血と蜜


 あ、お風呂に入ってない────。
 明かりをつけ忘れた部屋で独神はふっと思い出した。
 入浴に必要なものは寝着と下着で、後は浴場の方に備え付けてある。女性英傑の殆どが専用の石鹸を持ち込むのだが、独神もその一人である。風呂で汚れを落とし、自分好みの香りに包まれることで気持ちが安らぐ。必需品だった。しかし昨日使い切ってしまい今日は新しいものを持ち込まなければならないのだが探す気力はない。
 途端に浴場まで歩く事が面倒に思えた。このまま就寝して朝入浴をする事にする。
 ところがあげた蒲団の前で立ち尽くしてしまった。腕力のない独神は厚い布団を敷くのには少しだけ気合を要する。なので今度は蒲団を動かすことが面倒に思えてしまった。
 溜息をついた独神は部屋を出て、隣接する執務室で机に向かった。机上はここ数日の戦の情報で散乱している。独神が荒々しく手で払うと紙はすいすいと床下へと滑り落ちた。頬杖をついて障子越しの月明りを見た。度々雲に隠れるので障子は明暗を繰り返した。そこに人影が映った。

「独神ちゃん」

 独神が促すと現れたのは長身の忍だった。フウマコタロウだ。
 すると突如その場に跪き頭を床板に擦りつけた。

「抱かせて下さい。または抱いて下さい」

 独神はぎょっとした。突拍子もない申し出に困惑するばかりで

「……いや、そんなこと言われても……」

 と返すのがやっとだった。だがコタロウは語気を強めた。

「お願いします! 一生のお願い!!」
「一生って、そんな子供みたいな」
「……代わりに、今回の戦の先陣は任せて」

 ぼそっと囁いた言葉に独神は苦虫を噛み潰した。独神が今喉から手が出る程求めているものを、あっさり差し出してみせると戯れを言う。

「死ぬ前の望みに私? 許可してもらえると思ったの?」

 冷笑を浮かべて揶揄すれば、コタロウは面を上げて人懐こい笑顔で言うのだ。

「でも困ってるんでしょ」

 図星である。英傑の命を投げうって得た戦果など要らないとはっきり言えたならば良いのだが、今の戦況は著しく劣勢であった。

「僕は死ぬことは怖くないし、独神ちゃんの役に立てるならこんなに嬉しいことはないよ。でも……最後くらいは本音を言っておこうかと思って」

 小さく深呼吸をして独神を真っ直ぐに見据えた。

「こんなに誰かを好きになったことはないんだ」

 逸らしてしまいたいのに、

「未練を感じたのは初めてなんだよ」

 顔を歪めながらも視線を全て受けてしまった。普段お茶らけてばかりで本音を見せない忍が晒した心を無下には出来ない。例えその申し出が受け入れがたくとも。

「……私、そういうことしたことないし……コタロウを満足させるのは無理だよ」
「僕が優位でなくても良いんだ。独神ちゃんがやりやすいなら、いくらだって首を絞められてあげるし、殴ってくれていいし、何をどこに突っ込んでも構わないよ。どんなやり方だって大歓迎」

 未経験であれば手心を加えてくれるかもしれない。別の要望に変えたり、そもそも捨て石になることを考え直すかもしれない。
 そんな甘い期待は泡と消えた。
 なりふり構わず捨て身でやってきている。

「僕は処理がしたいわけじゃない。判らないままの独神ちゃんを最後に少しだけ知りたいんだ。そして気持ちよく死なせて欲しい」

 不動の覚悟に対し、独神は子供のように首を横に振った。何度も振った。

「いや。やらない。行かないで。今だって打破する方法を考えてもらってるの。知ってるでしょ? だから先走らないで。やめて。余計なこと考えないで。早まらないでよ」
「作戦部への交渉は済んだ。僕を使って確実に勝つ策が出た。あとは独神ちゃんが許可を出すのを待つだけの状態だ。もしここで出さないならどんどんひとが死ぬだろうね~」

 独神が頭を抱えている事実を容赦なく突き付ける。

「何百人じゃないよ。何千人何万人の命がかかってる。で、も、僕を使えば全員助かるよ」
「数の問題じゃ」
「数の問題だよ。それだけいれば子は増やせる。再建は十分可能だ」
「いや。待って」
「待てない。今決めるんだ」
「脅さないで! 寄ってたかって私に詰め寄らないで! 英傑を犠牲にして得る平和なんてまやかしだよ!」
「おかしなこと言うね。僕を使うことこそ英断だ」

