もっと、とねだる

「"あれ"に近づくな。ろくなことが起きないぞ」
「"あれ"の後ろに控えているのは、神なんだから」

外の世界は、思ったほど楽しい所ではなかった。
他と違うところが多すぎる私は人間と言う集団に排斥される。
いくら理解者がいたところで、その多くの無理解者たちにどんどん追い詰められていった。

湧き上がる感情──それは怒りであったり悲しみであったり、それらを抑える以外どうしていいのか私には判らない。
解消方法を知らない私は、馬鹿の一つ覚えでただただ耐え、家で待つ彼らに出来るだけ見破られないようにするしかなかった。

「ただいま」
「おかえりー!」

今日も学校から帰るとMZDが笑顔で出迎えてくれた。
私は先ほどまで抱いていた感情の全てを押し殺して笑みを返す。
そのまま小さく手を振って、黒ちゃんの家の扉を開いた。

「おかえり」

黒ちゃんは既に玄関の前に立っており、MZDと同じく笑顔で私を出迎えてくれた。

「ただいま。黒ちゃん」

そんな彼を見ると憑き物が全て落ちたような気になりほっとする。
伸ばされた腕に抱かれて彼の体温に包まれていると心が安らいだ。
それと同時に、耐えている様々な感情が溢れだしてきそうになる。

そうなってはいけない。
私は彼をそっと押し戻し、荷物を置いてくると伝えて自室へと向かった。
鞄をかけて制服が皺になることも構わずベッドに横になると、今日あった沢山の嫌なことが脳裏を駆け巡る。

良いことだってあったはずなのに、何故か思い出すのは悪いことばかりで。
何を言われて、どういうことをされたとか。
そんなもの、脳内再生したところで悲しくなるだけなのに。
全てを忘れてしまおうと瞳を閉じてみても就寝には至らず、寧ろその日一番辛かった出来事だけが何度も繰り返し流れていって余計に落ち込んでいった。

部屋には今、誰もいない。
その状況に気が緩んだ私は少しだけ涙を流した。
隣にいる黒ちゃんに気付かれぬよう、声を忍ばせて。
でも、やっぱり、駄目なのだ。



普段はノックをしてから入室する黒ちゃんなのに、こういう時だけは侵入を悟らせない。
流していた涙を急いで止めて拭き取ったが、この顔では彼の方を向けないし声も出せない。

「そのまま横になっていていい。疲れているだろうからな」

そう言った黒ちゃんはベッドに腰掛けたのだろう、少しだけベッドが揺れた。
私はこの状況下でどうすればいいだろうと軽いパニックに陥っていた。
振り向くことは出来ない。覗きこまれることも困る。
石のようにジッとしていると、そっと頭を撫でられた。

「お疲れ様。夕食までそのまま少し寝ていると良い」

彼は優しい手つきで撫でてくれ、指先を髪に絡ませて梳いていく。

「よく頑張ってるは、良い子だな」
「……ん」

あまりの気持ちよさに今すぐにでも彼に全てを打ち明けたい衝動に駆られる。
しかし、ここまで我慢したのだから最後まで口を閉ざしていたいとも思う。
私は余計なことを言わないように、彼がすすめてくれたように瞳を閉じて寝ることにした。

指先が髪を撫でる感覚に私は思わず声を漏らす。
実際に触れられているのは頭部だと言うのに、身体全体が撫でまわされているように思える。
それだけ彼の撫で方が上手いと言うことなのだろうか。

……」

彼が呼ぶ私の名。
あれ、なんていう指し言葉ではなく、という個人名を彼の口が紡ぐ。
くすぐったい気持ちで五感が捉えた彼を堪能していると、そのうち、額に柔らかな感覚が生じた。
思わず目を開けると、視界の端で彼が私を見ていた。
彼と目があったことに慌ててしまった私は急いで枕に顔を埋める。
すると、彼が心配そうに言った。

