「黒ちゃん助けて!!」
「どうした!!!!」
「玄関に魚が死んでる!!!」
「!?」
土日祝日に振り回されることのない、神の半身は自宅で適度に仕事をこなしながら待っていた。
成績が芳しくなく、補修で休日登校するを。
昼前で空腹を感じていた黒神の元、ドタドタと走って家に飛び込んで来たが言ったのがさっきの通り。
「わ、判った」
状況が理解出来なくとも、に助けを求められたのなら放ってはおけない。
黒神はの手を握ると、彼女が出くわした現場へと空間を渡った。
「……」
MZD宅の玄関前。
言う通り、魚が死んでいた。
だが、メダカや鮒という話ではなかった。
の言う魚とは、魚の姿をした人間ーー所謂魚人であった。
「……これって、お庭に埋めてお墓作ればいいの?」
「金魚や亀ならそれで良いが……。
(こんな大きくて、生臭い奴、アイツの庭とはいえお断りだ。
燃やすのが手っ取り早いが、が死体を見てる。
下手な処分は後々俺の首を絞める事になる)」
からの評価を下げない事を第一に考えた末、黒神は言った。
「じゃあ、隅にでも埋めるか(俺の空間じゃないし、死体の一つや二つ良いだろう)」
「家族とか……良いのかな?」
「仲間意識はあっても、親子意識は薄い。魚だからな」
口から出まかせである。
これ以上"他人の敷地内で野垂れ死んだ奴"の為に労力を割きたくなかった。
「そうなんだ……。やっぱり黒ちゃんはなんでも知ってるね」
「……まぁ、神だからな」
毒のない笑顔に罪悪感が芽生えたが、それを振り払うように黒神はシャベルを手の中に出した。
「汚れるからは離れていろ」
さっくさっくと庭を掘る黒神。
途中、能力で穴を空けてしまえば良かったのではないかと思ったが、既に遅かった。
「ー。終わったからそいつを入れるぞ」
「待って。お水かける」
「何故」
「綺麗にしてから埋めてあげた方が良いかなって……」
「そうか」
得体の知れない者にも優しくできるに感動しつつ、黒神はの成すことを見ていた。
庭の水道にホースを差し込み、は魚人にまんべんなく水をかけた。
まばらに付着していた砂や小石が流れ、遺体が綺麗になっていく。
その時、カッ、と魚人の目が開いた。
「魚魚魚魚魚魚魚!!!!」
二人は声が出せない程驚いた。
当たり前である。何せ遺体が動いた挙句、大声を上げたのだから。
魚人はぬらりと立ち上がると、手に持ったネギで近くにいたに襲い掛かった。
気が動転したの頭は真っ白で、指輪に込められた能力を発動させることが出来ない。
の危機にいち早く反応した黒神はの前に立つと、振り下ろされたネギを掴んだ。
「……葱!」
魚人にとって唯一の武器であったであろうネギ。
それを受け止められて動揺した隙に、黒神はネギを奪い、無言で魚人を叩いていった。
ネギは所詮ネギである。
黒神に振り下ろされる度に、身が裂け、身を散らし、ツンとした匂いを漂わせる。
ボロボロに引き裂かれたネギは、まるでバラ鞭のようであり、魚人は身を捩って痛がった。
だんだん楽しくなる黒神とは逆に、はだんだんと黒神の方に恐怖を覚え、引いた。
「く、黒ちゃん……それくらいで……」
「そうか」
顔を引きつらせるに言われ、黒神は名残惜しいながらも、手を下した。
魚人はネギの破片とネギの汁に塗れながら「魚魚魚」と泣いていた。
「あ、あの……、すいません」
「魚魚魚……」
「え、えっと……痛がっている所申し訳ないのですが、
どうしてここで倒れていたんですか?」
「魚魚魚……」
「……。黒ちゃん。叩きすぎたみたいだよ」
「なら、最初から襲うな。自業自得だ」
さて、死んではいなかった事には安心したが、この魚人の目的が判らない。
どうしたら良いものかと考えあぐねていると、スーパーの袋を下げたMZDが帰ってきた。
「あ、ウオヲじゃん。どした?って、ネギくさ。
何なんだよこの状況。……まさか、黒神?」