 ────やだ。
 掠れた声で懇願する独神を侮蔑混じりに笑った。

「……独神ちゃん。みんなを待たせてるんだからさあ」

 外濠は全部埋められた。詰んだ。
 一人以外が救われる。それを捨て石本人を含む全員が納得している。英傑を統括する独神が取るべき道は決まっている。ここで否と声高に主張しようとも通らないだろう。通ったところで犠牲が多ければ世論は反独神へと転がり、今後の活動に支障が出る。そうすれば八百万界は滅びる。独神以外の勢力が悪霊を抑えることは現状無理だ。
 独神は、また一つ自分を捨てた。捨てさせられた。
 英傑だけは絶対に守ると思っていたのに。平和になるその日を全員で迎えよう。ずっと描いてた未来はここで無用の夢と化す。

「……脱げばいいの?」

 腹を括ったとはいえ積極的に協力する気はない。投げやりに尋ねた。

「そうだけど大丈夫? 自分で脱げる? 脱がした方がいい? 剥かれた方が言い訳出来るよ」
「……」

 独神の動きが止まった。
 コタロウと肌を重ねたくない。八百万界の犠牲にもしたくない。
 独神は提示されたものをどれも望んでいない。
 言い訳をさせてくれるくらいなら、最初から身体なんて求めてくれるな。
 独神は屈辱感に打ちのめされていた。飲み下せない感情を口に出さないことで自分を保っていた。

「……ごめん。僕が脱がすよ。最初から全部脱がさないようにするから。その方が少しは安心できると思うんだ。まあ僕に襲われる時点で独神ちゃんは不安と嫌悪しかないだろうけど」

 独神は黙り込んだまま目を伏せた。

「……待って欲しい時は言って」

 フウマコタロウが袴の結びを緩めた。

「いや、上からの方がマシか」

 中途半端に緩んだ結びに支えられた白衣を引き出していると、「あっ」と声を上げた独神が胸を抑えた。コタロウがぱっと手を退くとずるずると緋袴が落ちて蛇腹状になった。健康的に膨らんだ太ももの白さが薄暗い中でも映えた。

「そりゃ恥ずかしいよねー、しょうがないねー……」

 独神は背を丸めて固まっている。唇を噛みながら堪えていた。

「大丈夫なんて言えないけど、……ごめんね」

 コタロウは立ったままの独神を無理やり床に座らせた。素足には木製の床は固く冷たかった。石像のようにじっとしていると、コタロウが近くに重ねてあった座布団を持ってきてその上に座るよう促した。座る事に意味はない。どうせ全て脱がされてみだらな姿にさせられるのだから。
 だがわざわざ持ってきたのだからと仕方なく座った。抵抗するほどの気力はなかった。座布団もまだひんやりとしている。緋袴がすぐ近くに転がっていたが、手を伸ばそうとは思わなかった。諦めることばかりを考えていた。

「あ、またタコが出来てる」

 独神の視線が右手に集中した。戦禍が広がっていく苦しみを紛らわせるように書き物ばかりに集中していたせいで久しぶりにタコが出来てしまったのだ。

「爪も手入れ忘れてるでしょ。やってあげる」

 ひょいと独神の手を取ると、小刀を懐から取り出して伸びつつあった爪を切断していった。爪に対して刃が大きかったが危なげなくすいすいと切り落としていく。五本の指を終え、独神は切り口をまじまじと見て感嘆した。

「上手だね」
「刃物には慣れてるから。でもこんなことは初めてだよ」

 もう一方の手もすぐに切り終えた。

「うん。我ながらバッチリだね。足もやっちゃおうよ!」

 座布団の上で折りたたまれた足に触れられ、ビクッと震えた。独神は気まずそうに崩し気味だった足を尻の下に収納した。

「くすぐったいだろうけど我慢してよ。足まで切っちゃまずいよ」

 コタロウは小刀片手に待っている。
 わざわざ今してもらうことではないし気分でもない。
 だがコタロウは待ち続けている。
 気まずくなった独神は手の爪を撫でた。切断面に触れても引っかかりがない。
 もしかするとコタロウは今、日常が欲しいのかもしれない。
 となると、いつも通りに接してくれるかもしれない。
 独神は疑いつつも少しだけ信じることにした。再度足を崩し、コタロウの前に爪先を伸ばした。白衣の裾が少し長いお陰で足の付け根は見えることがないのも安心した要素の一つだ。

「じっとしててね」

 言われた通り、何も考えないようにじっとしていた。コタロウは職人のようだった。抑える為に足に触れるが不思議とくすぐったくなかった。何も感じない。感覚が鈍い所だけを触れるようにしているのかもしれない。独神は黙って手入れされていた。
 今頃世間では悪霊の侵攻で恐怖し眠れていないだろうに。独神は強固な守りの中で身綺麗にされている。
 こんなことをしている場合ではない。気持ちはどんどん冷めていく。

「我ながら良い仕事した。見て見て!」

 はしゃいで言うのでよく見ようとするのだが、足を伸ばしたままでは遠くてよく見えない。今は月明かりが暗いのも助けている。
 足を引き寄せようとするが、独神は思いとどまった。袴のない状態で足を曲げるとどうなるか。
 独神は「ありがとう」と礼を言うだけにした。