「……こういうこと。嫌いだったか?」

撫でられることは大好きだ。
されてる間は嫌なことが私の中から消えていく。
私は彼に顔を見られてはまずいということに構わず、彼の方へ振り向いた。

「好き!……好きだよ……だから、もっと…………」
「その言葉の続きは?」

彼は私の頬に触れ、私の目線を上へと傾ける。
視線が重なり合う中私は答えた。

「もっと……して、ください」

私の答えを知っていたに違いない彼だが、何故か私の言葉に目を泳がせた。
何が悪かったのだろうと考えていると、彼はゆっくりと顔を近づけ、
そのまま頬に唇を寄せた。小さく鳴る音に私はいけないことをしているような気になりどきりとする。
彼は私の背に腕を回すと、今にも飛び出しそうな心臓と彼の胸を押し付け合った。
煩い鼓動はきっと彼に丸聞こえ。変な子だと思われていないだろうかと、私は心配になり少しだけ彼を押し返した。
だがすぐに彼は私を引き寄せて、逃がさない。
更に、今度は耳へ唇を寄せる。
私が声をあげると、彼は鼻先で私の頬をかいた。まるで動物みたいに。

「黒ちゃん……」
「ああ、大丈夫。はそのまま俺に任せていればいい」

言葉の意味は判らぬまま、彼の誘導に素直に従う。
ベッドに仰向けで寝そべり、足だけを起こすと、彼が丁寧にソックスを脱がせてくれた。
つけっぱなしのネクタイもしゅるしゅると解いてくれる。

「このままだと制服が皺になってしまうな」
「でも、もう夜になるからお風呂へ……それに外行ったから私汚いし」
「汚くない。風呂はいつもの時間まで入らなくていい。とりあえず今は着替えよう」

そう彼が言うので、今から着替えようと半身を起すと、彼はそれをたしなめた。

は今日疲れているんだ」
「でも」
「俺がする。はそのままでいるんだ」

彼がやけに強く言うので私は素直に受け入れることにした。
しかし寝そべったままでは脱がせにくいだろう。彼はどうする気なのか。
彼はまず私のブラウスに手をかけた。一つボタンを外しただけで私の胸元にすっと新鮮な空気が入っていく。
なら次のボタンも外れたら更に外の空気が私の肌を冷やすだろう。
私はもうすぐ開放感を心待ちにしていた。
しかし、思ったほどボタンは外れていかない。
彼を見ると、真っ赤な表情を浮かべている。

「どうしたの?」
「い、いや!?俺は別に!?」

慌てている様子を見ると私は大人しく待っていた方が良かったようだ。
私は一度眼を閉じ、彼の作業が終わるまで待っていようと思った。
衣擦れの音がやけに大人しい。彼は私が寝るかもしれないと思い気を使っているのだろうか。
やはり彼は、いつだって優しい。
私は彼が与えてくれるこの平和で幸せな世界でしばし揺られる。

うとうととしていると、ふいに扉が開いた。

「ういーっす!元気してねぇだろ!だから今日貰ったお菓子の詰め合わせ…」

どうやらもう一人にも私の心は筒抜けだったようだ。
黒ちゃんと同じく私の身を案じ、私の元に来てくれる。

「MZD……。ありがとう」
「お前……何してんの」

さっきまで元気な顔を見せていたというのに、すっと声のトーンを落としたMZDは私に馬乗りになっている黒ちゃんを見ていた。
静かな口調ではあるが内心怒っているように見える。

