Milky Way

私は、想像もしていなかった。
大好きな彼らがいるこの世界に、変革がもたらされるなんて。

私は、想像もしていなかった。
私が今立っているこの現実というものは脆く、儚く、容易く崩れていくものだと。











ぱちっ。

気持ちがいい。今日はとても目覚めが良い日。
起床したばかりだというのに、頭はすっきりしており、すぐに動くことが可能だ。
私はいつも通り、リビングへ向かった。
カウンター越しに見えるキッチンで、影ちゃんが朝食の準備を忙しなく行っている。
邪魔にならない程度に話しかけた。

「おはよう。黒ちゃんは起きた?」
「エエ。既に起きてマス。珍しくサンより早いデスよ」

朝があまり得意ではない黒ちゃんは、大抵私か影ちゃんに起こされないと起きない。
起きてきたとしても気持ち悪そうにするばかりだ。
一人で起床し、尚且つ即行動することは珍しい。

服を着替え、身なりを整えた頃、ダイニングテーブルに黒ちゃんがついたので、
私も彼に合わせて、席に座った。食事さえすれば、すぐにでも学校に行ける。

「いただきます」

二人で声を合わせて挨拶した後、ざっと今日の朝食に目を通す。
今日は洋風の朝食である。
パン、ベーコンエッグ、ポタージュ、サラダと、スタンダードな献立。
私は一度飲み物を口にしようとマグカップを手に取った。冷たい。
中を覗き込むと、白色の液体がライトの光を受けてきらきらと水面を揺らしていた。

「影ちゃん、温めてもいい?お腹壊しちゃいそうで」

この異次元は現実とは違い温度が一定に保たれている。
外界が夏でも冬でも、ここだけはまるで春か秋かのように過ごしやすい。

しかしながら、起床したばかり身体はまだ覚醒には至っていない。
いくら気温が丁度良くとも、今胃に冷たい牛乳を注ぐのは刺激が強すぎる。
だから私は、影ちゃんに尋ねた。

「お腹が壊れることは無い」

何故か向かい合って共に朝食をとっていた黒ちゃんが答える。

「でも冷たいと……」
「大丈夫だ。信じろ」
「う、うん……」

信じてどうにかなるものではないだろう。
だが、黒ちゃんがここまで断言するのだから、きっと筋の通った理由があるのだろう。
信じる価値はある。と、思いつつも、私はマグカップをテーブルに戻した。
食事の後半になれば、少しは温まっているに違いない。

「どうした。なんで飲まない」

黒ちゃんは疑うような舐る視線を向ける。
心地がよくない。

「やっぱり後で飲もうと思って。……どしたの?そんなに見て」
。冷たいのが駄目なんだよな」
「うん。そうだけど……?」

私が頷くと、彼は私のマグカップに手を伸ばし、牛乳を口に含んでいく。
代わりに飲んでくれるようだ。これならば遠慮なく別の飲み物を頼むことが出来る。
何を頼もうか。温かいものがいい。そう思っていると、いつの間にか隣に彼がいた。
訝しがる前に、彼は私の後頭部をぐっと引き寄せ、唇を合わせた。
突然のことで何の抵抗も出来ず、舌で入り口をこじ開けられ、そのまま少し冷たい液体が流し込まれる。
反射的に飲み込んでいく。

「っふわ。黒ちゃん!!!!」

彼を手で押しやる。彼はなんでもないという風に言った。

「これならばそれほど冷たくないだろ」
「そう言う問題じゃないよ!!!」

今日の彼はおかしい方の彼だ。偶にある。行動の意味が判らない方の彼。
こういう時は近づかないに限る。きっと私が何かしたのだ。
原因は判らない、思いつかない。一度MZDに聞いてみよう。
彼ならば、何か聞いているかもしれない。

食事を取ることを再開する彼を尻目に、私は大急ぎで朝食を摂取する。
影ちゃんが空いたマグカップに液体を流し込んだが、手をつけなかった。
飲もうとすれば、また黒ちゃんが口から口にと流し込むに違いない。
それは、嫌であった。黒ちゃんは好きだが、なんとなく嫌だった。

「ご馳走様!私、もう行くね」
サン。お弁当と水筒ヲ」
「ありがと!じゃ!」
、まだ残ってるぞ」
「行ってきます!!!」

玄関まで行くのが煩わしいので、私はMZDの家に直接転移した。
リビングにはくつろいだ様子のMZDがいた。

「MZD!」

彼の姿を見ると安心感が湧いてくる。ソファーに座る彼の隣に急いで座った。

「おはよ。いつもより早いな」
「あのね、何か黒ちゃん言ってた?」
「どういうことだ?」
「……何か、私に対して怒ったりしてた?」
「いーや。全然。いつもと変わらずだぞ?」
「そう……」

