「いってきます」
「ああ。気をつけてな」

今日は誕生日当日。
私はいつものように学校に行くと、みんながMZDの誕生日の話をしていた。
どうやら多くの人がMZDの誕生日パーティー開催を知っているらしい。

もそのパーティー参加するんだろ?」
「ううん」
「は?」
「別で用意してるの。黒ちゃんのお祝いもだから」
「あ────」

これだけで、友人らは私の言わんとすることを理解してくれた。
黒神という神は認知度が低く、更にはあまり人との接触を好まない、ということを。

「大勢もいいけど、家族でこじんまりって言うのもいいだろうからな。
 でも、どうすんだよ。MZDの誕生パーティーって朝から夜の部まであるんだぞ」
「その途中でMZDには来てもらうよ。
 時間を止めて、みんなにとっては一瞬に当たる時間の中で過ごすつもり」

だから、MZDの誕生パーティーには参加しないということを伝え、私は放課後を待った。





放課後、花束を受け取ってから影ちゃんと連絡を取ると、予定通りいつもの夕食の時間に料理とケーキが出来ると聞いた。
ただ、もう少し用意が必要ということなので、私は黒ちゃんをひきつけるべく、外へ連れ出した。
これならば、影ちゃんがいなくとも怪しまれない。
二人で出かける時、影ちゃんはついてこないことが多いから。

「えっと、俺今回は事前に何も考えられていないし、その……、あまり楽しませられないぞ?」
「いいの。私が連れまわしちゃうから。黒ちゃんは一緒にいて」
「判った。すまないな」

街は普段より少し活気付いていた。多分、原因はMZDの誕生日。
世界中(宇宙含む)からやってきているらしく、人間ばかりがいるこの街で多くの人外を見つけた。
それらを見ると、黒ちゃんはあまりいい顔はしなかった。
理由を知りつつも、どうしたのと聞くと、黒ちゃんはちょっとなとだけ答えた。
折角の誕生日なのに、不快な思いはさせたくないと、私は出来るだけMZDの家から遠ざかった。

人通りが少なくなった道を歩きながら、黒ちゃんと話す。
他愛もない話。取り留めのない話。落ちのない話。
街を見ながら気になるものを指差し、会話を繋げていった。

会話を止めれば、MZDのことを思い出させる気がした。
沢山の人に祝われるMZD。
同じ日に生まれたというのに、黒ちゃんは人から遠ざけられ、また人を遠ざけた結果、
祝おうとするのは私と影ちゃんしかいないのだ。
私達は今まで頑張ってきたが、多くの人間に祝われることに勝ることはないのではないかと、
私はひどく不安になる。

「黒ちゃん、綺麗な雲だよ」
「ああ。空のカンバスに白い絵の具を落としたようだな」

マリィさんたちに負けないように、って言い方も考え方も変だけれど、
黒ちゃんに残念だと思われないように頑張ろう。

「黒ちゃん。あっち!見てみて!」











「お二人方、探しましたヨ」
「あははごめんねー」

影ちゃんが合流したと言うことは、準備は出来たということだ。
現在時刻は、いつもの夕食の時間と変わりない。さすがは影ちゃん。

「じゃあ、帰るか」

今度はMZDの様子を見てこないといけない。
一瞬だけでも抜けられるのかどうかを尋ねないと。

「先に帰ってて、ちょっと学校に忘れ物取りに行きたいの」
「それくらいなら、ついていくぞ」
「いいよ。色々確認したいから」
「……判った」

うーん、なんだか怪しんでるなぁ。
変な勘繰りをしないといいんだけど。

「あと、これ」

私は簡素な手紙を黒ちゃんに手渡した。

「ずっと持ってて。離さないで。お願いだよ」

黒ちゃんの返事は待たず、私は一度校舎の裏に転移した。さっと周囲を確認するが人はいない、一安心だ。
次にMZDの家の裏へ転移。こっちでも周囲を確認。一安心──。

「……」

虹色のキノコがこっちを見ている。これって生物?植物?

