エンエンラはそっちを頼む!!」

エンエンラ
「任せて! 皆あっちへ逃げて! 落ち着いて! 大丈夫だよ!
 ……さて、君たちはこれ以上先へは行かせないよ」

キンシロウ
「チッ! 数がいねえようなのは幸いだったが。
 それにしてもこの花火の数はなんなんだよ! 多すぎるだろ!!」

キンシロウ
「(中止になった花火がここにあったんだな。
 くっそ。悪霊さえいなきゃ、とんでもなくキレーな花火が見られたってのによ!)」

エンエンラ
「こっちは終わったよ。そっちは?」

キンシロウ
「これで最後! だ!!」


──悪霊討伐完了


エンエンラ
「花火……綺麗だね。これだけ大きいならきっとぬしにも見えてるね」

キンシロウ
「おかみか……。じゃあ、まさか!!」

ゴエモン
「お! やっぱりいるじゃねぇかキンシロウ。待ってたぜ。
 エンエンラも丁度いい。
 盗まれちまったお頭のモン運ぶの手伝っちゃくんねぇか?」

エンエンラ
ぬし……?」

キンシロウ
「おかみの物だと!?」



◇5話◇

──花火の後の拝殿

ゴエモン・サイゾウ
「「おかしら! (と、師匠)」」

サイゾウ
「どうだ師匠! おかしらの憂いを晴らして、笑顔にもしてやったぜ!」

ゴエモン
「いつも自分が一番と思ってっと足元救われるぜ。”師匠”」

ゴエモン・サイゾウ
「「まだ俺(オレ様)が半人前だって言えン(る)のか!!!!」」

モモチタンバ
「…………は?」

サイゾウ
「いや、は? じゃなくって……」

ゴエモン
「なんだ師匠、オレ様の活躍に顎でも外れちまったってか?」

モモチタンバ
「全くもって意味が判らん。……頭は大丈夫か」

ゴエモン
「(こそこそ)おい、師匠に言ってねぇのか。
 爆炎中の前口上、宣戦布告。オマエそういうの好きだろ。
 折角オレ様が譲ってやったのにやってねぇってこたねぇよな?」

サイゾウ
「(こそこそ)テメェこそ、長ったらしい口上好きだから、
 てっきり師匠にもさっさと言ってるもんだと……。
 だから俺は遠慮してやって黙ってやったんだぜ」

モモチタンバ
「成程……。貴殿らの事情は理解した。
 俺の件はひとまず置いておき、まずは主殿からのお言葉を賜ろう」

独神
「二人ともありがと。悪霊まで倒してくれて本当に助かったわ」

ゴエモン・ダイゾウ
「「おかしら……!」」

独神
「花火見たわよ。とっても良かった。
 中止になって残念だって言ってたの覚えてくれていたのね」

サイゾウ
「そりゃ俺はおかしらの忍だからな。
 悪霊退治以外もやってこそ。このくらい当然だっての」

独神
「盗難にあった蔵に私の荷物が入っていて困ってた事、まだ誰にもお願いしてなかったのに。
 知っていて取り戻してくれたのね。本当に助かったわ」

ゴエモン
「餅は餅屋。泥棒は大泥棒に、ってな。
 おかしらの心を他の泥棒なんぞに奪わせはしねぇさ」

独神
「本当にありがとう。
 ……私から、二人に……はい、どうぞ」

ゴエモン・サイゾウ
「「うん?」」

ゴエモン
「せい」

サイゾウ
「きゅう」

ゴエモン・サイゾウ
「「しょ」」

独神
「突然の花火でしょ、悪霊でしょ、泥棒でしょ?
 方々から多種多様の苦情がきてね……。
 被害を界貨に換算するとそのくらいになるわね」

ゴエモン・サイゾウ
「「  」」

独神
「人助けなのだからお金の事を気にして躊躇うなんてあってはならない事よ。
 それにあの花火も泥棒の件も、助かったって言って下さる方が沢山いたわ。
 ……でもすこーしは協力してくれると嬉しいなって」

サイゾウ
「少しって……いや、結構スゲェ額だけどよ……。
 ンー……まあ、余所からの依頼を何件かやれば……」

独神
「ううん。外で稼がずとももう手元にあるでしょう?」

サイゾウ
「手元ぉ? いや、手持ちの火薬が尽きただけで増えたモンなんて全然……。
 なあ、ゴエモン」

ゴエモン
「……」

サイゾウ
「ゴエモン……?
 あぁーーー!!! さてはテメェ!!!!」

独神
「そういうこと。
 あなたがチョロまかした金品のいくつかを、
 然るべきところへ持っていけばこの件は終わるの」

ゴエモン
「……イタタタ。急に腹が。
 これにて御免!」

サイゾウ
「なっ!? クソッ!
 おかしら、悪ぃ! すぐ連れ戻すから! 待っててくれ!!」

モモチタンバ
「……馬鹿者共め」

独神
「独り立ちしたって、可愛いお弟子さんなんじゃないの?」

モモチタンバ
「弟子かどうかはもはやどうでも良い事。
 あるじ殿にお仕えするならば、相応の実力があるかどうか。
 重要なことはその一点のみ」

独神
「ははっ、厳しいね。
 でもあなたから見ても少しくらい良い所はあったでしょ?」

モモチタンバ
「……無理に褒めるとするならば、
 どちらも日々のあるじ殿に目を配り、お考えに寄り添ったものを自主的行った事だ」

独神
「じゃあ花丸だ」

モモチタンバ
「落第だ。このような事は最低限の事、出来て当たり前だからな」

独神
「(そうやって妙に厳しいのは、それだけ二人には目をかけてるってことじゃないのかしら……?)」


──おわり