MZDは何の心当たりも無いらしい。
とすると、MZDと接触していない夜間に私が何かしでかしたのだろうか。
それとも誰にも悟られぬよう、心の奥底に感情を仕舞っているのか。

「そういえば

MZDにほいっと軽く投げ渡された。
片手で掴めるくらいの大きさのパック。

「牛乳?」

さっきも飲んだ。それに、今は先程の出来事のせいであまり良い印象がない。

「大量に仕入れてさ、傷む前に飲んじまわないと駄目なんだよ。手伝って」
「判った。でも今はいいや。帰ってからで」

唇の感触が残っている今、すぐに摂取する気になれない。
もう少し時間が欲しい。そうすればきっと、なんでもなくなる。

「今牛乳飲まないと大きくなれないぞー」
「いい。後で」

そんな気分ではないと断っているのに、こんなに勧めるとは。
先程大量に仕入れたと言っていたが、黒ちゃんも消費に協力してるのだろうか。
二人がここまで押すということは、相当の量があって通常のペースでは腐らせることが目に見えているのだろう。
腐敗させるのはもったいないと思う。思うが、あまり無理に飲みたくは無い。
食べ物ならまだしも、牛乳は飲みすぎると調子を崩す。

「だーめ」

身体が一瞬ふわりと浮いた。そのまま背中がソファーに叩きつけられる。
私に覆いかぶさるMZD。その右手には、小さなサイズの牛乳パックがある。
嫌と言う間もなく、パックの液体が私の口内に流し込まれる。
直接口蓋垂に滝のような勢いで叩きつけられ、思わず嘔吐く。
しかし、人前で食物を吐き出すという行為は、いくら親しい仲でも恥ずかしく、
私は嘔吐することのないよう、必死に飲み込んでいった。

「けほっ。けほっ、っえ、えむ」
「まだまだあるぞー」

いつのまにかソファーに紙パックの牛乳が溢れている。
このまま押し倒されていることは非常に危険だと予測した。

「い、いってきます!!!」

家の門まで転移した。既に待っていたサイバーの手を引いて私は家から走って遠ざかる。
MZDは追ってこない。それが判ったところで、私はサイバーに謝罪し、歩みをいつものスピードに戻した。

「今日はすっげー元気じゃん。いいことあった?」
「そ、そっかな」

好きで元気なわけではない。
本当は食べた後すぐには走りたくない。ましてや今日は大量の牛乳が腹に詰まっている。
だが二人の様子はおかしく、、無理をしてでも逃げざるを得なかった。
帰宅する頃には元に戻ってくれていることを祈ろう。

「あのねギャンブラーでね……」

私はサイバーとギャンブラーの話をしながら登校した。
好きなことを好きな人と話すのはとても楽しく、私は少しずつ今朝のことを忘れていった。

けど。

「……」

下駄箱についた時、ある光景を目にして絶句した。
生徒達が一人一つ以上牛乳を持っている。牛乳瓶、大小の紙パック牛乳。

「あの、牛乳多いね。て、TVで何かあったかな?かな?」

人間の生活を送るサイバーならこの現象の原因を知っているかもしれない。
普段とは少し違う、この光景の理由を。

「そうかぁ?こんなの普通だろ」

────普通。

「……そう」
「ほら、教室行こうぜ!」

楽しそうな笑みを浮かべるサイバー。私は頑張ってそれに笑みで答えた。

教室に入り、いつものメンバーを見たが牛乳を所持してはいなかった。
しかし、他のクラスメイト達はやはり牛乳を所持しており、愉快に飲みあっていた。
これは、普通、なのだろうか。サイバーの言うとおり。

いや、そうではないと思う。

授業が始まっても、生徒達は何の後ろめたさもなく、牛乳を飲みふけていた。
それを教師は注意しない。居眠りや、早弁は注意しているのに。
授業中は飲食禁止だ。なのに、どうして牛乳だけは。牛乳だけは。

念のため、次の休み時間にサユリに何気なく聞いてみた。

「授業中って牛乳飲んでもいいんだっけ?」

するとサユリは穏やかな顔をきょとんとさせた。

「普通だよ」

────普通。まただ。

さん、どうしたの?今日、なんだか変だよ」

変。私が、変。
そうなのだろうか。
他の人が言う変は信用できない。誰も私を正しく見てくれない。力を否定する。

でも、サユリは違う。
いつでも真面目で、品行方正、突飛なことに驚きはするが、常識ばかりに囚われず冷静さをもって判断する。
そのサユリが言うのだ。この状況は普通だと。おかしいのは私だと。
嘘をつかず、冗談も好まないサユリがそう言うのだ。

サユリの言うことが絶対に正しい。

私は、おかしい。

「ごめんね。疲れてるのかも」

私は謝った。そして認めた。己の非を。

「無理しないでね。いつでも保健室行っていいし、先生が嫌なら付き添うからね」
「うん、ありがとう」

次の授業から、私は牛乳のことが気にならなくなった。
教室に始終漂う、あの独特な匂い。気持ち悪いと思っていたが、段々慣れた。
ミルキィーで人を穏やかにさせる良い匂いだ。勉強の疲れも甘い香りが癒してくれる。
ああそうか。だから教師も牛乳の摂取は咎めないんだ。