「こ、こんにちは……」
「……」

人間の言葉を理解できないのか、はたまたただの植物なのか。

「さ、さよならー」

とりあえず逃げておいた。
いつもはいないから、あれもポップンパーティーの参加者なのだろうか。
よく判らない。MZDが引き抜いてくるアーティストはボーダーレスすぎて。



私は裏から表へとまわる。
木が沢山生えている庭が飾り付けられていた。
玄関が靴でひしめき合っていて、何人この家にいるのか見当もつかない。
私も皆さんと同様に私も靴を脱ぎ、パーティー会場と化したMZDの家に足を踏み入れた。

部屋の大きさが変わっていて、玄関入ってすぐがホールになっている。
人、植物、電柱、虫、気ぐるみ、お人形……と、様々な方々で溢れかえっていた。
あまりの多さに圧倒され思わずたじろぐ。
がしかし、私はMZDを見つけねばならないのだ。
人の間をすり抜けて、たまに押されながら突き進む。
人ごみに酔いそうだと思っていると、誰かに腕を引かれた。

、潰れるぞ」
「そう言われたって……」

腕を引いたのはリュータだった。

「MZD探してるのか?」
「そうなの。今、一瞬借りられる?」
「さあな。正直人が多いし、俺もよく見てないんだよ」

主役をろくに見ずしていいのか、なんて思わないわけじゃないけど、
あまりに人が多いので、しょうがないと思えてしまう。
人間サイズならまだしも、小さな怪獣や、一つ目のロボットとか、カラフルなパスタまでいるのだ。
こんな中じゃ、MZDが見えないというのは当たり前だ。

「いつもみたいにひょいって、ワープ?しちゃえばいいじゃん」
「で、でも……。一応隠してるんだよ?」
「……嘘だろ。学校であんなに使ってるくせに」

おっしゃる通りだが、これでも人前では使ってはいけないということになっている。

「今日はさ、色んな奴が来てるだろ。だったら突然誰かが現れるなんて、珍しくもなんともないって」

リュータが指差す方に、浮遊するアンモナイト?や、頭に木が生えたロボット、動くドラム、ヴィルヘ──。

「ヴィル?!なんで!?」
「ほら、そーいう奴がいるんだ。学校は人間しかいないけど、ここは違う。
 も遠慮せず自分の好きにやればいいんだよ」

今の私ってもしかして、もしかしなくても、普通以下の地味な存在なのだろうか。
ということは、私が何しようと他の人は全然気にならない。

「ありがと!遠慮せず力使うよ」

MZDを座標に設定する。自分の身体をその近くに置くイメージを強く持つ。
すると、一瞬で景色が変わる。

「おわっ!?!」

MZDは近くに居たらしい。周囲には流星ハニーと、彗星ローラ……って、ほほほ本物だー!

「MZD!一瞬だけ時間を私に頂戴」
「一瞬と言わずもう少しいいぞ」

私は黒ちゃんに手渡したものを同じ手紙を手渡した。

「ずっと握ってて。お願いだよ」

私は手紙に込めていた力を解放する。
これで二人は私の作った小さな異次元に飛ばされた。

その間に影ちゃんに合図をして、私は黒ちゃんちのリビングの景観を一新した。
おじさんちに移動させた影ちゃんの合図が来たところで、影ちゃんを含む全ての物をこの部屋に集結させる。
一瞬でこの部屋がパーティー会場になった。

花ちゃんに作ってもらった花束を忘れずに各々の傍に配置する。
とても綺麗だ。見ているだけで、各々の姿が思い浮かぶ。

「影ちゃん、問題ない?」
「アリマセン」

私はもう一度手紙────招待状の最後の力を解放した。
すると異次元から二人が、黒ちゃんのリビングに現れる。
二人の顔が見えた瞬間、力を用いて十個連続でクラッカーを鳴らした。

