目を開けると、そこには天井とユキムラの顔が浮かんでいた。私の後頭部に感じる少し硬いこれは膝だろう。私はユキムラの膝枕で惰眠を貪っていたらしい。
「では補給路は頼んだ。拙者は住民らの掌握を進めよう」
今は真面目な人格の方だ。凛として英傑と話す姿に違和感がある。お伽番でいる時はいつもぐーたらと食べては寝てばかり、蝸牛の如き愚鈍さで部屋を這っているというのに。
「主さまどうした? 風邪か?」
「お疲れのご様子だったので少し寝かせている。拙者の未熟さ故に負担を強いてしまっているのかもしれぬ。すまぬがこのまま寝かせてやって欲しい」
「いや、それは良いけど。まあ主様のことよろしくな」
声が消え、足音が遠ざかると、
「主さん。いーよ、まだ寝てな」
「……気づいてたの?」
「そりゃ、おれってそれなりのもんだから」
武人らしい無骨な手のひらが繊細に頭を撫でた。
「今日はおれの膝使ってていいから、仕事なんてやめちゃいな。……心配無用。このサナダユキムラ、独神様に劣るとはいえ人の上に立つことには少々覚えがあるのでな」
力強い撫で方に少し、動揺する。「やってくんなきゃやだー」と駄々をこねたり拗ねたり脅したりするユキムラが今日はとても頼もしい。体重だけとは言わず何もかも委ねてしまいそうになるくらいに。
「心配召されるな。このサナダユキムラをどうか信じて欲しい」
そうだった。サナダユキムラとは多くの武人を従えた武将の一人であった。腕に自信のある者達を従え惹きつけ、幾度の勝利を手にした英傑。心配など抱きようがない。
「……ありがとう。ユキ君」
もう一度目を閉じると、頬に小さな口付けが降って来て、私は肩の力を抜いた。
(20210926)
-------------------
【あとがき】
親愛50以上になると、ぐーたらな姿ばかり見ることになるけれど、本当はとっても頼れる人。
典型的なギャップ萌えキャラ。