そのまま、昼食までずっと教室で勉強した。いつもよりも捗ったような気がする。
これもアレのおかげだ。
アレはとても良いものだ。
アレは凄い。
アレは人類最大の発見だ。
アレは人の手に余る魔性の飲料。



牛乳は、スバラシイ ノミモノ デス。



「おーっす!ちゃん久しぶり!」
「うん。一時間ぶり」

いつものように、机を移動させたり、椅子を借りたりしてみんなで固まって食べる昼食が始まる。
私はお弁当を広げる前に、水筒を開いた。
家を出てから、今まで一切水分を摂取しておらず、喉がからからだ。

「……う」

水筒の蓋に液体を注ぐと、予想外の色が出てきた。
この水筒の中身はお茶じゃない。牛乳が入っている。
驚きはしたが、私はそのまま飲み干した。牛の体液が私の中に染み込んでいく。
喉が渇いていた分、甘くてとても美味しい。

次は、お弁当だ。今日は何のお弁当だろう。
影ちゃんへの感謝を心の中で述べながら蓋を開ける。

……クリームシチューだ。

お弁当向きではないメニュー。影ちゃんはあまり変り種は作らない。
キャラ弁は作るが、いつもお弁当は普通のお弁当らしい可愛いものばかり。
カレーやシチューや麻婆豆腐なんかをお弁当にチョイスしたりしない。

……いや、いいではないか。何故私は驚いている。
牛乳はいいものだ。だから人々は牛乳を主食のように摂取する。
いや主食である。米や小麦よりも優秀な主食である。
これも、影ちゃんが私のことを考えた結果。
牛乳に、牛乳たっぷりのクリームシチュー。

おかしくない。
普通だ。
これが普通なんだ。

ちらっと周囲を見た。お弁当派のサユリは水筒で、中は牛乳。
後は様々なメーカーの紙パック牛乳。

ほら、普通だ。
私はおかしくない。
みんな一緒だ。

私はクリームシチューをすすっていく。米は無い。
パンか米は欲しいところだ。
いや主食に主食はおかしいのだから、必要ない。

だがそんな私の考えに反して、身体は食すことを拒否する。
牛乳はとても身体に良いものなのに。素晴らしき食材であるのに。
スプーンが、進まない。進んでくれない。
口内に留まったままで、食道まで押しやれない。

行儀は悪いが、無理やり白いどろどろしたものを胃に流し込むことにした。
味わったら飲み込めない。
水でも飲んでいるかのように一気に飲み込んだ。
そして弁当箱が空になったら、すぐさま蓋をしめた。

牛乳は素晴らしいものだ。
だけど、これ以上胃に入ることを想像すると身体が痙攣してしまう。

でもそんなのおかしい。
おかしいのだ。
摂取しなければ。
摂取出来なければ。

ちゃーん!ご馳走様!褒めて!」

深く考え込んでいると、ニッキーが後ろから抱きついてきた。

「さっき体育でさー。面倒だったぜー」

なんだか違和感を感じる。
私は席から立ち上がって、ニッキーの身体を抱き返す。
肩口や髪から立ち上る、鼻腔に突き刺さるこの匂いは。まさか……。

「あ、あのニッキー、におい」
「気付いた?いいだろー。男の勲章だぜ」
「え、どういう?」

思わず聞き返してしまったが、聞かない方が良かったのではないかと言ってから後悔した。

「今日さ、牛乳かけだったんだよ。オレめいいっぱいぶっかかってさ。
 いやー、普段オレ滅茶苦茶スポーツで目立つってわけじゃねぇけど、今日は輝いてたぜ☆」
「牛乳、かけ?」

ほら、聞かない方が良かった。

ちゃんもどう?」
「え。い、いいです。いい。本当に」

ぱっとニッキーから離れた。牛乳かけなんて冗談じゃない。
ニッキーも。変な冗談は言わないで欲しい。
牛乳は飲料だ。かけるものじゃない。かけないのが普通だ。常識だ。
……普通、なんだよね?

