昼過ぎ、食事が終わり眠気が纏わりつく時間。私とビャッコは木陰でそよ風に吹かれながらぼんやりと過ごしていた。
最初は隣に座って雑談をしていた。
次に私の膝枕で横になっていた。
そこから身体を起こして、私を自分の身体の前で抱きしめた。
まるでぬいぐるみのようにぎゅうぎゅうと抱きしめられるが、嫌いではなかった。
ただ、偶にすんすんと頭の匂いをかがれるのはあまり好きではない。臭くて気になるのかと聞けば、特に意味はないといつも返す。同じ返答ばかりなので、私もだんだんと諦めるようになった。
抱きしめられていると、よくお腹を触られる。英傑達のように鍛えていない私にはつまみしろがあるので、きっと楽しいのだろう。体型のことはあまり気にせずしたいようにさせている。
頭のてっぺん辺りに、自分の額を擦ってくることもある。多分動物的な行動だろう。と、思って毎回好きにさせているのだが。
「どうしたの?」
ベタベタされるのは構わないのだが、もう少し大人しくならないものかと思い切って尋ねてみた。ビャッコは少し困った顔をしていた。
「嫌……だったか?」
巨体を縮こまらせて顔を覗き込むので私は目を逸らした。可愛い。
「ううん。気になっただけ」
ふんわりと濁すと、頭上で悩ましげな唸り声をあげていた。喉の震えが身体の奥に響く。
「先生知っておるか。虎というやつは二日で百回程度交わる」
まじわる?
私は「まじわる」と頭の中で呟いた。まじわるまじわるまじわ────
「えっ!?」
一日に五十回!? 一時間に二回以上!?
命がけの交尾である。身体がもつのだろうか。
それより今ビャッコがここで虎のことを出したということはつまり……。
回数の多さに身体が硬くなった。
「心配せずともワシは霊獣故そんなことはない」
安堵すると小さく笑い声が漏れた。
「三日で二百くらいだ」
「増えてる!?」
「いや、一日十回くらいだったか」
「それくらいなら……って! 揶揄ってるでしょ!」
真面目に自分の身体と負担を秤にかけて考えていたのに。出来るだけ希望を叶えられればと模索していたのに失礼だ。
面白くないと黙り込むとビャッコの掌が腹部を大きく撫でた。
「だがその気になっているのは本当だ。誇り高き霊獣が仕える主に手を出すなんぞあってはならぬこと」
ビャッコの鋭い爪が袴の結び目を引っ掻く。垂れた帯の端が少しずつ解けているように見える。
「先生……。駄目か?」
後ろからの力強い抱擁が私の心をかき乱す。甘えた声が耳に絡みついて離れない。
「……駄目」
背後で肩を落としているような気がした。でも私は立ち上がって、ビャッコに振り返った。
「ここじゃ安心できないでしょ。とりあえず二人になれる所へ行こう」
「先生!」
ビャッコが目元に皺を作って大喜びした。
「そうはさせませんよ」
ビャッコの肩にめりめりと指が食い込んでいる。吹雪のように冷たいゲンブの声が私たち二人の熱を下げていく。
「……見逃したりは」
「しません。今日は私と見回りですよ」
巨大な白猫が亀に連れられて行く様子を、私は見送る事しか出来なかった。
(20210926)
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【あとがき】
ビャッコは動物的だと思う。絶対に白虎モードがある。その方がロマンがある