寝顔すら、見たことはないけれど


「はぁ!? じゃあ私一人でやってやりますけどお?」
「大口を叩く前に結果を出せ」
 
 独神とハットリハンゾウは睨み合いの末、同時に背を向けて立ち去った。
 周囲の英傑達がぼそぼそと言葉を交わす。
 
「またやってるよ……。主をあれだけ怒らせられるなんてどういう才能してんだよ……」
「それは主様も……。ハンゾウと毎回喧嘩して飽きないよねー」
「あの様子じゃ俺たちが手伝ったら八つ当たりされるな」
「くわばらくわばら。他の奴にも言って近づけさせねぇようにしねぇと……」
 
 かっか、かっかと頭から湯気を出しまくっていた独神。
 見兼ねたお伽番が、後は自分がやるから倉庫へ行ってはどうかと促す。
 ここで行っては、まるで自分が雰囲気を悪くしているもので、正直な所行きたくはない。
 しかし実際その通りである為、「判った。……ごめん、気を遣わせて」と言って、自身がうっかり仕舞ってしまった手紙を探しに倉庫部屋へと足を運んだ。
 
 倉庫部屋は八畳で、本殿の規模を踏まえるとそれほど大きな部屋ではない。
 紙での伝達が主な八百万界では、日々大量の紙が本殿へ届けられるが、その中から選りすぐった真に重要なものだけがこの部屋に収められている。火事が起きれば一巻の終わり……ではなく、当然ながら人力による記憶、自然物を用いた記録、呪術による記録術を用いている為、この部屋がどうなろうと大体どうにかなる。
 
 自力で見つけてみせるとハンゾウに豪語してしまったので、棚に敷き詰められた紙類の中から探さねばならない。非常に面倒な作業。英傑の手を借りたい所だが、ハンゾウのそれみたことか、と嘲りの顔が脳裏を過ると奮起して作業に勤しめるのであった。
 
 一箱取り出しては、紙を一枚一枚確認して、確認を終えると箱に戻して、棚に入れる。二箱目が終わり、三箱目にかかった頃、突然部屋の引き戸が開かれる。鍵をしていたのに何故、との疑問は現れた者を見て晴れた。
 
「……なに。もうすぐ見つかるから黙って待っててよ」
 
 苛立ちを露わにしながら、次の箱を取り出そうとすると阻まれた。手を放すと箱が元の棚に戻される。
 
「……何がしたいの」
「少なくとも紙切れを探す事が目的ではないな」
 
 唐突にハンゾウは独神の両肩を掴んで壁に押し付けた。まだ状況を理解していない独神の唇を奪いながら、両手は身体を這い独神の袴の結び目を解いた。ほんの数秒の出来事である。
 「あっ」と声を漏らした時には袴は既に床板の上に蛇腹状になっていた。
 
「え、え?」
「外はナバリに見張らせてある」
「そうじゃなくて」
「時間がない」
 
 疑問しかない独神の唇をもう一度塞いで、抵抗しようとする手も重ねて抑えつけた。裾避けを片手で器用に解いていくと、瞬く間に独神の白い素足が露わになる。瞬時に内股に力を籠めるも足を差し入れられてしまった。その後、どうなるか……。想像に難くない。
 独神は抵抗を止めた。
 これが暴漢ならば相手がどんな巨漢であろうとも、牙を剥き続けただろう。
 しかし、相手は心を寄せている人だった。しかも、相手からも同じく想いを寄せられている事を知っている。
 とどのつまり、二人は恋人であった。
 
「痛くするならしたくない」
「……承知した」
 
 手の拘束を外し、軽い口付けを重ねた。か弱い音をたててお互いに瑞々しい唇の柔肉に吸い付いた。
 
「……んんっ」
「声を落とせ。ここへ近づかないように仕組んだとはいえ絶対ではないのだからな」
「判ってる。だったら、もうちょっと」
「もう少し……どうしろと?」
「なんでもない」
 