「そう言うなって。なー」

何故だろう。
何時の間にか、みんなが私を囲っている。その手には、紙パックの牛乳があって。
まさか、だよね。有り得ないよね。

そんな。

パックに突き刺さったストローから液体が勢いよく飛び出した。
四人、四方から、勢いよく。冷たい乳白色の牛の体液が。

頭の上から被って。
髪を伝って。
首を伝って。
肌を伝って。
足の先まで。
じっとりと、牛乳臭さが身体から漂う。

とどめに二リットル紙パックの牛乳が一気にかけられた。
とうとう下着までびっしょりと濡れてしまった。

「なん、で?」

あまりのことに立っていられず、私は両膝をついた。
どうしてこんなことをするのだろう。彼らは私を嫌いになったのだろうか。

「乳もしたたるいい女ってな。ちゃんスッゲー可愛いよ」

全然褒め言葉ではない。黒ちゃんの前でもないのに泣いてしまいそうだ。
すると、ニッキーがぺろりと牛乳の滴る私の頬を舐めた。猫とは違う。そこまでザラついていない舌。

「に!!」

思わず飛び退いてしまう。
いったい何をするんだ。一度人にかかった牛乳なのに。

「お前だけずりーし」

そう言って、サイバーはしゃがむ私の右足を掴む。
床に尻餅をついた私に構わず、右足を曲げさせて固定すると、その白液が滴る内腿に舌を這わせた。

「っや!?」

ぞくぞくと背筋が震える。
本来誰も触れることがない未踏の地。あっても、黒ちゃんとMZDだけ。
それなのに、今、サイバーが私の足の付け根に顔を寄せ、丹念に太腿に付着する白液を舐め取っていく。
赤い舌が私に触れる度、身体が意志とは反してびくりと震えてしまう。
離れて欲しいと、サイバーの頭を押しやるがびくともしない。

さん」

サユリが柔和に笑んだ。私は助けて欲しいと目で縋った。
きっと、サユリなら助けてくれる。こんな訳の判らない二人から。

「大丈夫だからね。怖がらなくていいんだよ」

サユリは。
自由に身動きが取れない私を背後から羽交い絞めにした。

「サユリ!?どうして!?」
さんはね。まだ知らないだけなの。大丈夫だよ。怖くないよ」

そう言ってうなじを舐めた。
ぴちゃりと水音をたてて。あのサユリが。なんで、どうして。

「ほら、また牛乳持ってきたぞ」
「でかした。リュータ」

また頭から牛乳がかけられた。
他の三人にも飛び跳ねているのに、誰も気にしている様子はない。

「すっげー良い匂い。ちゃんのミルク、凄くいい」

ニッキーは私の首筋に舌を這わしながら、私の制服のボタンを外していく。
鎖骨以下の肌には白い河が流れていて、ニッキーは荒々しくそれを舐め上げる。
乳白色の液体に沿って舐め、それを阻害する邪魔な布は取り払っていく。
脱がされ、露になる肌をサユリは丁寧に口付けていく。

の牛乳。甘くて美味しい。オレ止まれそうにない」

とうとう私の両脚を持ち上げ、スカートを押しやると獣の様に丹念に舐め取っていく。
中央に位置する布。牛乳を鱈腹吸った下着に舌を這わす。
唇で摘んでは、吸い上げていく。

「やめ、やめ、て……」

怖い。
どうしよう。
助けてと言いたいのに。
言えない。

やっぱり、おかしいのは私じゃない。みんなの方だ。
みんなだけじゃなく、学校全体がおかしくなっているんだ。


私はまともだ!!!


私はその場から転移した。とりあえず校舎の裏へ。
見れば、牛乳を取り合って不良の方々が喧嘩をしている。
変な光景。やっぱりそうだ。こんなこと有り得るはずがない。

とにかく乱れた服装と滴る牛乳をなんとかしよう。
肌に絡みつく髪が牛乳臭くてしょうがない。
だが、家には帰りたくない。MZDと黒ちゃんもおかしいと思うから。
だったら、絶好の場所がある。
私はおじさんの家の風呂場に転移した。

大人の男性には小さすぎるようなお風呂。
耳を欹てるが物音は無い。昼間であるから、おじさんはやはり仕事中。好都合だ。

私は勝手にシャワーを借りた。身体を洗いながら制服をも洗っていく。
後から、制服は水洗いすべきではないことを思い出したがしょうがないだろう。
クリーニングに牛乳びっしょりの物を渡すわけにはいかない。
もし駄目になってしまったならば、私にはまだ大きい身体の方用の制服がある。
今度からそれを着ればいい。二着あって良かった。

洗い終え、身体と服を力を使って一気に乾かした。
恐る恐る制服を香ってみる。牛乳臭い。匂いまでは取れていない。私の未熟者め。
仕方が無いのでそのまま制服を着た。

私は大きな溜息をつきながら、勝手におじさんの家でくつろいだ。
一人になれて本当に落ち着く。まだ午前しか行動してないが、どっと疲れてしまった。

今日は朝からおかしい。黒ちゃんもMZDも、みんなも、知らない人たちも、変だ。
何が原因なのだろう。こんなことになる兆候は何処にも無かったと思う。
調べてみる必要がある。みんなを元に戻さないといけない。
そういえば、神と学校以外の人はどうなのだろう。町の人もおかしいのだろうか。