「お誕生日おめでとう。黒ちゃん、MZD」
「おめでとうございマス」

二人は目をぱちくりとさせていた。

「……」
「……」

驚かせすぎたのだろうか。何も言ってくれない。

「あの……二人とも?大丈夫?クラッカー多すぎた?」

二人は完全に固まっている。どんどん不安になってきた。
沈黙が続く。
それを破ったのはMZDだった。

「……ごめん……オレ、驚いて」

異次元にいきなり飛ばしたのはまずかったのだろうか。
突飛なことに慣れているはずの二人だが、まだまだ現実に戻ってきていないようだ。

……どうして?」

黒ちゃんは驚いた顔のまま尋ねてきた。

「どうしてって……誕生日を知ったんだから、祝うのが普通じゃないの?」
「あぁ……」

なんだか二人とも気が抜けてしまっている。
私は二人に元気を与えるためにも声を張る。

「はいはい!早く座ってよ!料理冷めるよ!」

二人の背を押して、椅子に座らせる。
机の上には、ミートローフ、カルパッチョ、様々な具材のサンドイッチ(フルーツサンドも混じってる!)、
キッシュ、パスタ、ローストビーフ、丸くて可愛らしいお寿司……等。
一つ一つの量は少なめで机一杯に料理が並んでいる。

さすがは影ちゃん。
一つ一つの見た目が凄く綺麗。勿論普段の晩御飯だって綺麗なのだけど、いつもとはレベルが違う。
盛り付けの大事さがよく判る。一つ一つが芸術品のようだ。
食べるのがもったいない気がしてしまう。

「MZDは気を使わないで、少しだけ食べるだけでいいよ。
 あ、黒ちゃんはいっぱい食べてね!」
「悪いな。気を使わせて」
「いーの!それよりも、二人同時にお祝い出来てよかったよ」

食器棚の奥にしまわれているのを見つけた、カットグラスを持ち出してジュースを注ぐ。
ジュースなのに、カットグラスに注がれるだけで、印象ががらりと変わる。
室内灯に照らされ、テーブルクロスの上に光の模様を映し出していた。

「はい、どーぞ」

二人に手渡し、私もグラスを手に取った。
少し息を吐き、気分を引き締める。

「黒ちゃん、MZD。お誕生日おめでとう御座います」

グラスを掲げ、二人のグラスに音を立てて触れた。

「乾杯」

二人は似たような顔を見合わせる。
やがてはにかんだ笑みを浮かべると私を見て、乾杯と言った。

そこで私は時間停止を思い出し、空間の時間を止めた。
力の消耗を考え、私の身体を本来の大きな方に戻し余計な力を使わないようする。
洋服もそれに合わせ、買ったばかりのワンピースに替えた。

、時間はとめるな。身体に影響が」
「大丈夫。私に影響のない程度しか止めないって約束してるの」

影ちゃんを見やると、こくりと頷いていた。

「二人は何も心配しないで。少しでも楽しんで欲しいな」
「判った。じゃ、頂くぜ!」
「いただきます」

二人は影ちゃんの料理に手をつけた。

「いやー、やっぱうめーわ。つーかさ、たまにオレの影がいなかったのもこれの準備?」
「そうなの。でも基本的にはあっちのパーティーの方をお願いしてた。
 MZDが私達に気付いてもらっても困るから、こっちに来ないようにしてもらってて」
「マジ?知らなかった」

ふふふと笑みを浮かべるMZDの影ちゃん。
沢山お世話になりました。お陰でMZDは私達の動きに全く気付かなかったようだし。

、どうして俺とこいつの誕生日を知っていたんだ?」
「MZDのノーマルカードのお陰だよ。
 最近ポップンパーティー出演者のトレーディングカードがあってね、その裏に誕生日が書いてあるの」
「へー……。お前そんなこともやってたのか?」
「企画はオレじゃねぇよ。結局オレが色々手を出したんだけどな」

企画以外の、情報収集、制作、販売の全てを担ったということだろう。
さすがMZD。仕事以外の仕事はいつもばっちりだ。

「あのね、ケーキも用意してるんだけど……その、ローソクどうすればいい?
 何千本?何万本?一応、一万本までは貰えることになったんだけど……」
「万って……オレと黒神で一本ずつでいいよ。黒神もOK?」
「ああ。でないと折角のケーキが穴だらけになってしまうからな」