「い、いや違うぞ!お、俺はちゃんと許可を貰って」

と、黒ちゃんが慌てふためいて弁明するが、MZDは黒ちゃんを私から引き剥がし、手首を持って私の隣の空いた空間に押し付けた。

「……約束。忘れたわけじゃないだろう」
「覚えている!こ、今回は違う!無理やりじゃない!」

実の兄を邪険に扱うばかりの黒ちゃんが狼狽している姿は少し珍しい。
それだけMZDが怒っていると言うことなのだろう。
私は急いで助け船を出した。

「何を勘違いしたのか判らないけど違うよ?黒ちゃんは着替えさせてくれようとしたの」

と言うと、何故かMZDは更に顔を歪めた。

「このシチュで?着替えるにはちょっと体勢が悪いんじゃねぇの?」

MZDは黒ちゃんをなじった。何を怒っているのかが判らない私は兎に角言葉を重ねた。

「多分、私が疲れてるからそれで。それにさっきまでいっぱい撫でてくれて、
ちゅってしてくれて」
「はぁ?」

私は墓穴を掘ったらしく、MZDは組み敷いている黒ちゃんの胸倉を掴んだ。

「じゃあさっきのはやっぱり!」
「違う違う!!私が全部お願いしたことなの!!
 だからMZDもそんなに怒らないで。怒るなら私にして!!」

自分のせいで二人がいがみ合うなんてそんなの苦しすぎる。
それなら私を怒って欲しい。怒る理由は判っていないけれど、その方がずっとマシだ。

「黒神……が言っていることは本当なのか?」

おずおずと黒ちゃんは頷いた。

「……ま、が望んだことならいいけどさ」

ようやく誤解が解けたのか、MZDは黒ちゃんの上から退けると私の隣に寝転んだ。
ただ、猫が獲物を狙うかのようにじーっと私越しに黒ちゃんの様子を窺っている。

「あの……何してるの?」
「監視」

気まずいのであろう、黒ちゃんは寝返りを打って私に背を向けた。

「本当に違うの。黒ちゃんは心配してくれただけなの」

もう一度弁明すると、MZDはくしゃりと私の頭を撫でた。

「ごめんごめん。怒ってるわけじゃねぇよ。
 ただ、の嫌がることしてねぇかなーって、確認」

確認する必要なんてないのに、なかなかMZDは信じてくれない。

「優しくしてくれていただけだよ」
「そうだな。黒神はのことが大切なだけだもんなー」

そこで何故かサングラスを外したMZDは私の頬を指の腹で撫でる。
耳に沿って指を滑らせ、耳たぶをふにふにと触れられてくすぐったい。

。そのままじっとしてて」

そう言うと、MZDは私に顔を近づけた。
サングラスを外したのはこの為かとぼうっと考えながら、私は彼の唇が額に触れるのを待っていた。

「……へぇ、止めんの?」

私の背後から腕が伸びており、それがMZDの額を抑えていた。

「俺が悪かった。だから……頼むからやめてくれ」
「それならいい」

黒ちゃんの震えるような声とは対照的にMZDは冷たかった。
不安に思っていると、またMZDは私を撫でた。

「ごめんな。が悪いんじゃなくて全然違うことだから」

そう言って、MZDは私の手を取って手首に口付けた。
すると背後から抗議の声が上がる

「おい!!さっき謝ったじゃねぇか!!何、手ぇ出してやがる!!」
「いやいや!全く変な意味入ってねぇから!!」
「いいや。目つきが怪しい」
「お前には言われたくねぇけどぉ!!?」

雰囲気が一転しいつものような言い合いに変貌した。
ほっとして思わず頬が緩む。
すると顔を私の顔を覗きこんできた彼らも柔和な笑みを浮かべた。



右側にいる黒ちゃんが私の右腕に抱きついた。
頬に頬をすりよせながら、その手が腰を抱き寄せる。

「じゃあオレこっち側な」

そう言って、同じく私の左腕を抱いたMZDは私の指に指を絡ませた。
肩に頭を寄せて、まるで猫のように擦る。

「……あ、の」

二人にぴたりと寄り添われた私はどちらに向いていいか判らず天井を見上げた。
すると左右から声をかけられる。

はどうされたい?」

先ほど脱がされ素足となった脚に黒ちゃんの脚が絡んだ。
黒ちゃんの柔らかな太ももが心地よい。

が望んだようにオレたちはするぞ」

絡めた指先が私の爪を撫でた。
耳に吹きかけられる吐息がくすぐったくて、思わず声をあげる。
二人に甘やかされることを拒否できない私は、出来るだけ頼らないようにしようという意志を容易く手放し、甘言にのった。