私はふと立ち上がり、冷蔵庫を開けた。
いつもならばぎっしりとビールが詰まっているのだが。
中を見た私は勢いよく扉を閉めた。
見てはいけない物を見てしまった。

ビールの代わりに、牛乳瓶が詰まっていた。
普通の人であるKKのおじさんでさえ、おかしいということは、きっと町中おかしい。
おじさんに会う前に退散しよう。会ったらきっと牛乳をかけられたり飲まされたりしてしまう。

私はまた転移し町の上空に移動した。
上から見た町は、どこやかしこで牛乳片手にかけあったり、道に牛乳が飛び散っていたりしていた。
牛乳ばかり見させられて吐いてしまいそうだと、私は空を見上げた。

「げほっ、げほっ」

驚きすぎてむせてしまった。
空が、乳白色に染まっていたのだ。雲ではない。空が、白い。
まさかと思って、私は海の方へ行ったが、海もまた、空と同じ色をしていた。
潮の香りではなく、牛乳臭い。海が塩水でなく、ミルクになってしまったのか……。

超常現象過ぎて気を失ってしまいそうだ。
これは町がどうのという話ではない。こんなことが出来る人を私は二人知っている。
正直、会いたくない。今は。
けれど、会わないことには話は始まらない。
仕方がなく、私は黒ちゃんの家に転移した。

「もっと飲めよー」
「そっちこそ。まだいけるだろう」

気持ち悪い。ミルクの匂いがうっとくる。吐きそうだ。
二人は牛乳を飲ませ合っている。気持ち悪い。
でも、ここで負けてなんていられない。私は意を決して世界の神に問うた。

「二人とも。世界に何をしたの」

彼らは私を見て、飲むのを止めた。

「おー、じゃんサボったの?駄目だぞー不良だぞー」
「所詮人間の教育機関。必ず行く必要はないさ」
「答えて。世界に何をしたの」

二人は見合わせて、私に向き直る。

「ちょっとな。牛乳の世界にした!」
「なかなか綺麗だろ」
「珍しく、黒神が手伝ってくれたんだ!」
「べ、別に!仕方なくだ。好きでやったわけじゃない」

悪びれはない。

「それは、何の意味があって?」
「意味?」

二人はまた顔を見合わせた。
同時に私に振り向く。

「皆が望んだことだ。オレは神だから、願いどおりに行った」
「お前は馬鹿だ。生物どもの好きに使われて。願いなんて聞き届けなければ良い」
「でもー。黒神も願っただろう。この世界を」
「……まぁ」
「だからした。黒神が望む世界が、オレの望む世界だ」

つまり、黒ちゃんの願いをMZDは叶えたという事。
私情を挟み過ぎなような気がするけれど、いいのだろうか。
人間の意見を聞くよりはいいのか。黒ちゃんも神なのだから。

だが、なんだかよくわからない。
生物たちがこの世界を望んだと言う。
だがあの異常思想は改変後に得たのではなかろうか。
マインドコントロールが先か、世界の改変が先か。
そもそも、この二人はいつ牛乳崇拝主義になったのだ。
自発的にでは無いだろう。とすると、誰かが神に干渉したということになる。
そんなことあり得るのか。
神に干渉出来る者がこの世界に存在するはず、ない。

「それより

考え込んでいる間に、黒ちゃんが近づいていた。
その手には、シルバーリング。私は思わず胸元を押さえた。
あるはずのものが、ない。
まずい────。

「牛乳、飲むんだぜ!」

MZDが人差し指を立てただけで、私の手首、足首が縄で縛られる。
足を取られたことで、バランスを崩し倒れてしまうが、床に当たる前に
黒ちゃんが私を横抱きにし、私の部屋のベッドへと連れて行った。

非常にまずい。
指輪が取られてしまった。
今の私はただの人間だ。どうしよう。
世界に君臨する神二人を相手では、人間の私は、勝ち目がない。

「ふふふー。じゃ、ちゃん。ごっくんしてもらうぞ」

MZDは赤ちゃんが使う哺乳瓶を片手に持っており、私の口に無理やりつっこんだ。
舌の上に乗るシリコン性の先端が気持ち悪い。慣れていないこの感触は不快だ。
嫌だと首を振っても、頭をしっかりと掴まれている。
これって、舌を上手く使わないと飲めないはず。
それなのに、勢いよく中身が出てくる。なんで。MZDが力を使って構造を無視しているのだろうか。
もう嫌だ。もう飲みたくないのに。胃が拒否する。けど、流し込まれるから。吐けないから。
飲み込むしかなくて。気持ち悪いから出来るだけ味わうことはせず、直接喉に流して。
気持ち悪くて、涙が出てくる。

。ろくに飲んでくんねぇな。そんなんだともう一つのお口から飲ませちゃうぞ?」

もう一つの、お口。それはどこに位置するのだろう。
と思っていると、黒ちゃんによってパンツを下げられていた。

「いっそ両方から流し込めば良い。両方……?いや、三箇所ある」

三箇所とは何処だろう。多分一つはお尻のことを言っているのだと思う。
けれど、それ以外の場所って何があるのだろう。知らないって、怖い。
怖い怖い怖い。これから何をされるのだろう。

