全英傑で小話を書いてみた ~双代剣士編~



 ◆オイナリサマ

 今まで誰かに好きって言われてばっかりだった。
 時には出かけた先で待ち伏せされたり、どこへ行くにも追いかけられてみたり。
 そこまでされちゃうとちょっと迷惑で、困っちゃうけれど、好かれていることはとっても嬉しいの。

 だから、私がこんな気持ちになるって初めてで、どうしたら良いか判らない。

「ぬーしさんっ。今日は外に行く用事ってないの?」

 私がだいだいだーい好きなのは、独神のぬしさん!
 冷静で何事にも動じないひとなのだけど、結構抜けててそこがとっても可愛いの。

「今日はずっと本殿だよ。悪いね。外に連れて行ってあげられなくて」
「ふふ。良いの。だってわたしお伽番なんだから、ぬしさんのこと支えるのが仕事よ」

 ようやく順番が回ってきたお伽番のお陰で、ぬしさんとは一日一緒!
 本当は一緒にお買い物をしたかったけど、ここでだってやりようはある。

「机に齧りついてばかりじゃ疲れてるでしょ? オイナリサマの膝枕はいかが? もふもふつきよ♪」

 今日の為にと必死に手入れしてきた毛並みで、今日こそぬしさんを骨抜きにしてあげる。

「気持ちはありがたいんだけど、膝枕じゃ書けないからね。そういうのは休憩時間だけにするよ」

 早速玉砕。
 そうなの。ぬしさまってお仕事に一生懸命で真面目なの。
 そういうところ好きだけど、難易度を上げてる要因でもあるのよね。

 休憩に入っても、ぬしさんは膝枕を断って机で読書をしている。今日は歴史みたい。
 普段からよく読書をしていて、ミチザネちゃんやタイシちゃんと本のことで話している。
 ぬしさんに駆け寄ってもらえる二人が羨ましくて、ちょっと妬ける。

 わたしも挑戦したけれど、少し読んだら飽きてしまった。
 ぬしさんに教えてと言ったけど、これは難しいからと子供用の本をおすすめされて終わった。買ったけど、面白さは判らないし、会話についていけるわけではなかった。

 わたしはなかなか可愛いと思う。でも本殿にはそんな子がごろごろいる。
 いつもなら何もしなくてもわたしを好きになってくれるのに。
 ぬしさまは一向にあっち向いてる。

 どうしたらわたしを好きになる?
 わたしの気持ちを分けてあげたいよ。
 そうしたらきっとわたしが好きで好きでたまらなくなるよ。

 もっと一緒にいたら好きになる?
 悪霊をたくさん倒したら好きになる?
 それとも可愛くなったら好きになる?
 心と身体をあげたら、好きになってくれる?

「無理。唐変木だから」

 なんてトドメキが言ってたっけ。
 どんなに煽っても絶対に手を出して来ないからって。
 実感がこもってたのはきっと、自分が試して駄目だったのね。

 どんな気持ちで試したんだろう。
 わたしも、出来るの、かな……。

「ぬしさん! 巣禍亜斗《スカァト》の中を見れば疲れが吹き飛ぶって! わたしの追っかけが言ってた!」
「やめなさい。私はそういう趣味ないから。……それはそれとして、その追っかけの名前後で教えておいてね。大丈夫大丈夫。ただ気になっただけだからね。気にしなくていいんだよ」

 トドメキの言う通り。
 恥ずかしいのを我慢して言っても、ぬしさんは赤くなってくれない。
 わたしばっかりって、ずるいよ。……寂しいよ。

 ぬしさんを落とす案はことごとく失敗し、雑用ばかりで夜になってしまった。

「お疲れ。もう仕事は終わりだよ」
「じゃあぬしさん一緒にご飯食べよ!」
「ごめん。生憎きりが悪くてさ。こっちは気にせず食べておいで」
「それなら待つ。終わるまでずっと待つ!」
「それ食事当番からすると迷惑だから。……いいから。行ってくれると私が安心する」

 釈然としないまま、お夕食を頂いた。
 食べた後も食堂でずっと待っていたのにぬしさんは来てくれなかった。
 本当に忙しくて、お伽番が邪魔なのかもしれない。
 わたしは絶対に邪魔をしないことを心に誓って、そっと執務室へと戻った。
 お茶を運ぶくらいなら許してくれると信じて。