「こんなことした事なかったけど案外やれるもんだね」

 コタロウは自身の仕事に満足したのかまじまじと足先を見ていた。ジロジロと見られ続けることは恥ずかしかったが、どうする事も出来ずされるがまま受け入れていた。
 気まずい時間が流れる。だが見るだけなら良いか。と思い始めた時だった。
 コタロウは小刀を置いて独神の足を一本掴むと頬擦りをした。独神は甲高い声を上げた。

「何!?」
「綺麗だね。この筋肉のない感じ」

 他人の肌が行き来し、時折息がかかる。独神は足の指を丸めてじっと堪えた。
 おぞましい。理解出来なかった。独神も人の足を見て綺麗と感じることはある。だがそれは全体的な調和や己と違って脂肪が少ないことへの賞賛であって、触れて愛でるものではない。腕にはぷつぷつと鳥肌がたった。

「ほんと独神ちゃんは可愛いね……。今の僕のこと蹴りもしないんだもん」
「だって痛いでしょ?」

 嫌ではあるが他人の顔面目掛けて蹴る神経は持ち合わせていない。拒否の言葉を上げるか、耐えるまでだ。自衛の為でも過剰な暴力は控えるべきだと考えている。ましてや一つ屋根の下で四季折々を過ごした英傑になんて。

「……そっか」

 コタロウは寂しげに笑った。

「じゃあ試しに蹴ってみてよ。僕が許可しているなら良いでしょ」
「やだよ」
「じゃあ叩くで妥協してあげる」
「良くないよ。そもそもやめてくれればいいでしょ」
「……はは。そりゃそうかー」

 頬に足を当てながら小さく息を吐いた。
 独神はゆっくり手を伸ばしてコタロウの頭を撫でた。

「触って欲しいなら、こういうのじゃ駄目?」

 コタロウはうんともすんとも言わない。だが大人しくしている。少し可愛く思えた。

「コタロウは大きいね」
「ここじゃ目立たないでしょ。高い方なんだけどさ」
「いつも見下ろされてて怖かった」

 遠目で見るとそうでもないが、目の前に立たれると細身で長身のコタロウは顎を上げて見上げるしかなかった。

「へー。そんなこと思ってたの?」
「ニコニコしてて調子よくて。それも怖かった」
「ふうん……そっかあ」

 コタロウはふふと笑った。その意味は判らない。

「慣れると怖くないって判るけどね。犬みたいだって」
「そうなの? ちなみに犬派? 猫派?」
「猫かな」
「えーーーー。あんな黒猫のどこが良いの?」
「こら」

 伊賀の黒猫は全くの無関係である。それに本当は犬も猫も同等で差はない。猫と答えたのはただ少し、恥ずかしかっただけだ。
 独神が撫でるのをやめるとコタロウはきょとんとした顔をした。だがすぐに納得したかのように身を引いた。いつもとは違って遠慮がちなコタロウに独神は胸元を少しだけはだけさせた。

「……触る?」
「良いの?」

 予想外。だが期待と喜びを滲ませて聞き返した。
 それににべもなく返す。

「良くはない。でもそうしなきゃきっと進まないんでしょ」

 茶番だ。こんなやりとり。
 コタロウが死を受け入れ、独神が報酬の前払いに身体を与えた。
 どんな和やかに過ごそうとも事実は揺るがない。
 まやかしにふと苦しくなる。もう終わりまでいくしかないのであれば早く終わって欲しいと自暴自棄にもなった。
 自分が産魂むすんだ英傑への愛しさを感じてしまうと死地へなんて行かせられない。
 コタロウは少し眉尻を下げて言った。。

「……しなくても出来るよ。ただまあ……痛くない方が良いだろうから……あと慣れる意味でも……。興味も、ないわけじゃない」
「じゃあどうぞ」
「……」

 コタロウはまだ谷間しか見えていない胸を、服の上から指でちょんと突いた。
 その呆気なさに驚いた。

「……えっ、と、もうちょっと大丈夫だよ。実は普段から当たる事が多いから少し平気なんだ」
「わざと当たってきてるんじゃない、そいつら」

 長い指で膨らみを押すのは触診のようで嫌悪感はない。

「やわらかい……」
「比べないから判らないけど、そうなの?」
「別に他の誰かじゃなくて自分と比べてるだけだよ。あ、じゃあ独神ちゃんも触る? 平等でしょ?」

 躊躇いもなく上半身を脱いでいくコタロウにぎょっとする。
 服で判らなかったが身体が華奢に見えるのは肩幅に対して腰が細いからだろう。鍛え上げられた身体には傷跡がいくつも残っている。