頷いたを見て、なんとなーくMZDは察した。
いつものパターンである。
「え~っと……ネギまみれだし、とりあえず、風呂でも入る?」
◇
「まさか、キレるとは思わなかった。しかもガチギレかよ」
「鍋にされると思ったんだね……魚だから」
「自惚れが過ぎる。あんなの食したいと思うか?いや、俺もも思わない」
「オレだって、気は進まねぇよ!」
風呂に水を張ってやると、ウオヲは喜んで浸かった。
まるで水槽の魚みたいだと、は思った。
「で、お前どーしたの?オレんトコに来るわけだし、なんかあったのか?」
「相談」
風呂に浸かりながら語るウオヲの相談事を、三人は脱衣所に座って聞いた。
「成程……不幸が続くと」
「可哀想……」
「自分が一番不幸、とばかりに主張するな。鬱陶しい」
「(ごめん。それはお前が言える立場ではないと思う)」
「どうせ下らない事の積み重ねだろ。俺達が出来る事は何もない。帰れ」
「怒!」
「お、落ち着いて……」
「体験城!」
「……よし。じゃあ黒神GO」
「はっ?!なんで俺が」
「え~、に行かすの?」
「お前が行けば良いだろ」
「ヤダ。オレ今から飯作んの。お前との分も買ってんだからな」
「黒ちゃん、行こっ。不幸が続くのって可哀想だよ。
それに、何か原因があるなら探してあげた方が良いと思う」
「(面倒臭いと言うのが本音だが……)
判った。でも俺の家にあげるつもりはないから、ここにいてもらうぞ」
◇
「なんでこんな事に……生臭い。お前日光の元で腐ってないか?」
「持戸近国寄例!」
家の中にいるだけで、早々不幸なんて起きない。
それに、折角の料理に何かあったら困る。
と、言う事で、ウオヲと黒神、は町を歩いている。
「(これが二人きりならデートなのに……魚)」
「私だけ後ろにいてごめんね」
「良いんだ。に何かあったら困るからな。
その代わり、後ろから様子を観察していてくれ」
さっきも言ったが、今日は休日である。
言い換えれば”とダラダラベタベタにゃんにゃん出来る日”。
それが、泥臭い魚男と行きたくもない汚らわしい外に行かなければならないなんて、
それこそが黒神にとって不幸であった。
早くウオヲの不幸の下らなさを証明し、とらぶらぶきゃっきゃうふh
「黒ちゃんが消えた!!!」
後方で歩いていたは、黒神消失地点へと駆け寄ると、地面には大きな穴が開いていた。
「……ま、マンホール。くろちゃーーーーん!!!」
くろちゃーん
ちゃーん
ちゃーん
ちゃーん
「もしかして……水の中に落ちて……」
とにかくマンホール下の空間へ行って助けに行こう。
と、が地下を透視し、座標を定めた所で腕を掴まれた。
「大丈夫。ここにいる」
「黒ちゃん!大丈夫なの!?怪我は!?」
「間一髪の所で空中で止まれた。掠り傷すらない」
「……良かった」
心底ほっとしたような顔をするの頭を撫でながら、
黒神はウオヲを睨んだ。しかし、ウオヲは怯まない。
「座間亜見露!」
寧ろ得意げになって笑っていた。
「チッ、行くぞ」
二、三発殴ったところで、三人は目的のない散歩を再開した。
「……黒ちゃんと会った事がウオヲさんの不幸なような」
◇
「黒ちゃん……お腹すかない?」
「そうだな、すっかり忘れていた。すまない、気づかなくて」
補修は午前中のみだったので、弁当は持参しなかったのだ。
黒神も、と同時に食事をとる予定だったので、空腹である。
「なら、適当に食べるか。行きたいところはあるか?」
「近いなら何でもいい」
一番最初に目についたうどん屋へと入った。
「ナチュラルに入ってくるな」
当たり前のように自分の目の前に座るウオヲに軽い眩暈がした。
に宥められ、会計は別々だからと念を押すことでその場は収まった。
「私はきつね」
「俺はたぬき」
「特製天麩羅饂飩大盛」
「お前、一番高いもの頼んでるけど、俺は一銭も出さないからな」