 執務室には明かりはなかったけれど、狐の要素もあるわたしはちゃんと闇の中の出来事が見えていた。
 ぬしさんは机をじっと睨みつけていた。
 大きく見開いた眼から涙が流れていて、わたしは反射的に部屋に入ってしまった。

「お。オイナリサマか」
「違います」

 わたしは淹れていたお茶を置いて、ぬしさんの机の前に座った。
 ぬしさんはわたしを見て迷惑そうだったけれど、追い出す事はなかった。

「……こんなことすべきじゃないって判ってるんだ」

 大きな溜息をついて、ぬしさんは言い訳をするように早口で言った。

「指揮官が泣くべきじゃないのに、考えると溢れてくるんだ。どうして私は冷静でいられないんだろう。もっと頭があれば良かったのに。まとめ役なんて、英傑の方がよっぽど向いてる」

 ぎゅってしてあげたい。
 でも耐えた。
 優しくしたら消えてしまうような気がして。

「わたしが有名なのは知ってるでしょ? 界中で祀ってもらってて、願い事もいっぱいされるの。お願いされたからってわたしが何かしてあげるわけじゃないのにね、翌年には上手くいきましたって言いにきてくれるの」

 唐突な話にも関わらず、ぬしさんは聞いてくれているみたい。

「よく言われるよ。わたしという神がいるから、安心して縋って、前を向けるんだって。
 あるじさまもそういう存在なんだよ。私たち英傑にとっての。だからさ……」

 わたしはぬしさんみたいに上手に話せない。
 気持ちだけが溢れていく。

「えーっと。わ、わたしとしては泣いているからってあるじさまが駄目とか思わなくって。寧ろその……。弱味を見せてくれると、もっと頑張れるっていうか……。
 悩んでいるのにごめんね! わたしだって役に立ちたいんだもん! 実感が欲しいの!」

 俗物狐って思われちゃったかも。

「……ありがとう。オイナリサマ」
「コンコーン。お礼は油揚げで良いよ。うんと美味しいやつよ!」
「判った。八百万界一の油揚げを送るよ」

 そこからはさっと部屋を出て行った。
 きっと一人でいたいだろうから。

 ……わたし間違ってないよね?
 お礼をしてくれるなら、口付けが良かったけど、ここは我慢で良いんだよね。
 だってあるじさまが大変な時に付け入るようなまね卑怯だもんね。
 あるじさまも、なんだかすっきりとした顔してたし。
 ああ今なって勿体ない気がしてきた! もう!

 こんなに好きなんだから、わたし以外の子と付き合ったりしちゃ絶対にだめよ?



 ◆スズメ

「おはようございます。雀惣兵衛さん。足を痛めたって心配していたんですよ」

 一匹の雀がスズメの肩に乗り、そっと耳打ちした。

「ふむふむ。ふうん。……え!? それは本当ですか!?」

 あまりの大声に集まっていた雀たちが一斉に飛び立ち、そしてまた元の位置へと着地した。

「なんということですか……。主《あるじ》さまに恋人がいらっしゃるなんて!?!!!!」

 本殿所属英傑スズメ、絶賛独神に恋愛中である。

「嘘ですよね? ……いや、雀惣兵衛さんの情報に間違いがあるなんていやいやでもでも」

 ぶつぶつぶつぶつぶつ。
 その間、雀たちは撒かれた米(タワラトウタ米)をつついた。

「……ま、まあ……主《あるじ》さまですから、恋だって……そのうちけっ」

 尋常でない胸の痛みにスズメは膝をついた。

「……世の中悪人ばかりです。万が一、主《あるじ》さまが騙されていたら大変です。その時は僕が相手を抹殺しなくてはなりません。英傑として。そう、英傑としてです!!!」