「え。触られて痛いとかない?」
「僕、一応風魔流の頭領ですよ? 独神様はお忘れですか?」

 独神が恐る恐る触れる。

「……っ。結構かたい」
「でしょ」

 筋骨隆々の英傑達も多い中では華奢な部類に入るというだけで、一般的には逞しい身体を有している。

「独神ちゃんとは全然違うでしょ」

 飛びつくようにぎゅっと抱きしられ、独神は拒否する間も無かった。

「見て」

 独神が目線を下げると、窮屈そうにしてコタロウの身体に沿って盛り上がっている膨らみが見えた。普段の生活では感じない肉感の生々しさに我が体ながら目を逸らした。

「逃げたって独神ちゃんのいやらしさは変わらないよ?」

 コタロウは頭を下げて胸の谷間に入って頬擦りした。

「っ。待って!」
「どうせ僕は犬と同じなんでしょ?」

 確かに擦り寄り方は無遠慮さは犬と同様である
 独神は恐々と赤毛の大型犬を撫でた。噛みついてこない。

「……犬」
「本当に犬になっちゃおっか。わんわん」

 コタロウは舌を伸ばして胸の膨らみを獣のように舐め回した。独神は奇声を上げた。

「やめて!」
「別に感じてはないでしょ?」
「っあ、汗かいてるから駄目! まだお風呂入ってないんだって!」
「だから良い匂いがしたんだ」

 鼻先をこすりつけながら時折吸い付いて舐め上げる。唇が立てる音のいやらしさに耐え切れない独神はコタロウの両肩を掴んだ。

「やめなさい。ばかばか。ばか犬!」

 そのまま全力で押し返して剥がした。

「……これは、ちょっとくるなあ」

 溜息混じりに漏らすので、独神は慌てて謝った。

「ごめん」
「唾液まみれは流石に興奮するね」
「はぁっ!?」
「自分のでっていうのがね。こんなに理性が揺らぐのは計算外」

 独神の胸には体液によって照り輝いていた。まるでナメクジが這ったようだと、独神は顔を歪めた。

「ちゃんと拭いてあげるって。嫌な顔キッツ」
「ごめん……」

 手拭いで拭われている間は素直に身を委ねた。
 肌にこすりつける手拭いが胸を大きく揺らす。少し気になったが仕方ないと諦めた。
 次第に手拭いは胸の外側の方まで移動し、見間違えではなければ膨らみを包んだように見える。そして独神の感覚違いでなければ……

「コタロウ……なんかあの」
「拭いてるでしょ」
「っ。……、……」

 良いように扱われて背中がぞわりとするが、独神は声を出さなかった。指が柔肉に沈み込み、持ち上げて落とせばたゆんと揺れる。言い訳を不要と判断したのか、もう手拭い越しではなく直に乳房を掴んでいた。若々しい弾力がコタロウの指先に抵抗するにつれて淡い桃色の先端がいやらしくと尖っていく。

「独神ちゃんの胸こんなにしちゃうのは僕が最初だよね?」

 コタロウは照れた顔でニコニコして言った。

「……」

 独神は瞬きをした。

「え? ちょっと。え?? 違うの?」
「秘密」
「えーー。やだなあ」

 コタロウはぶつぶつと愚痴をこぼす。
 いやだなあ、やでしょ、えー、うそでしょ、さいあく、はじめてだとおもったのに、はぁ、ひどくない、なんで、はぁ、ほんときにいらない、むかつく、はらたつ、さしたい、ころしたい、なぶってもゆるされるよね、どくしんちゃんをきやすくさわっていいわけないだろ、ころすぜったいころす。
 段々と物騒になっていく言葉に独神は冷や冷やとした。

「ねえ、それって無理やり? 服脱がされた? 英傑? それ以外? 誰」
「違う違う! 脱がされてない! 寝ぼけてたみたいなの。相手にも沢山謝られてる。だから探らないで!」
「ほんとぉ? たぬき寝入りでしょどうせ」
「寝てたって!!」

 コタロウは蝋燭の火が消えるように表情がなくなり、独神の胸の頂を摘まみあげた。
 刺激に顔を歪める独神にコタロウは尋ねた。

「ここは?」

 独神は急いで首を振った。

「良かった。とりあえず」

 コタロウはニカっと笑うと手を離した。急いで腕で胸を抑えた。
 独神は恐ろしくなった。コタロウは良い者でもなければ優しくもない。
 自分勝手に機嫌をころころと変えて、中身が見えない。
 独神が判らない、との言葉を思い出す。
 コタロウの事だって独神はこのまま判らずに終わる。
 知る機会はもうこない。

「怖い?」
「驚いただけ」

 独神は虚勢を張った。

「……」

 コタロウは深いため息を吐いて独神を抱きしめた。
 身を固くする独神をより強く抱く。

「怖くて当たり前だよ。判ってるよ……」

 強い抱擁には後悔なのか謝罪なのか、そういうものが滲み溢れているようだった。
 独神の方が泣きたくなった。
 判っていて自分を抱こうと言うのか。恋心の通じ合わない関係で。
 それでも背中に沿って腕を回した。