最初に来たのはと黒神だった。
「はい、黒ちゃんお箸」
「ありがとう。麺類だし俺たちは先に食べるからな」
「魚意」
熱いうどんを、ふぅふぅしながら食べるにほっこりしながら、
黒神はずるずるとすする。
少し経って、ウオヲが注文した特製天ぷらうどんが来た。
器からはみ出すほど、デデーンと天ぷらがのっている。
「どっちがメインなのか判らないな」
「怒怒怒!」
「うるせぇ。焼くぞ」
「あの、何を怒っているんですか?」
ウオヲは天ぷらを指さした。
はメニューを取り出し、写真と実物を見比べた。
「あ、海老がない!」
「是我災」
「下らねぇ……。テメェの言う不幸はこういう事かよ。
すいませーん、注文したものと少し違うのですが……」
店員に伝えると深々と謝罪され、お詫びにと海老が二本の所を三本持ってきてくれた。
それをガツガツと食べるウオヲ。
「こんなの言えば良いだろ。いちいちキレんな」
「(……それは黒ちゃんも同じ……だけど、黙っとく)」
「海老の二つや、三つ、どうd」
一瞬の出来事であった。
パリンとガラスを割って飛んできた何かが、黒神の後頭部に当たったのは。
「◇●ΔΣΡψ!!」
は言葉にならぬ叫び声をあげた。
「どわあっっちぃい!!」
器にどっぷり浸かった顔を上げ、黒神は手拭きを探したが見つからない。
店員が即座に持ってきた、新しい手拭きを掴む。
「熱っ!」
しかし、そのあまりの熱さに思わず手を放す。
は自分が使っていた冷えた手拭きを使い、黒神の顔を拭った。
別の店員が氷水で冷やしたタオルを持ってくる間に、割れたガラスを見る。
「(マンホールに続いて……。
私たちがいなかったら全部ウオヲさんに起きていた事なの?)」
◇
その後も、様々な不幸が黒神を襲った。
うどん屋から出た瞬間にこけた。
上から植木鉢が落ちてきた。
偶然リードが外れた犬が噛みついてきた。
風で飛んできたチラシが風俗ものだった。
電柱にぶつかった。
横断歩道の真ん中で立ち往生していた老人を助けたら怒られた。
黒服の男たちに襲われた。
ナイフが飛んできた。
幼女()をさらった不審者として職務質問を受けた。
「……一部、冗談で済まないものがあるんだけど」
「是出判津田可」
「……ウオヲさん、こんな事が毎日起こるんですか?」
「早田!……多分大体……否、是大杉……?」
いくら黒神が神で死ぬことがないとはいえ、流石にふらふらだった。
「(帰ってを抱いて寝たい……)」
矢継ぎ早に起こる不幸であったが、未だ原因は判らなかった。
「ねぇ、黒ちゃん、次はどこに行こう」
「次?……そうだな……出来れば何も飛んでこなくて、何も落ちてこなくて、
足元が安全で、工事をしていないところが良い……はは」
と言ってる間に、黒神の身体に鳥の糞が落ちてきた。
は思わず身を引いた。
黒神はショックを受けた。代わりにウオヲを殴った。
「……ご、ごめんなさい。反射的に、つい……」
「は悪くない。気にしないでくれ……」
「魚……魚……」
時間を巻き戻し、黒神の身体は綺麗になったが、はあまり近づいてこない。
「やっぱり嫌か?嫌なのか?汚い俺は嫌?駄目なのか?死ぬべき???」
「そんな事ない!違うよ!違うから!!」
の言う事は真実である。
黒神の事を汚いなどとは、ちょっぴりしか思っていない。
「(ウオヲさんが不幸だって事だったのに、うどん屋の件以外は何もない。
何かあるのは全部黒ちゃん。こんなのおかしいよ。偶然じゃない、絶対何かある)」
神の力を発動するであるが、手がかりは無い。
黒神ですら気づかないのだ。程度が判らなくとも当然である。
「に嫌われた……死のう。車に轢かれてくる」
「黒ちゃん!駄目!ねぇ、お風呂行こうよ!銭湯!」
◇
「魚魚!」
「なんで嬉しそうなんだよ……さっきは食べる気かってキレたくせに」