 頬を赤く染めて口を閉ざす。ハンゾウは表情を和らげた。

 独神とハットリハンゾウは不仲である。
 これは本殿の全英傑の知る所。
 だが、これは表の関係。
 実際の所、独神は身体を許す程度には好いていて、ハンゾウもまた仕える主に手を出す禁忌を犯す程度には好いている。

 二人は自身の立場と感情を秤にかけた末に、特別な関係を結ぶに至った。
 決して軽い気持ちではない。
 主従関係にある二人にとって、この関係は秘密にしなければならなかった。
 二人きりで会うにも理由を捻出する必要があり、先の喧嘩もそのひとつである。
 ただ演技では察しの良い者に気付かれてしまう。
 だからいつも独神は本気で怒り、ハンゾウは全力で煽っている。
 人目がなくなってようやく、二人はただの男女になれた。
 
「そろそろいいな」
 
 ハンゾウの手が下肢に伸びた。密着した割れ目を指でなぞるだけでも粘っこい音がする。独神は気恥ずかしさを口内を噛んで耐えた。ハンゾウが口付ける。
 
「……噛むな。俺はあるじの身体に傷をつけたいわけではないのだから」
 
 みだらな羞恥心とは別の、未熟で溌剌はつらつとした恋心が嘘くさい優しさにどぎまぎする。
 こういう時だけ、ハンゾウは独神に優しかった。嫌味もなく、異常な煽りもなく、独神の弱音も我儘も卑俗も全て受け入れた。そういう変わり身の早さに独神はまだ慣れなかった。
 普段の罵倒が演技なのか、本音なのか判らない。時には本当に傷つく事もある。それを別の誰かに慰めてもらった時さえあった。

 偶に、空しくなる。
 普段から優しくしてくれたって良いじゃないか。
 ふと見た時、ハンゾウが少しでも誰かと任務外のやり取りをする姿を見ると、猛烈に嫉妬した。そしてすっと冷めていく。
 「私達ってなんなんだっけ」と判らなくなる。
 二人きりになれた時だけ、ハンゾウが従順になるのが、嬉しいようながっかりするような。
 
あるじ、少し開けるか」
 
 さっきまでむりやり足でこじ開けていたのが嘘のように、独神の顔色を伺った。独神が少しだけ足を緩めると、その隙間からハンゾウの指が侵入し、小さく膨れあがった突起を撫でた。
 
「十分濡れている。だが、嫌な時は言え。やり方を変える」
 
 包皮に護られたままであっても、男の指が触れた事実に声を漏らす。傷を重ねて硬く太くなった指に何度も擦られては、全身が女になって疼いた。
 
「やっ、ハンゾウ、わたし」
「手を回せ。支えてやる」
 
 独神はハンゾウの首へと腕を回し、よろめく身体を支えた。特殊繊維で編まれた網状の装束がごろごろと肌を擦る。
(ナバリの特等席に、今、私がいるんだ)
 ハンゾウの両肩を陣取る猫も今は外で単独任務にあたっている。さぞかし不満だろう。
 二人の逢瀬の際にはいつも見張り役として外に出されてしまう巨大な黒猫を思うと、少し申し訳なくなった。
 
「あっ、いっぱいはだめ」
「貴様、別の事を考えていただろ。どの英傑だ」
「ちがっ。ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
「そんなに余裕なら平気だな」
 
 指は独神の奥へと突き進み、ぬかるみを貫いた。肉壁の狭間を何度も指で擦っていくと独神は一層高い声をあげてハンゾウの身体に体重を乗せた。
 指を増やしても難なく飲み込み、下腹部の刺激に耐え忍ぶ独神を見て、ハンゾウは忍の装束を僅かに乱し、膨張しきった己を取り出した。
 
あるじ、壁に手を付け」
 
 こくんと頷くと、言われるがまま白壁に両手を付いた。詳細を言われずともやることは知っている。何も纏っていない臀部を男の前に差し出し、じっと待つのだ。
 所々埃が引っかかった壁を見ている間に、腰が掴まれ、花芯の中に男根がずるりと入り込んだ。
 