「……な、撫でて欲しい……の」

改めてお願いをしているせいか心臓が激しく鼓動する。
彼らはほんの少しだけ違う声で「判った」と言うと、頭を撫でてくれた。
それは側頭部であったり、額であったり、時には頬や腰まで。
撫でられるのは気持ち良いのだが、二人がそうっと私に触れてくる時はとてもくすぐったい。
頭はあまりそういう事がないのだが、腰回りや脚は苦手のようだ。
二人が優しく触れれば触れる程、私の意思に反して身体が震えてしまう。
悲鳴に似た声も自然と漏れてしまい、なんだか恥ずかしかった。
そんな私を気味悪がっていないかと二人を盗み見ると、どちらかの手が私の両目を覆う。
何も見えなくなってしまった。
それでも二人が変わらず私の傍に寄り添ってくれているので何も怖くなかった。
ただ、あまり暗いとこのまま寝てしまいそうだ。
ただでさえ、二人が近くにいる安心感と他人の体温の心地よさで身体の力が抜けているのに。
そう思っていると急に眠気が襲ってきて──。

「黒神!太ももは駄目だろ」

突然声をあげるMZDのせいでぱちっと目が覚める。

「そっちが頭を占領しているのだからどうしようもないだろう」
「肩とかあんだろ!腰とか」
「腰だって問題だろ。せめて腕とか」
「腕触るお前の触り方おかしくね?胸触る気かよ」
「っば、馬鹿か!ささ、触ろうとしているわけないだろ。
 何を破廉恥なことを言っているんだ。これだからお前は」
「いや、そこまで動揺されると怖ぇんだけど……」

何故また言い合いになってしまったのか。
ついていけないが、まずは上半身を起こし二人を諌めることにした。

「大丈夫だよ。そんなに気を使わないで。私はどこを触られても嬉しいし」
「それじゃこいつは駄目なんだって!オレは全然良いけど」
「テメェ堂々と俺を蹴落としてんじゃねぇよ!」
「してねぇから!!つか、元々お前が問題なんじゃん。
 さっきだってオレが来なきゃどうしてたんだよ!」
「どうもしない!ただ着替えを……まぁ、手伝っただけで……」
「その時点でおかしいだろ!そういうことが簡単に出来るってことは、
 お前はの着替えに何の感情も湧かないんだな!」
「湧くに決まってんだろうが!!こんなに可愛いんだぞ!!」
「あーもう面倒くさ!お前面倒くさすぎ!」

駄目だ。また二人は私を置いて熱くなっている。
多分触れる個所について揉めているのだ。
彼らは私のことを女の子だからと言って、過保護になることがある。
きっとそのことが問題になっているのだ。
だったらそれを取り除こう。私の意思を示せば、きっと。

「もういいから!太ももでも腰でも胸でも好きに触って!!」

言った途端、場が静かになる。
あれだけ声を荒げていた黒ちゃんが固まっていた。
だが口元は何故か笑っていて、少し怖い。
MZDははっと気付いたように声をあげた。

止めろ!黒神の少ない理性が崩壊する!!」
「知らない!!喧嘩よりも、好きなだけ触られたり脱がされてりしてる方がいいもん!!」

反射的に言葉を返すと、肩を押されてベッドに押し付けられる。
視界に映るのは赤い目と夜色の髪。
眼球を動かすがMZDの姿はない。気配すらない。
考えにくいがどこかへ消えてしまったのだろうか。

は俺に触られても嫌じゃないのか」

そう言った黒ちゃんは肩を掴んでいた手を横に滑らせた。
鎖骨に触れた手のひらが少しずつ下に下っていく。
親指が先ほどボタンを外され肌蹴た部分に触れる。
もう少しで胸に到達しそうだ。
すると、平気だと思っていたはずなのに何故だか受け入れがたい気持ちになっていく。
今の黒ちゃんはさっきまでの黒ちゃんとはどこか違う。
そのせいで、私は意識して、触れられることが悪いことのように感じて。

「俺は……が好きだから。に全て許されたい」

彼の手が私の薄い胸に触れそうになった時、私は意志に反して目を瞑った。



「あっぶねー。ギリギリセーフ」

先ほどいなくなったMZDの声が聞こえ私は目を開けた。
今度は黒ちゃんの気配と姿が無い。
あまりにも突然過ぎる展開に、私は目を見開いた。
すると私と目が合った茶髪の彼が子供みたいににかっと笑う。