"""風呂"のキーワードの組み合わせで元気を取り戻した黒神であったが、
よくよく考えてみれば、男女は別の風呂であった。
「(それにしても、は大丈夫だろうか)」
黒神の予感は的中。
は初めての銭湯に困っていた。
「場所どこ~。トイレ~」
トイレを求め、一度女湯を出た。
上を見て歩けば、トイレへの場所が書かれている。
「あった!」
駆け出したは誰かにぶつかった。
「っ。ごめんなさい」
「つー……。こちらこそ、すんません」
「って、ニッキー」
「げ」
「げ、って何」
「い、いや、別に。はははははは」
そそそそそと逃げていくニッキー。
普段遊ぶ場所とは距離があるこの町のこの施設で出くわす事に違和感を覚えた。
「あ、トイレトイレ!」
しかし、お花摘みタイムで疑問もろとも水に流れた。
その後無事にお風呂に浸かる事が出来た。
場面は変わって、黒神とウオヲ。
「……」
「笑笑笑笑笑」
「……コロス」
落ちていた固形石鹸で足を滑らせた黒神は熱湯に頭から落ちた。
熱いと飛び上がると、今度は淵で滑り隣の水風呂に落ちた。
冷たいと飛び上がると、今度は桶の山に背が当たり、全部まき散らしてしまった。
今はちまちまと桶を集め、元のように重ねている。
「……あの魚オロス。五枚にオロス。削ぐ。削ぎまくる」
ウオヲ殺魚計画を立てる間に、桶は元通り山になった。
「よし。ようやく風呂に浸かれる」
湯船へと足を伸ばすと、あるはずの底が無かった。
「!!!!」
水深三メートルはあるだろう。
黒神は急いで浮上した。ウオヲは優雅に泳いでいた。
「っっっ、いい加減にしやがれ●▼*#&!!!!!」
度重なる仕打ちに、黒神の怒りのボルテージは最高レベルに達した。
その心からの叫びは、女湯にいるにまで届いていた。
「……怒ってる。危ない」
一見するとただの人間に見える黒神であるが、その正体は破壊を司る神。
怒りのまま力をふるい、辺りを消し炭にする事が出来る力と傲慢さがある。
は空間を転移した。黒神を鎮める為だ。
「黒ちゃん!」
「あ」
を見て真っ赤になった黒神は仰け反り、足を滑らせ後頭部は風呂の淵へと飛んでいった。
最も恐れられる神の一人は、気絶した。
「黒ちゃん!!大丈夫!!」
周囲が注目していた。
それは黒神が倒れたからではない。
男湯に"裸の女"が現れたからだ。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「あの、人が倒……」
普段関わる事のない、中年期や壮年期の男性。
それも全員裸で、を囲うように立っている。
彼らの表情を見て、は自分の格好と状況に気付いた。
「え、あ……」
どうしよう、と身を固くすると同時に、身体が強制的に空間を飛ばされているのを感じた。
「……」
「淑女がいけませんよ。あのような醜態」
は状況が理解できなかった。
何故自分の傍にヴィルヘルムとジズがいるのか。
そして自分が何処にいるのか。
「放っておけば宜しいのに、貴方も過保護ですね」
「ヴィル……」
の身体はヴィルヘルムがいつも身に着ける外套に包まれていた。
「あの、どうして二人は私を?それにここは何処?」
「貴女の事は予定外です。それと、ここは管理室ですよ。この施設の」
辺りを見渡せば、大きな機械が手狭に並んでいる。
機械だけで、従業員はいない。
「さっさと服を身に着けろ。外套は返してもらう」
「あ、はい」
籠の中に入れた服を転移させ、はそれらを身に纏った。
途端、奪うように外套を取られた。
「……ここで、何をしているの。二人が人間の町に来るなんて変だよ」
「ほらやはり疑われた。だからお嬢さんはあのままにすべきだったんです」
「見苦しいものを見させられる事が不快だっただけだ」
今一つピンと来ないであったが、ジズの足元にいる操り人形が持ったナイフに目がいった。
今日黒神が襲われたナイフとそっくりである。