「抵抗なく入っていくな」
「うっさい。ばか」
「……痛くするなという命は守っただろう」
 
 十分に潤った泉の中へ、欲をたらふく溜めた棒がゆっくりとした動きで行き来する。独神は声を呑み込みながら、重力に隷属する胸を揺らした。先端は既に硬化し半襦袢を引っ掻く。
 勇猛な英傑をまとめて平和を願い続ける聖人とされる独神は、秘めた欲の奥底を貫かれ、子に与える為の胸の膨らみを千切れるほどに前後に揺らして、湿っぽい息を吐いた。
 一人の男にただ犯されている女。
 与えられた性の刺激に悶え、悦び、際限なく快楽を求めた。
 自分の全てを理解し受け入れて欲しい相手に、一切を隠さず晒し差し出した。
(ハンゾウも、私で気持ち良くなってくれれば良いな)
 溢れた愛液が足を伝う事も構わず、独神はハンゾウに与えられる刺激を少しも逃すまいと意識を集中した。
 後ろにいるので顔は見えない。欲棒の動きと僅かに聴こえる呼気だけが判断材料。部屋に充満した男の気配を存分に感じることは、独神にとってこの上ない喜びだった。

 ハンゾウは持ち前の洞察力で独神の喘ぎ一つ一つに気を配り、何処が好いと聞く必要もないほど的確に高みへと誘った。
 このままだとすぐ達してしまうかもしれない。独神は快楽から頭を引き離し、ハンゾウに体勢の変更を頼もうと「ねぇ」と声をかけた。
 途端に動きが止まる。
 
「判っている」
 
 ハンゾウは独神から自身を抜き、独神に自分と向き合わせた。
 二人の目が合う。
 ハンゾウは頬を手で包んで口付けた。火照りきった身体に反して、ただ触れるだけの子供のような口付け。
 
「……いいか?」
 
 独神の心に尋ねた。胸を締め付けられた独神は「……はい」と返すのが精々だった。自身の快楽に没頭するのではなく、自分の事を考えてくれた事が嬉しかった。
 
「持ち上げるからしっかり掴まっていろ」
 
 独神がハンゾウに抱き着くと、足裏に手を入れられ開脚したまま浮上した。不安定な体制によろけ手に力が入る。少しずつ身体が下がって、さっきまで入っていた反り立つモノが蜜口に入り込んでくる。
 
「……うっ……ん」
「痛みは」
「ないよ、だいじょうぶ」
 
 それからはまたハンゾウの操られるままに突かれた。物のように扱われる今、独神の意思はどこにも反映されない。操る者の好みの位置で速さで深さで貫かれる。
 だが嫌いではなかった。
 ハンゾウは交わる時は基本的に自分よりも独神の意向を重視した。
 独神が今ここで、出すなと命じれば独神だけを悦ばせた挙句に耐え抜くだろう。一年お預けと無茶を言っても「御意」と言うだけで反抗すまい。
 ハンゾウは普段の態度からは考えられないが非常に献身的だ。それを判っている独神はハンゾウが何をしようと安心して身体を捧げられた。
 この人は自分を不幸にしないと、自信を持って言える人だった。
 
「あっ……うん? 重い? やめる?」
「いや」
 
 ふいに動きを止めたハンゾウが半襦袢の紐を解くと、襟の合わせが乱れて胸の谷間が露わになった。襟を左右にめいっぱい開くと、膨らんだ胸と汗ばんだ皮膚に阻まれてぴたりと張り付いた。つんとたった先端がハンゾウに向く。
 
「なんでこっちまで。そんなに見たいの?」
「……悪かったな」
 
 口を尖らせてふてくされたように言うハンゾウに独神は真っ赤になって、
 
「……っあ。じゃあ……どうぞ。お好きなように……」
 
 鼻を鳴らしたハンゾウは子壺を突き上げた。最奥を貫くのに合わせてゆさゆさと揺れる胸に舌を伸ばす。赤子が咥えるべきものを丁寧に舌でなぞって吸い上げる。独神は天井を見上げて声をあげた。部屋の外に漏れたかもしれない、一鳴き。
 