「……そんな資格ないよ」

 コタロウは投げやりに言った。独神は逞しい背中に指を這わせた。

「大丈夫だよ。本当にびっくりしただけだから」

 出来るだけ優しく嘘を吐く。
 数日以内……明日にも、八百万界から消えてしまうのだから、もっと優しくしないと。もっと嘘を吐かないと。もっと何か。コタロウの為になる事を。

「泣かれるほど嫌なのは流石にきついなあ……」

 いなくなってしまうコタロウを想うと目頭がつい熱くなってしまった。

「やめよう? 今からでも別の方法を考えよう? コタロウにそんなことさせられないよ」
「あっ、そっちか。でも無理。判るでしょ?」

 策が思いつかず難航したの原因は、独神が英傑全員の生存を条件としたからだ。
 頭の良い英傑達が必死に主の願いを叶えようとした。
 それが一人の犠牲で済むところまできた。
 それは喜ばしい事なのだ。たった一人の贄で済む。
 だが納得いかない。
 たった一人でも、大事な英傑の一人なのだ。
 いない日々でも笑っている自分が想像出来なかった。
 さめざめと涙を流す独神を今度はコタロウが宥めた。

「戦場で死ねるのはとっても恵まれてるよ。普通捕らえられたり、見せしめにされるんだから。達磨にして並べるとか」
「達磨?」

 縁起の良い置物で、勝利祈願にも使われるものが何故今出てくるのか判らなかった。

「手足をもぐんだよ。胴体だけになると達磨そっくりでしょ? 晒すと良い感じに士気を下げられる」

 独神は吐き気を催しながら引いた。悪霊は敵だが辱めたいなどと思った事がない。

「僕は何度かやったことあるよ」

 独神は眉をひそめた。

「だからいつ僕がされてもおかしくない。悪霊相手に限らずね」

 言葉もない。
 コタロウは必ず結果を報告しに来るが、過程までは聞いていない。
 独神の命令のいくつかもそういった非人道的な方法が用いられていた可能性は高い。

「まともな最期はない。それは覚悟してる。だから今回お願いしたんだ。僕も土壇場で悩んだり走馬灯かけ巡らせるなんてかっこ悪いのはごめんだよ」

 そう言って柔らかい声になった。

「独神ちゃんには色々教えられたよ。思い出さなくて良いもの、拾うべきじゃない感傷。戦はそんな甘い世界じゃないんだよ。だから僕は貰った全てをここで捨てたいんだ。そうして主の忍として、道を切り開きたい。忍びの本分を全うしたい」

 独神と過ごした数年をコタロウは不要と言った。

「僕を忍に戻してよ」

 忍に思い入れるのはやめろ。と複数の忍に警告されたことを思い出した。
 人扱いして何が悪いのか判らなかったが、そのせいで彼らに余計なものを背負わせた。
 こんな状況になったのは独神である自分の行動が蒔いた種だ。
 嫌だ嫌だと全てを拒否していたが、急に全てが腑に落ちた。

「……判った。なら私はもう考えない」
「助かるよ。アルジサマ」

 そう言ってコタロウは独神を押し倒した。
 無論抵抗などするはずがない。これも役目の一つだとすんなり受け止められた。
 コタロウの両手が再び膨らみへと伸びた。
 一瞬目が天井へと泳いだが、我を保ってその行為を眺めた。
 指先が肉にめり込み土を練るように動いていく。己の身体が誰かに弄ばれて喜ばれることは恥ずかしかった。
 コタロウは先程は一切触れなかった先端部分を口に含んだ。

「あっ」

 湿った吐息が自然と漏れた。尖り切った頂が唇で摘まれていくと甘美な衝撃が下腹部へと走った。

「っ。あっ」

 腰をくねらせながらも獣が威嚇するようにフーフーと食いしばった歯の間から息が漏れる。
 身体を捩って逃げようとするとコタロウの身体に圧し掛かられた。

「少しは気持ち良くなってきた?」

 低い声が耳の奥へと響いた。毎日なにげなく聞いている声ですら、この場では淫靡な道具であった。

「身体が火照ってきたでしょ。犯される実感が湧いてきた? ね、独神ちゃん。今、すっごくいい顔してる」

 独神は身体の下にある木の床を爪で引っ掻いた。爪が指から離れる感覚が少しだけ我を思い出させてくれる。裏切りものの乳房はコタロウの手技に翻弄されるまま、乞うように揺れた。コタロウの舌に嬲られては悦び、離れると目一杯手を伸ばしてつんと求めた。それを満足そうに見下ろすコタロウには怒りを感じずにはいられない。
 意地の悪い両手を叩いて逃げたい。
 この腹の底から生じる衝動が気持ち悪くて吐き気がする。
 もどかしくて逃げたい。でもこのままもっと蕩かされていたい。

「コタロウ」

 独神は乳房に張り付いたコタロウの頭を無意識に引き寄せた。
 少し呆けた顔をするだらしのない唇にそっと重ねる。
 コタロウを見つめた。なぜか戸惑いの色で揺れていた。