となると答えは一つ。
「……おかしいなとは思ってたんです。
でもまさか、それが二人の仕業だなんて……」
「私たちだけじゃありませんよ。彼に一泡吹かせてやりたい。
そう思う輩は数多くいますから」
トイレ前でニッキーに会った事を思い出した。
「みんなどうして……」
「貴女が判っていないだけで、彼は恨みを買っているのですよ(主に貴女のせいで)」
「でも、こんなの酷いよ。寄ってたかって……弱い者イジメみたい」
と、が本気で言うと、二人は小さく噴き出した。
「面白いジョークですね、お嬢さん」
「弱者であったならば、即捻り潰してやれたのだがな」
明らかな敵意を振り撒く二人は、テーブルを囲んで紅茶を嗜む時とはまるで違った。
はここから逃げる事を決めた。
「とにかく、私は戻るね。悪いけど、黒ちゃんにこの事は伝えるから」
「そうさせるとお思いで?」
ずらりと並ぶ操り人形。
「貴様が勝てるとでも?」
細身の剣がその手には握られていた。
「(だから、気づかなかったんだ。魔力を使わずに行動していたから)」
普段とは段違いの念の入れように、も彼らへの好意を一旦捨てた。
今日は敵同士である。
「……二人こそ、力の差は歴然だよ」
「策はある」
じゃーんと、ジズは写真を取り出した。
「どうぞ」
「はぁ……」
写真には先ほどが男湯に現れた所が写っていた。
全裸である。何から何まで丸見えである。
具体的に、何処がどのように、とはのプライバシーの為に言わないが、
とにかく何もかもが丸見えなのである。
「!」
「貴女が余計な事をするならば、これを撒きます。
……貴女の学校に」
「!!」
「それとですね、丁度少年と会いまして。人形を使ってその方にあげてしまいました」
「!!!」
「人形を通して見ましたが、とても喜んでいらっしゃる様子でしたねぇ。
鼻血まで出されて、私は驚いてし」
「ニッキー!!!!!!!」
は戦闘を放棄した。
「……チョロかったですね」
「所詮は子供」
「渡せるだけの時間なんて無かったと言うのに。
彼女はとってもお馬鹿さん」
「邪魔な娘は消えた。まだ遊ばせてもらう」
「えぇ。生意気なあの男をお仕置きする絶好の機会です。
あの男は私の人形を次から次へと破壊して……
おまけにお嬢さんに手を付けておきながら、私の趣味を馬鹿にして」
「誰がどんなお嬢さんに手を付けるんだ?」
ジズは嫌な予感がした。だが遅い。
「お前も、ほーんと学習しないな。俺に適う筈ねぇだろ。幽霊如きが」
「お、おやおや、ご機嫌麗しゅう漆黒の神よ」
「何が漆黒だよ。髪の色だけじゃねぇか」
ジリジリと迫ってくる黒神。
ジズは助けを求めようと視線を横へと滑らせた。
さっきまでいた男は忽然と消えていた。
「ヴィルヘルム!!!」
「安心しろ。アイツもじっくり甚振ってやるよ」
ストレスを溜めに、溜めた黒神は、
口角を限界まで吊り上げると、絶対的な神の力を振るった。
◇
「はぁ。写真を渡したのが嘘で良かったよ」
「アイツが撮った物は全て処分した。どんな力をもってしても復元することは出来ない」
「ありがと、黒ちゃん」
三人と一匹はこたつに入って、MZD特製の鍋をつついていた。
「しっかしなぁ……。オレはスミ子に兄弟が出かけたって言っただけだったんだが……」
「そこから情報が巡って、今なら黒ちゃんに嫌がらせをしてもバレないって広まったらしいよ」
「どいつもこいつも。馬鹿しかいねぇのか、この世界には」
をきっかけに少しだけ世界の住民と関わるようになった黒神であるが、
その多くの者に恨まれる事が出来る事は感動すら覚える。
その全てがに纏わる事だと考えると、災厄の根源は黒神ではなく……いや、やめておこう。
「あ、俺の育てた鱈!テメェ魚なのに食べるのかよ」
「鯉以外共食違」
「ウオヲさんって、鯉だったんだ」
fin.
(14/11/19)