「っあう、ごめんなさ、んっ……ちゃんとがまんする、ごめんねっ、」
 
 咎められなかったが、ぐりぐりと蜜口を掻きまわされた。じわじわと腰回りに広がる疼きに歯を食いしばって耐えた。三百六十度広がる内壁を棒の先端で押し、穂先で中を引っ掻いた。
 焦らしたような刺激の波が延々と続く。
 露わにされてしまった胸も、ハンゾウの口による奉仕で刺激が続いた。
 しこった先端は舌で押し潰され、舌先で引っかかれ、甘噛みされる。
 「だめ」「むり」「いや」と何度独神が言おうとも、上も下もいやらしい刺激が止まなかった。
 
 「もっと」「きもちいい」「して」が独神の言葉の裏に張り付いているのをハンゾウも理解していたのだろう。
 ハンゾウが刺激を与える度に、切なさに震える蜜壺がきゅうきゅうと締め付け、止めどなく潤滑液を流した。
 もっと筋の浮いた肉の棒で奥の奥まで暴いてくれ。早く達したい。高き所へ導いて。早く早く。
 じんじんと痺れた乳頭が、みちみちと締め付ける肉壁が伝えていた。
 言葉は要らない。身体は貪欲に求めていた。
 
「は、んぞっ……やだ……こんなの、ずるい、おかしくなりそう、いや、きらい」
「ならば終わらせてやるから掴まっていろ」
 
 うんうんと頷くと、独神が欲しがっていた強い性の刺激が割れ目の奥から身体中へと広がった。
 ハンゾウは細身の身体ながら力があり体幹も良いことから、不安定な姿勢であろうと独神の求めには全て応じた。欲しい欲しいとの溢れる欲を満たして満たして満たしていく。
 もう無理だった。耐えきれない。独神の熱くなり切った身体が収束しようとしていた。
 
 独神は駄目で元々と頼んだ。
 
「ゆかじゃだめ? もっとちかくがいいの。おねがい」
 
 立った体勢が続いていたのには理由がある。床での行為が床板を伝わって部屋の外に通じるからだ。敏感な者の多い本殿では床の響きだけで異常を感じ取るだろう。だから正常と言われる体勢は避けていた。
 この関係を守るために。
 
「……待ってろ」
 
 名残惜しそうにずっと抱き続けていた男のモノを女は放した。ハンゾウは蕩けた顔の独神に口付けると、身体を床に下ろした。
 
「……あるじはこれで良いんだな」
「ありがと」
 
 ハンゾウは少し乱暴に独神の中に自分を入れると、だらしなく投げ出されていた指を絡ませた。一本一本がお互いを掴み、もう二度と離さない、離れたくないと言うように。
 肉と肉が打ち合う音の中で、声を出せない二人の荒い息だけが響いた。
 独神は好い所を貫かれる度に声が出そうになる。
 しかし唇に力を入れてこれを抑える。本当は出したいのに、毎度ぐっと堪えている。
 耐えるばかりで泣きそうになった。
 本当はこうやって隠れてしたくない。好きな態度を抑えて険悪なふりをしたくない。
(好きな人と好きな事してなにが悪いの……)
 
「……」
 
 ハンゾウが胸元を吸った。長く長く同じ場所を吸い続けた。
 ちゅっと鳴ると、握った手を放して両手で胸を揉みしだいた。
 指先は先端を弄び、それ以外の指と手のひらで揉まれる。
 