「少し、じっとして」

 ちゅっともう一度唇に触れた。
 身体と違いここだけは独神と同じく果実のように柔らかかった。

「だめ。逃げちゃ」

 首に腕を回して拘束すると、独神は短く口を吸った。コタロウの手は止まっているので、強制的な快楽に邪魔される事はない。独神は気の向くままにコタロウと触れ合った。頬にも口付けた。相変わらずコタロウはぼんやりとして隙だらけである。
 忍を忘れるとコタロウは意外と可愛いひとだった。独神が触れるだけで怯えたように固まり、素直に言うこと聞いた。

「……こうしていると近くに感じるね」

 もう一度唇を合わせた。するとようやく覚醒したコタロウが顔を背けた。
 そして胸から腹へと手を滑らせ、露に濡れた茂みの奥へと進む。
 くちゅ。とねばっこい音で独神は性の混じり合いの舞台へと引き戻される。

「独神ちゃんは入れたい? 入れて欲しい?」

 押し倒してからずっとコタロウのものが独神の身体を突いていた事には気づいていた。
 独神は望みを叶えるべく「入れて」と頼んであげた。
 コタロウは頷くと窮屈そうにしていたそれを取り出す。反り立ったそれを見た独神は目を見開いた。

「痛いよ?」
「知ってる」

 嫌がる独神の足から下着を引き抜き、間に身体を滑りこませる。コタロウの視線は秘処へと集中した。羞恥に震えながらも堪えた。

「……独神ちゃんてほんとに……そうなんだ……」

 意味は判らないがそんなことはどうでもいい。
 浅い呼吸を繰り返して独神は淫らな自分から意識を逸らそうとした。

「まだちょっと乳首弄っただけだよ。あっ、また口が開いた。凄い……溢れてきた」

 耳を塞いで目を瞑った。脚はもう閉じることが出来ない。押さえつけられて。
 逸らしたいのに。感覚で鋭くなり、秘部へと神経が研ぎ澄まされた。
 媚肉がひくひくと動いているのが判る。

「焦らなくてもちゃんと入れてあげるよ」

 コタロウの肉棒は蜜口に口付け、包皮に頑丈に守られていた花芽をこすった。
 ぬるぬると滑る。きゅんと切なく締まった。鋭敏な突起が赤らんで、痺れるような快楽が身体を突き抜ける。強気な態度が瓦解する。

「あ、あ、こた、いや、だめ、あっ、こすっちゃ……」
「だーめ。独神ちゃんのが壊れちゃうでしょ。もっと気持ちいいことしてあげないと」

 乳房の時とは違う、直接的な刺激に独神の身体がのけ反った。

「いや!」

 言葉に反して腰は疼きを求めて動いていた。

「なあんだ、そんなに早くいれて欲しいんだ。じゃ従順な忍は従ってあげなくちゃ」

 一介の忍の固い切っ先が、八百万界最大勢力であり自分の主君の媚肉の奥底を目掛けてぬちりと埋め込まれていく。

「っくあ!」

 噛みしめた歯が鳴いた。
 濡れそぼった狭い肉洞の襞が引き伸ばされていく。粘液が止めどなく流れ、脈打つ肉棒を中へと導こうとするが、無垢な子宮は緊張し凝り固まっていた。

「……くっ……っ……っんん! ……」

 息を吸う事も出来ない痛みに乙女はのたうった。
 「痛い!」と泣き叫びたい気持ちを、暴力的に膨張する欲もろとも飲み込もうとした。
 コタロウは偶に笑った。
 憎らしい。こっちは未体験の痛さに耐えているのに。

「ひっ」

 ふいに失う痛みの元に、独神が大きな息を吐くのも束の間。
 再び肉棒は無遠慮に暴いてくる。視界がゆらゆらと揺れようとするがこれも役目だと押しとどめた。
 何度か抽送を繰り返していくと、蜜と血で二人は繋がった。

「血……」

 ぐったりとしている独神の鼻腔に錆びた匂いが突き刺さる。

「そうだね」

 それは戦場と同じ匂いだった。

「……独神ちゃん、これからだよ」
「え……っあぁ!」

 ずちゅずちゅと粘液を混ぜ合わせながら肉棒は主君を蹂躙した。
 甲高い嬌声を浴びて容赦なく腰を叩きつける。ぱんぱんと乾いた音が音頭をとる。
 揺さぶられる身体をびくびく震わせた独神は、

「こたろ」

 名を呼んだ。

「コタロウ」

 この先呼ばなくなるであろう名前を。

「フウま、コタろぉ」

 口にした。繰り返した。
 何度も何度も。これは懺悔だ。

「あっ、くぅ……こたろ」

 謝れないから代わりに沢山の名前を呼んだ。
 未来で呼ぶはずだった分をここで呼ぼうと思った。
 きっと足りない。真実は判らないけれど。
 なくなった道の先なんて誰も知らない。