「ふ、二人とも」

二人は「どうした?」と声を合わせた。
いつものように、優しい声色で。

「お願い。待って。する。ちゃんとするから」
「あ、あぁ、待つぞ。が言うなら」
「そう、だな。急ぐ必要はないもんな」

話し合いの余地はあるようだ。九死に一生を得た。

「お願い。手痛いの。大人しくするから、手と足の外して欲しいの」
「痛かったか!?ごめんな、

黒ちゃんは丁寧に縄を解いてくれる。
拍子抜けしてしまうが、良かった。
黒ちゃんたちはいつも通りだ。ある程度は。

「じゃあ早速!」
「ま、待って。早いよ。えっと、その、飲むのもね、一気は駄目なの!」
「なんで?」

何を言えばいい。とにかく二人の機嫌を損ねないようにしないと。

「えっと、えっと。ほら、好きなものを一気に食べちゃうと、もったいないじゃない!
 ちゃんと味わって食べたいから、ゆっくりがいいの」
「ふうん。でもなぁ」

反論させてはいけない。次の言葉を。

「ふ、二人のこと大事だから!!大好きだから!!
 だから、その二人のミルクを飲ませてくれるなら、
 やっぱりこんな行き成りじゃなくて、もっと、準備して欲しいの。
 あの、えっと……。
 そう!記念!みたいな感じだよ!!!特別なんだもん!
 それに制服じゃなくて綺麗な服にしたいな!!!」

どうだろう。自分でも変な言い訳だと思う。
二人の顔を伺った。

「……そっか」
「なるほど。俺はに賛成だ。お前は」
「いや……そこまで言われちゃな。オレ正装するよ。ちょっと着替えとか、色々準備する」
「俺もだ。影。手伝ってくれ。最高のシチュエーションを演出する」
「了解いたしマシた」

MZDは帰ったし、影ちゃんも作業を始めた。
上手くいったらしい。私は部屋に帰ろうとする黒ちゃんを引き止める。

「あの指輪返して。私もふ、二人のためにいろいろしたいの」
「そうだな。はい」

彼は何の疑いもなく私に指輪を返却した。

「ありがと。じゃあ楽しみにしててね!」
「ああ。楽しみだ」

私は部屋に帰って、外界へ転移した。
二人の牛乳パーティーに参加するつもりは毛頭ない。
もし追いかけて来ても準備が云々言えば見逃してくれるだろう。

溜息、一つ。

それにしても、この世界と言うものはいったい何なのだ。
牛乳はとにかく彼らにとっては大事なもので、凄いものなのだろう。
摂取ばかりするということは、麻薬みたいなものに位置づけられるのかもしれない。
でも今日何度か牛乳を飲んだ私は、牛乳の魔の魅力に取り付かれてはいない。
どうしてだろう。

また溜息が出る。こんなことになるなんて、昨日の私は思いもしなかった。
MZDが行った改変は、どれほどの範囲なのだろう。人間界だけ?宇宙は?
私は様子を見にヴィルヘルムの城へ転移することにした。

普段ならばホールらしきところへ転移するが今日はしない。
ホールに続く廊下に転移し、遠くから中の様子を伺った。

中に居るのは、ジズさんとヴィルだ。
何をしているのだろう。
あ、紅茶だ。二人はティータイムを過ごしているのだ。
飲む……いや違う、カップの中身を相手にかけた。
二人ともいつもパリッとした綺麗な服を召しているというのに、白い液体にまみれた。
そして彼らは、牧場にある大きな金属のミルク入れを持ち上げると、それでお互いにかけ合い始めた。
帽子から髪から服から、びっしょりだ。気持ち悪そう。
そう思っていたら、彼らは仮面を脱いで、服も脱ぎだし、半裸で牛乳をかけ合い始めた。
ジズさんは予想通り華奢な身体であるが、ヴィルヘルムはしっかりとした身体つきをしている。
魔術ばかりを行使するというのに、ジャックみたいに筋肉質だ。
なんだか二人の裸を盗み見る、なんてはしたなくて、恥ずかしい。
そんな私の心を知ることなく、二人は笑顔で牛乳をかけ合っている。
あのヴィルが。満面の笑みで。

駄目だ、この人たちも頭がおかしい。
近づかないようにしよう。
私は狂った二人に気づかれぬようヴィルヘルムの城を後にした。

私は魔界の森の一番高い木の上で、人々の様子を眺めていた。
魔界に牛乳なんてないと思っていたのに、何故か魔族たちは白い液体を浴びていた。
湖面も光を受けてきらきらと輝いている。白銀に。

どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
何が悪かったのだろう。どうして私だけが普通なのだろう。
……もしかして原因は私なのだろうか。
二人に心配かけて、迷惑かけて、ってずっとしてきたから、二人が壊れてしまった。
そして、世界が、うしのちち、────牛乳に支配された。

……でもなんで、牛乳?
いや、牛乳であることは関係ない。
二人の、みんなの頭がおかしくなったことが問題なのだ。

生けとし生きるものが牛乳を愛し、敬い、崇めている。この世界。
私だけが、違う。
いっそ私がこの価値観に慣れてしまえばいいのに。
二人は牛乳狂であることを除けば普通なのだから。

黒ちゃん、MZD……。
私は胸元で揺れる指輪を手に取った。
磨いても無いのに光輝くシルバーリング。
二人から貰った、大事な物。

いや……違う。違うんだ。
そうじゃないんだ。
なんで気づかなかったんだ。

私のこの掌の上には今、神様の力がある。
今まではどうして私にだけ二人の力があるのかは判らなかった。
人間である第三者の位置の私が、何故、このような力をと。

けれど、これで判った。
私がこの力を授かったのは、この日のため。
壊れてしまった世界をもう一度作り直して、元の平和な日々に戻すためにだ。
気付いてしまえば簡単だ。

答えはずっと私の傍に寄り添っていたんだ。

私はリングを手に、祈りの姿を取った。
元の世界のことを思い出し、そのイメージを鮮明なものにする。
他の音も映像も頭には入れない。求めるエデンを思い描いて集中する。

これから行うのは世界の改変だ。多分並大抵の集中力では失敗する。
もしかしたら、私は願いを叶えた後壊れるかもしれない。
でも、それでもいい。私一人の犠牲で、皆が幸せになれるのなら。

────この世界が元の平和な日常に戻りますように。

リングが壊れるほど、強く握った。




















目を、見開いた。
世界は、

────白い。

……どうして。
やはり私では力不足なのか。
所詮神ではない人間の身で世界を改革することは不可能なのか。
頭を垂れていると、世界から雨が降る。
頬に落ちた一滴を掬って見ると、それは牛乳だった。

ははは。
いったいどこまで牛乳に染まれば気が済むんだこの世界は。
折角シャワーを浴びたというのに、また牛乳まみれだ。
だがもう、匂いなんて気にならない。
ただただ絶望を感じるのみで。

魔族たちは空が与えた乳の恵みに狂喜し、天を仰ぎ、地に落ちた白濁液をすすり、雄たけびをあげる。
私の口から乾いた笑いが零れるばかり。
私も、彼らと同様に壊れてしまえば、この状況に歓喜することが出来たのだろう。
なのに、私は。
どうして狂う事が出来なかったのだ。
狂うことは悪いことではない。正常であるが故の孤独なんて私はいらない。

「黒ちゃん……MZD……」

私は、一人だ。
人間という種族として誕生したというのに、人間には馴染めず、また異界の者にも慣れなかった。
そのせいで孤独に苛まれ、いつも私は一人なのだと思っていた。

でも違った。
二人だけは。異種族である私をいつも気にかけてくれた。
私は一人ではない。私たちは三人だ。

なのに。

私はそれを壊した。弾かれた。同調できなかった。狂えなかった。
いや、狂っているのはこの私なのだ!この世界で唯一の狂人はこの私なのだ。

この狂った世界に、狂った私は一人、だ。

私は白濁とした重い空を睨みつけた。ぽたりぽたりと気色の悪い液体が頬を伝う。
憎らしい!憎らしい!憎らしい!憎らしい!
この世界は白く汚く、汚らわしい!!!

……浄化しなければ。
白に呑まれてはいけない。

行こう。まだきっと手はある。私はこの世界を救わなければならない。
もう一度よく考えよう。
世界の平和のために。何が足りない。何が必要だ。

そうだ。社会の勉強であったじゃないか。
神様へのお願いには供物がいる。
今思えばヴィルの城の本にも沢山記述があったではないか。
願いを届けるための儀式の際には必ず犠牲が必要だと。
特に、大きな願いなら命が対価になると。

供物は私自身の身体と命、神の力を。捧げよう。世界に。

世界に私を捧げるにはどの場所がいいだろう。
私は手頃な場所を探してふわふわと飛んでいく。
火山を見つけた。中は溶岩ではなく、ミルクだ。あつあつの牛乳がぶくぶくと音を立てている。
ここならいいだろう。
この火山は天に届きそうな程高いから私の身体をちゃんと捧げることが出来そうだ。

私は今まで見てきた世界を思い出しながら、煮だった牛乳の中に身を投げた
今度こそ世界が平和になりますようにと。





黒ちゃんと、MZDが元に戻りますように────















」「

声が、聞こえる。懐かしいあの声は。















!大丈夫か!」
「おい!!起きろ!起きるんだ!!!」

黒ちゃんに、MZD。
私、死んだのかな。
ちゃんと供物になれたかな。
世界を救えたかな。

「何馬鹿なこと言ってんだ。起きろ!」

起きてるよ。大丈夫だよ。

「あぁもう!!現実に帰って来い!!!!!!!」

破裂音と共に、頬に熱い痛みが生じた。痛い。ひりひりと、痛い。
思わず涙が出てくる。

「痛いよ……」
「ああ痛かったろうな。現実だからな。痛いのは当たり前だ」
「げ、現実って?」

いき、てたの?