「な、んでまた」
あるじは好きだからな」
 
 それは本当だった。伊賀の組頭ともあろう者が乳房に顔を寄せて、柔らかな肉体に喉を鳴らす所作が好きで。
 
「っ、だめ、もたない」
「緩急をつけろとの命か」
 
 違う。でも合っている。
 敏感な先端を指の腹に摘まれていると締め付けてしまう。責め苦から逃れようと床に腰をぐりぐりと押し付けては、情けない鳴き声をあげた。
 いってほしくて、いかないでほしくて、でもどうしたっておわりはあって、おわらせたくて。
 下から見上げていたハンゾウの顔が近づいて、互いに舌を絡めた。胸にのしかかる男の体重に悩ましげに喘ぐと、肉壁は一層男に噛み付いた。弾けた情に腰を浮かせ、ほんわりと意識が緩む中、ハンゾウは己を引き抜くと独神の口にねじ込んだ。吐精を受け、唇で扱くとねっとりとした異臭が鼻を突き抜け、喉の奥へとどろどろと流れていった。
 棒の付け根から指で押し出し、最後まで白濁液を出し切ると独神は自分を犯したモノを丁寧に舐め上げた。
 交わりの証拠を体内に隠してすぐ、ハンゾウはまず独神の服を整え始めた。
 
「……余韻なんてあったものじゃないね」
 
 激しさを伴うけだものの情欲は今、身体の中心に広がる穏やかな幸福へと変化していた。
 
「あられもない姿を見られて困るのは貴様の方だろ」
 
 ハンゾウに着付けられるがまま。気だるげに言う。
 
「ねえ。胸。痕つけちゃ駄目じゃん。気づかれちゃうよ」
「教えてやれ」
 
 思いもよらぬ言葉に独神は顔をひくつかせた。
 
「お互い支障をきたすからってあれだけ」
「批判には、全てはハンゾウによるものだと言って俺に振れ」
 
 ハンゾウはふざけてなどいなかった。真剣に見据える姿に思わず笑ってしまう。
 
「どういう心境の変化?」
「別に。あるじをコソコソ犯すことに飽きただけだ」
「言い方!」
 
 独神は可愛くない自分の忍に呆れ返った。
 でも、判っていた。
 そういう事ではない事を。
 独神は袴に片足だけを引っかけて抱き着いた。
 
「おい。身綺麗にしてからにしろ」
「だって、今抱きつきたいんだもーん」
「見られても知らんぞ。俺は」
 
 判りやすく溜息を吐いてみても、独神は擦り寄ってくるだけ。
 ハンゾウもまたされるがまま、始終穏やかな笑みを浮かべていた。
 
あるじ。我が最愛の人」


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…


ハンゾウに対しては甘えがあって、好きと言いながらも作品をあげることはなかった。
懸命に腕を掴んだり、追いかけたりしなくとも、必ず傍にいるだろう。と、思っていた。

色々あって、この世界は三度目の死を迎える可能性が濃厚になってきた。
一度目の死とは、原作ゲームの終了。
二度目の死は、中華版の終了。
三度目は……公式による、創作禁止。

一度目と同じく、三度目の死の宣告がいつになるかは判らない。
明日かもしれない、一年後かもしれない、ずっと訪れないかもしれない。

しかし再び、あの気色の悪い死の香りが纏わりついてくるようになった。
であれば終焉が来る前に、書けるだけ書いておこう。
とある妖怪にかまけて後回しにしてばかりいた、ハンゾウのことを書いてみようと思った次第だ。

今回の話はなんとも汚い描写が目立つ。
性を貪る姿はなんとも醜い。汚らわしい。

しかし、全てに対して「汚い」と思っているわけではない。
「汚い」ものでも、「綺麗」に見える事は多々ある。

私は物理的な汚れの話をしているのではないのだ。
汚いものは沢山あるが、それでも美しさを放つものが僅かながらある。
神の加護を与えられたわけでもない、その辺の人間たちが芸術の域に達した美しさを見せることはある。

この世に綺麗なものはないと、吐き捨て断じる事は簡単だ。
いいや、探せばある。その一瞬を見過ごしているだけだ。
見る前に決めつけて視界を覆ってはならない。
見ようとしなければ何事も見えてはこない。

今回の話は汚らしい。
だがそこには他人を求める愛があり、相手を案じた思いやりがある。
汚いの中にも綺麗はある。
一見するだけでは判らない美しさがそこかしこにある。
そんな綺麗なものを掬い上げていきたい。


『この醜くも美しい世界』とは、そういうものではないかと思った。