「独神ちゃん」

 コタロウは応じた。独神はうんと頷いた。
 覆いかぶさっている身体に両手を這わせて抱いた。

「こたろう」

 耳元で呼んだ。四文字の言葉を舌で転がすと不思議と心地良かった。
 コタロウは己を引き抜き、独神を身体を反転させると尻肉を鷲掴んだ。
 腰を引き上げ、背を床に押し付ける。
 疼痛に痺れる乳房が木目に引っかかり息を漏らした。
 コタロウはだらしなく開いた孔に再び肉棒を穿つ。

「あぁっ!」

 角度が変わったことで別の皮が引き伸ばされた。
 壺がきゅうっと締め上げる。

「……いい」

 コタロウは腰の動きを激しくしながら押し潰されている乳房に手を伸ばした。
 油断していた乳房はコタロウの指の愛撫に再び熱を上げた。
 待ちわびていたとばかりに乳首はしこり、抓られる事を喜んだ。
 腰をくねらせながら独神は名前を呼び続けた。

「独神ちゃんっ、出すよ」

 訪れるものに構えて目を瞑った。

「あぁっ!」

 欲望が弾ける様を最奥で感じた。どくどくと脈打って吐き出している。
 コタロウはまだ固さの残る陰茎を取り出し、独神を裏返した。
 せめてもの抵抗で膝を曲げてぴたりと入口を塞いだが、コタロウは無理やりに開いた。
 独神の蜜口からは快楽が泡立ち、喪失の痕が肌にこびりついていた。

「……なによりも、独神ちゃんは綺麗だよ」

 界の使いの成れ果てから損なわれない威厳にコタロウは自然と敬意を持って頭を下げた。

「……。あの、こた……」

 雰囲気の変わりように独神は様子を窺う。
 コタロウは先程まで繋がっていた秘処に吸い込まれるように近づくと、舌で二人のあとを掬った。

「っ!? コタロウ! なにして」

 揺れる赤髪を押しやろうとするが、コタロウはびくともしない。

「汚いって! 血! 自分のやつだって!」
「汚いのは僕だけだよ」

 低い声で突き放し、それから返事は一切しなかった。
 女性を象るものを丁寧に舌で掬った。膜の損傷による赤い印を唇で吸い取る。己から排出した白い情動が舌に触れることへの躊躇いはなく、独神から溢れたものの全てを体内へ取り込んでいく。

「……やめて……コタロウ……そんなことしないで……コタロウ……コタロウってば……」
「……」

 一滴も残さず舐めとり、コタロウは唇を弓なりに引き上げた。

「やっと綺麗になったよね。ごちそーさま」

 達成感で満たされるコタロウを独神は時折えずいて不快感を露わにした。

「大丈夫。アンタには判んないよ」

 突き放されてしまうと、独神は気まずそうに、そして打ちひしがれた。
 理解の及ばない奇行だった。何をどう理解出来ようか。
 とんとんと軽く独神の頭を撫でた。

「ありがとう。僕の最後の願いを聞いてくれて」
「コタロウ……」

 離れようとするコタロウをこのまま行かせたくない。
 笑顔で見送れない。泣きたくない。
 見送らないと。
 独神がぐちゃぐちゃと顔の部品を動かすので、コタロウは言った。

「言わないで。何言われても困る」

 先手を打たれた。
 独神は真一文字に唇を引き締めた。
 コタロウは少し噴き出すと先程まで繋がっていた半身を抱きしめた。

「……独神ちゃん。余計な事はしないで。周りの奴らの言うことを聞いて。いいね?」

 親のように言い聞かせるので独神は「はい」と返事をして頷いた。

「あはっ、イイコだね〜」

 よしよしと頭を撫でた。馬鹿にしないでといつもならほんのり嫌がっているところだ。
 独神は撫でやすいように首を曲げて大人しくされていた。
 馴れ馴れしく寄って来るわりには撫で慣れていない手つきが、今は痛いくらいに愛しい。

「……勘違いしてるかもだから言っておくね」

 僕が先陣なんて冗談に決まってるじゃん。
 ……とでも言われても、今なら許せる。言って欲しい。

「作戦の決行と引き換えに僕は独神ちゃんとの時間を認めさせた。それだけであって、僕が独神ちゃんを犯す気だった事は一切知らなかったよ。疑ってすらも無かったんじゃないかな。だから独神ちゃんが八百万界の贄に差し出されたわけじゃない。ここの奴らは独神ちゃんから尊厳を奪う事は絶対に許さないからね」

 言われるまで独神は気づいていなかった。そんな解釈があることを。
 英傑には全幅の信頼を置いているので、自分が犠牲にさせられるとは考えなかった。
 ……けれど、同じ英傑の犠牲は受け入れたのだ。
 そう思うと独神は素直に喜べなかった。