良かった。先走ったりしなくて正解。

「にしても、よくそんなに用意できたな」
「うん。なんとかね」

ヴィルに借金するところだったけど。

「それより、もっと食べて。影ちゃん頑張ってたんだから」
「ああ。頂くよ。影も、わざわざありがとな」
「サンキューな!」
「私には勿体無いオ言葉デス」

影ちゃんは恭しく礼をし、後ろに下がった。

「飾り付けはサンデス。
 私の調理場の確保や、小物の購入資金までもサンが奔走なさっテ」

そう言うと、二人は目を丸くして驚いていた。

「マジかよ……よく出来たな」
「危ないことはしてないよな?へ、変なこともしてない?」
「してないよ」

ヴィルの姿が頭を過ぎったが、気にしないことにした。
黒ちゃんを心配させるわけにはいかない。

「サンキューな。
「ありがとう、。俺はとても嬉しいよ」

二人の笑顔を見ていると、炭酸みたいにしゅわしゅわと喜びが湧き上がってくる。
頑張った甲斐があったというものだ。





私達は話をしながら、料理を一つずつ平らげていった。
MZDはもう一つのパーティーもあるから殆ど食べないだろうと思っていたけれど、
普通の食事のようにもりもり食べていた。
黒ちゃんはいつも通り控えめに食べていた。
けれど、その顔には始終笑みが浮かんでいて、私と影ちゃんは顔を見合わせ、良かったと思うのであった。





「滅茶苦茶食った……」
「俺も今日はよく食べたぞ」
「私も普段よりいっぱい食べた!美味しかったもん」

そう影ちゃんに言うと、影ちゃんは空いた皿を片付けながらにこにこと返事をした。

「有難う御座いマス。ケーキを用意しておりますが、どうなさいマス?」
「オレ食べられる。黒神は?」
「俺も大丈夫だ。は?」
「別腹!」

そう言うと全員に笑われた。

「では、用意致しマス」

小さめのホールケーキが、二人の前に出された。
ろうそくが二本、真ん中のチョコプレートには「Happy Birthday」と書かれている。

「じゃ、電気消しちゃうよ」

照明をおとし、ろうそくに火を灯す。

「……二人ともお誕生日おめでとう」

私と闇に紛れてしまった影二人と、はっぴーばーすでーとぅーゆーと歌った。
仄かに照らされた二人の顔は、照れくさいらしく少し変な顔をして、二人同時に火を吹き消した。
私は照明を戻す。

「さっ、食べよー!」

影ちゃんはろうそくの処理を手早く終え、紅茶を配る。
部屋中に良い香りが充満する。
影ちゃん、今日に合わせて新しい茶葉を買ったようだ。

「美味しいじゃん。やっぱ黒神の影って料理上手いよな」
「さっすが影ちゃんだね!」
「有難う御座いマス」

本当に……美味しい。
影ちゃんのお菓子は普段よく食べているとは言え、美味しいと感嘆してしまう。
影ちゃんの努力やお祝いの気持ち、そして黒ちゃんのことが好きなんだっていう気持ちが伝わってくる。

「……いつも、有難う」

小声であったが、私の耳にはしっかりと届いた。。
言われた影ちゃんも同様らしく、口元を覆い特大の笑みを浮かべた。
黒ちゃんはそれを見ないように、ちびちびと小さく切り分けて口に運ぶ。
ちゃんと、影ちゃんの気持ち伝わったんだ。

「へー、黒神ってばー照れちゃってー」
「う、るさい。いいから味わって食べてろ」

ぶっきらぼうにそう言うと、また一口、口に含んだ。
影ちゃん、とても嬉しそう。
それを見てると、私まで嬉しくなってくる。

「あ、ちょっと待っててね」

もう随分ケーキをお腹に入れたし、そろそろいいだろう。
私は自室のウォークインクローゼット内に入ると、目当ての物を取り出し二人の前に持ってきた。

「はい。どうぞ」

手渡すと、またもや二人は顔を見合わせる。
こういうところを見ると、兄弟なのだなと思う。

「……あけてもいい?」
「いいよ。あの、そんなに凄いものじゃないから、過度に期待しないでね」

とにかく迷いに迷ったのだ。
喜んでもらえるかどうか判らない。
私は開封する瞬間に立ち会いたくないなと思いながらも、どこか喜んでくれるかもしれないと期待していた。
二人が包装紙が破れぬよう丁寧に開封する。