「滅茶苦茶うなされてるし、どうしたのかと思ったぞ」
。俺がわかるか?」
「黒ちゃん。こっちがMZD」
「記憶は無事のようだ」

二人は……。

「黒ちゃんたち元に戻ったの?」
「戻るもなにもいつも通りだ。こそ、いつまで夢に入り込んでいる。帰って来い」
「夢?」
「そう。今の今までずーっと爆睡。んで、ずっとうなされてんの」
「呪いでも受けたのか。だったらそいつを探って、ころ、いやなんでもない」

私、寝ていた?
あれは全部、夢、幻。

「本当に二人は普通なの?もう無理やり白いのかけたり、二つのお口から白いのを飲ませたりしない?」
「ブッッッ。だ、誰だ、そんな下のお口とか言ったや、」
「黒神!!余計な言葉を付け足すな」
「ねぇ?しない?絶対?」

二人とも手に白いものは持っていない。周囲にもない。
私は彼らが豹変しないかどうか、じっと見つめた。
すると、彼らは顔を見合わせ、溜息をついた。呆れているようだ。

「……しねぇよ。オレはに酷いことはしません。無理やりもしません。誓います。黒神も!」
「あ、あぁ。しない。が望まないことは。しない。……しない……」
「良かった」

この世界は正常だ。あれは全て悪夢。非現実の出来事。
私の神様たちはいつも通りの大好きな彼らだ。

、さっきのこと誰に聞いたんだ?その、白いのが云々って」
「うん。あのね、黒ちゃんとMZDが言ってたの」

私がまだ言い終えないうちにMZDは黒ちゃんに向かって怒鳴り散らした。

「黒神!!!に変態なこと教えるなんてお兄ちゃん許しません!」
「テメェこそ!!にやらしいこと言ってんじゃねぇぞ!!!」

二人は怒鳴りあい、口喧嘩を始めた。内容を聞く限りじゃれ合いのレベルだ。
仲裁する必要はないだろう。気にせずこのままベッドに寝転ぶことにする。
自分のベッドはとても落ち着く。もう牛乳のことを気にしないで良い思うと気が楽だ。

「ぶっかけがしたいなんてどんだけを征服したいんだよ!!十分支配してんだろ!」
「テメェこそ、を輪姦(まわ)す気でもあんのか!!上と下の口を同時に両方同時にかふざけんじゃねぇぞ!!」
「はぁ!?したとしてもお前との3Pまでだっつーの!」
「テメェはくんな!には俺一人で十分だ!!」
「お前一人じゃをぶっこわすに決まってんだろ!ド変態!!どんなプレイさすつもりだよ!!」
「ンなの口で言えるほど、少なくねぇよ!!!多種多様考えてるに決まってんだろ!
 俺がどれだけの妄想でしてると思ってんだよ。なめんじゃねぇ!!」
「変態を誇るんじゃねぇ!お前にはやれねぇ!!オレが貰う!しっかりノーマルプレイを植えつける」
「もう調教じゃねぇか!!テメェ、ノーマルにやるつもり全くねぇだろ!!!」

うん。なんだろう……二人の言う事の意味が判らない。
それに煩い。折角身体を休めたいのに、これでは疲れてしまう。

サン。お二人はこのままで、こちらへ」

影ちゃんの提案に私は頷き、そろりと部屋を抜け出した。
そのままMZDの家へ行き、使用していない部屋へ。
客間らしく、ベッドがあり最低限の家具がある。ここなら寝られそうだ。

「有難う、影ちゃん」
「イエイエ」

ベッドに飛び乗ると、影ちゃんが背後に回った。
多分着替えだろう。MZD曰くうなされていたということだし、今着ている服はぐっしょりと濡れている。
そのため新たなパジャマを持ってきてくれたに違いない。
影ちゃんはとても気がきく。
気だるさを感じる私はそのまま目を瞑り、影ちゃんにされるがままに身を投げた。

なんか、痛い。
痛い、というか、苦しい。

身体に感じる違和感の正体を確かめるため、私は目を開けた。
己の身体を見る。何故か縄で身体中が縛られている。

「え、あの……なんで?」

私を縛って何の意味があるのだろう。

「大丈夫デスよ。縄は貴女の女性らしいお身体をくっきりと映し出しマス」

影ちゃんはこんなこと言わない。しない。
てことは、私。

まだ夢の中から抜け出せていない────










────Endless Nightmare





fin.
(13/03/01)