「……ごめん!! やっぱり少しだけいいかな?」

 コタロウは倒れたままの独神を立たせると、散らかった服を回収した。
 胸の前で自分を抱きしめる独神にひょいひょいと着せていく。
 独神は呆気にとられながらも、着せやすいようにと身体を動かしていった。

「僕こういう身の回りの世話って苦手なんだよね。伊賀のあいつは手慣れてるけどさ。僕の方が多数派だからね? だってこんなの忍の仕事じゃないじゃん」

 そう言いながらも手早く独神の服を整えた。独神がやるよりも布がぴんと引っ張られている。
 神に仕える巫女の通常衣装であるが、背筋を伸ばして顎を引いているとただならぬ雰囲気を醸し出していた。

「……この独神ちゃんが、僕は一番好きだな」

 自分で脱がして穢しておいて、コタロウはそう言って笑った。
 仕方のないひとだ。独神は笑みをこぼした。
 コタロウは顔を抑えた。

「……やばいなあ。主を好きになる忍って普通じゃないよ? ここの忍全員異端だからね? 技術があっても忍失格だよ」

 この場にいない者の本音は判らないが、気に入られている実感はあった。
 命令だけで動いていないと正直な所自惚れている。
 返事をしようとした時、コタロウはもう他人だった。

「……独神様。お身体には気を付けて」
「っ! コタロウ!」

 呆気なく。唐突に。お別れとなった。
 つい先ほどまで肌を密着させて淫猥な粘液を塗りたくっていた。
 それがもう肌からは熱が消え失せ、交わそうとした言葉も届かなくなってしまった。
 あんなに近くにいたのに────。



 ◇



 未練はいらない。
 あった方が生き抜く為の活力になるとも聞くけれど、僕はない方が良い。
 死ぬことに躊躇いを覚えてはいけないからだ。
 善悪もなく淡々とやっていく。
 それが闇に消える忍というものだ。

 だからこれは叛逆だ。
 僕の最後の主君に僕という捨て鉢を覚えてもらいたい。
 この先独神ちゃんが忘れても大丈夫。
 ここで生き続ける限り、心の隙間に入り込んで穢したのが僕である事実は変わらない。
 この世界が平和になっても、僕の痕跡は残り続ける。
 忍風情に犯された主君様はお人よしだから、……きっとこんな僕を許すんだ。

 そもそも僕は独神ちゃんを犯す気なんて無かった。
 僕はただ容赦なく傷つけて欲しかった。
 戦に優しさは持ち込めない。
 でも痛みなら抱えていける。
 僕の中を独神ちゃんで満たして、今際の際まで想って死にたい。
 僕の想いと共に消えて欲しい。
 それが僕が人に生まれて得た唯一の持ち物だ。
 忍の僕じゃない僕の。

 それが叶わないのなら、ここに全てを置いていくつもりだった。
 「こうしていると近くに感じる」
 なんて、聞きたくなかった。
 独神ちゃんにしがみつかれて、名前を呼ばれたくなんてなかった。
 僕は独神ちゃんの声が好きで、撫でる指先のたおやかさが好きで、僕みたいな下々の者とは一線を画す存在感が好きだ。
 捨てても捨てても好きになってしまう。

 僕は怖くなって、独神ちゃんを遠ざけた。
 あどけない唇から逃げた。
 名前を呼ぶその顔を背けた。
 僕を映す双眸の眩しさをかき消した。
 後ろ姿の独神ちゃんを犯して、僕にはこれがお似合いだと安心した。
 僕の記憶の中に映る独神ちゃんは後ろや横ばかり。
 警護をしていたから正面を見ることは殆どなかった。
 自分は目に映らない。なのに僕からは独神ちゃんがよく見える。
 やっぱり僕はこの角度がいい。馴染んでいる。

 僕と独神ちゃんはそもそも交われる身分ではない。
 苦痛に顔を歪めた独神ちゃん。慣らされていない中をこじ開けて痛かった僕。
 その時だけは繋がった気がした。共有出来た気がした。
 嘘も偽りもなく、僕らは確かに同じ命を燃やした。







 ────新たな魔元帥の訪れに苦戦していた独神一行であったが、知略と武力の全てをもってこれを鎮圧。魔元帥の軍勢を退けることに成功した。
 暫くは平和が続いたが侵攻を諦めない魔元帥に再び攻め入られ、八百万界は戦乱に燃える。

「────確かに? 死ねば"一生"は無限だ」

 障子越しの月明りに映る人影に独神はうんざりとして吐き捨てた。




(20220201)
 -------------------
【あとがき】

 独神の存在を神聖化しているくせに、穢すあたりがフウマコタロウ。
 好きになって、好きになってもらって、それから……というプロセスが踏めない。
 頭の良い人に計算を教えてもらうと、途中式を抜いていくので、何故その答えになったのか判らない事がある。
 コタロウの行動はそれに似ていて、まともな思考をした独神には突飛にしか見えず理解が出来ない。
 理解して貰おうとコタロウが思えばまた違うのだろうが、理解を求めないからややこしい。