「あ、マフラーか」
「オレも。でも黒神と色違う」

しげしげと見られると、恥ずかしくなってくる。

「ちょっと早いけど、もう寒くなるからって思って……」

まるで言い訳だ。
自信がないせいで、余計な言葉を付与していってしまう。

「最近一気に寒くなったよな。ありがとな。今年の冬はのお陰で快適だ」
「う、ううん。こっちこそ、受け取ってくれてありがと」

黒ちゃんはどう思っているのだろう。何も話してくれないけれど。

「……黒ちゃん?」

まじまじと包装紙の中の物を見続けている。穴があきそうなほど。

「おーい黒神。嬉しいのは見りゃ判るけど、反応しねぇと、不安がってるぞ」
「へっ」

声を裏返させるほど驚いている。自分の世界に入っていたみたいだ。
私に向かい、焦りながら話す。

「ち、違うぞ!全然!凄く嬉しいんだ。だってから……
 から誕生日に何か貰えるなんて夢にも思ってなかったし、
 今この時も、現実ではなく、夢の中なのではないかと思ってしまうくらいで……」

目を伏せると、すっとマフラーに触れた。

「本当に現実なんだよな。妄想じゃないんだよな?」
「当たり前じゃん。もう、黒ちゃんったら、そんなに私が祝うのって変だったの?」
「違う!た、ただ…………ほんとうに、嬉しいんだ。
 ……大切に使わせてもらう」

強く強く、包装紙ごと抱擁した。
こうも喜んでもらえると、なんだか私の方がプレゼントを貰った側のようだ。
黒ちゃんが嬉しそうにしていると、私、凄く嬉しい。

「なぁなぁ、黒神着てみろって」

いつの間にかMZDは私の渡したマフラーを巻いていた。

「……そうだな」

丁寧にマフラーを取り出し、くるくると首に巻いていく。
マフラーを巻いた二人が並ぶ。

「あれ、オレの方が短い?」
「そのようだな。俺のは結構長いぞ。もっと巻くものなのか?」
「長さはわざとなの。MZDはよく外に行くから短めで。
 黒ちゃんはあまり地面を歩いたりしないから、長めにしたの」

黒ちゃんは普段部屋の中にいる分、気温の変化に弱い。
そう思って調節できるように長めのものを用意した。
MZDは世界の色々なところへ行くので、移動の際邪魔にならないように短めなのだ。

「そこまで考えてたのか!ありがとな」
「わざわざすまないな。
「いーえ」

何の捻りも考えられなかったのだから、これぐらい当然だ。

サン。もうそろそろ……」

そっか。あまり気にしないようにしていたけれど、もう頭が重くなってきている。

「判った。……ごめん、もう私止められない」
「ああ。十分楽しませてもらったよ」

MZDはそう言うと、私の頭を撫でた。

「オレは戻るけど、後は二人で楽しんでくれ」

黒ちゃんが頷く。
それを見て、MZDが私と視線を交わした。

……今日は本当に有難う。
 黒神と一緒に祝ってくれるなんてさ……本当に嬉しいよ。
 この礼は必ず倍にして返すからな」
「そんな気にしないでよ。兄弟なんだし、一緒になんて当たり前じゃん」
「…………ありがとう。がいてくれて、良かった」

MZDはいつものように一瞬で消えた。
それと同時に、私も時間の停止を解除する。
どっと襲い掛かる疲労感に少し背を丸めると、黒ちゃんが抱きとめてくれた。

。俺も感謝している。言葉に出来ないくらいに」

二人とも大げさなのだ。そんなに気にしなくていいのに。
だって、ただ誕生日を祝っているだけなのだから。

「誕生日を祝われるなんて、全然なかったんだ。
 がくるまでずっと一人で過ごしてたし、俺自身誕生日の存在なんて忘れていた。
 思い出したって、自身が生み出されたことを呪うばかりで。
 でも、今は違う。今まで生きてて良かった。が居てくれて、幸せだ」
「……来年も、お祝いするよ。その次も、その次の年も」

お礼を言われるのは私じゃないよ。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

私は黒ちゃんに寄りかかり、動く胸の鼓動を聞いた。

「二人に会えて、一緒に生活できて、私、世界の誰よりも幸せだよ」





fin.
あとがき→