「大胆も程ほどにしねぇとだぜ」

と、指を差された。私はその指を押し返して尋ねる。

「黒ちゃんはどこ?さっきまでここにいたのに」
「んー、あいつさ、ちょーっと落ち着きがないからさ、外で頭冷やしてくるってよ」

確かに息を荒げていて、指先も震えたように思う。
だが、あんなタイミングで転移を行うだろうか。にわかには信じがたい。

「それより」

ずいっと顔を近づけた彼が、再度私に向かって指差した。

もあまり変なことを言っちゃ、めっ、だぞ」

駄目と言われても私は何が変なのか判らない。
私が何かを言う前に、二人は既に争っていたのに。

「ま、さっきのはオレたちが悪かったけどな」

軽い口調で謝りながら彼は私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
なんだかよく判らないが今回のことは私が悪いわけではないらしい。
でも私は何か注意を受けるようなことをしたらしい。

こうも言う事がくるくる変わるとよく判らなくなってしまう。
さっきまでの自分の言動を思い出しながら考え込んでいると、彼が頬をつついた。
今は真剣に考えているから意地悪をしないでと言おうとしたら、彼はまるで神様みたいに優しげな笑みを浮かべていて、思わず言葉を飲んだ。

「……辛いことは我慢しなくていいんだぞ」

耳に心地よい声色が私を撫でる。

「困った時の神頼みって言うだろ?オレとあいつをもっと頼り倒してくれよ」

こんな私に慈愛を与えてくれる彼らは、私にとっての救いの神だ。
何もない私に何故彼らはこんなにも良くしてくれるのか。

「ありがとう」

この世に存在するどんな言葉も彼らに対する感謝を伝えるには足りない。
だから私が唯一知っている感謝の気持ちを表す五文字を伝えた。
足りなくとも、言わないよりは。

ってば判ってねぇな」

彼は私の両頬を包んで、顔をぐっと近づけた。
サングラスの隙間から彼の目が覗く。

「好きなことを願って良いって言ってるんだぜ。神であるこのオレ様がさ」
「……じゃあ────」

私は神様を引き寄せ、彼の耳元で"お願い"をした。











とMZDのやり取りから三十分後。

「っ……。ようやく戻ってこれた。くしゅ……寒……あいつめ」

完全に温度が調節されている異次元空間の中、寒さに震え身体を抱いた黒神がリビングに現れた。
歯を鳴らしながらの部屋に入ると、布団がこんもりともり上がっているのが見える。

「……寝られる程には気分が軽くなったか」

に何かあったと心配していた黒神は胸を撫で下ろした。
彼の中では可愛いと決まっている寝顔を見に近づくと、ベッドで寝ているのが一人ではないことに気付いた。
の隣であどけない顔をして寝ている自分の半身。

「お、俺を氷の海にぶち込みやがったくせに……っ!」

に欲情し理性を無くした黒神に罰を与えた男は、何食わぬ顔で無防備な少女の隣で寝ている。
それに対して怒りが込み上げてきた黒神は自身の力を解放した。

世界が大きく振動する。黒神の呼び声に応えて。
破壊のエネルギーが黒神の元に集まってくると、彼はMZDを外へ強制的に転移させた。
人里離れた緑に覆われた地域の上空へ。
寝ていたMZDも急に自分の身体が外の空間に飛ばされたことで、目を覚ました。

状況を理解しようと周囲を見ると、力を溜めこんだ黒神が額に青筋を浮かべていた。
察しの良いMZDは自分がついと寝てしまったこと。そしてそれを黒神に見られたことを瞬時に悟る。

さっきと立場が逆転。言い訳をするのはMZDの番。

「い、いや、オレ全然変なことしてないしー?
 にちょっと撫でてくれって言われたり、抱っことか言われただけでー?
 指先を甘噛みくらいはしたけど。で、でもでも!!は嫌がってなかったし!」
「っ!ほ、ろ、び、ろ!!!!!」

黒神の声に合わせ、大地が轟き、空間が歪む。
世界に多大な影響を与える彼らのはた迷惑なやり取りの中、原因となった少女は彼らの夢を見ながらしばしの昼寝を堪能した。
次に目が覚めた時には、ぼろぼろになった二人がソファーでぐったりしているところを目撃することだろう。

「二人とも今日おかしいよ!」





fin. (13/07/22)