 闇に染まった目を輝かせてスズメは立ち上がった。

「そうと決まれば、今日は主《あるじ》さまを張り込みです! 皆さん、お礼は奮発しますのでどうか僕にご協力ください」

 まずは執務室。

「基本的に主《あるじ》さまはここを動きません。来るのも英傑達が主です。エンエンラ曰く、今日は外からのお客さんはいないみたいですよ」

 予定を把握している現お伽番のエンエンラに聞くとすぐに教えてくれた。ついでに「
 主《ぬし》に恋人? しかも騙されているかもしれないって。……それは困ったね。うん。困った。だったら私も協力しよう。善良な主《ぬし》を騙す者は消してしまわないとね」と、協力関係を結ぶことが出来た。執務室でのことは全てスズメに情報が流れる手はずになっている。

「仲が良いのでエンエンラも疑っていましたが白のようです。僕への報告する前に相手を燻し殺しそうな勢いでしたし」

 スズメの見立てでは恋人は英傑である。
 何故なら独神には出会いがないからだ。
 それに来客が少しでも独神へ下心を見せれば全英傑が牽制する。わざわざ夢枕に立ちに行く者も。
 そんな障害を乗り越えてでも独神に恋心を抱くものなど皆無である。
 そんなことをしては独神が婚期を逃すことになろうが、この本殿に独神と結婚したくない英傑など一人もいないので相手に困ることはないだろう(※スズメ個人の考え・願望であり、実際とは異なることがあります)

「あれは……アシヤドウマン!」

 怪しい英傑その壱。
 本殿に来た当初から独神に気安く声をかけ、月一の祭事では独神と二人きりになる機会を虎視眈々と狙っている。
 独神ガチ勢という美しくない勢力の中でも特に目障りな英傑である。

「主人《あるじびと》。今日も美しいな」

 いつもこうして馴れ馴れしく独神に声をかけるのだ。
 手を取ろうとすると、エンエンラが自身の一部を煙にして惑わしていた。組んだのは正解だった。

「……大体あるじびとって何ですか。あるじか、しゅじんでいいじゃないですか。自分だけの呼び方を使う事で目立とうという事ですか」

 独自の呼び名というと、

 我が君(マガツヒノカミ)、団長サン(ブリュンヒルデ)、独神くん(オジゾウサマ)、頭領さま(ツナデヒメ)、師匠(ワニュウドウ)、ドクちん(シーサー)。

 等がいるが、今のスズメの敵意はアシヤドウマンのみに向かっているので些細な事である。

「諦めて出て行きましたね」

 しつこい性格なのは本殿中に知られているので、警戒は必要だが今は良いだろう。
 入れ替わるように次の英傑がやってきた。

「タマヨリヒメさん! ……彼女は無害でしょう」

 確かに独神の腕に抱き着いていたり、二人で買い物をしたり、自作の服を送って自分好みに独神を仕立て上げたりと危険な英傑ではある。しかし。

「……やはりオオワタツミさんが来ました」

 保護者が同伴している状態で独神と間違いを起こす事はないだろう。
 オオワタツミは毎日海の様子を見に行き務めを果たすほど真面目な英傑だ。

「……見間違いでしょうか。鼻の下を伸ばしていませんか?」

 隣にタマヨリヒメ。その隣には独神。これを世間では両手に花という。
 絶世の美女である娘と、英傑殺しの独神がいれば気分が舞い上がってもおかしくはない。
 真面目なオオワタツミであっても魔が差すことはあり得る。

「なんだか無性に腹が立ってきますね。……いやいや。いけません。勝手に好き放題良し悪しを判定する僕の方が間違ってる」

 オオワタツミとタマヨリヒメのことは、そのまま見守るに留めた。二人は退室した後はまた討伐に行くようで、やはり真面目に務めを果たしていた。そんな二人を疑って恥ずかしさを覚えた。

「いっそ最初から失礼極まりない英傑ならば、僕も遠慮なく斬りかかれるのですが」

 次に来たのはミツクニだった。

「ミツクニさん!? ……む、難しい人です。軽薄な方ではありますが、僕にも雀たちにもよくしてくれます」

 静観しようとスズメは心を落ち着けて見ていた。
 がしかし、ミツクニの顔が独神に近づく度に剣で槍投げしたくてたまらなくなる。
 そわそわしているとエンエンラが剥がして外へ追い出していた。

「そもそも英傑の皆さんは主《あるじ》様と距離が近すぎます!」

 それもこれも独神が誰にでも友好的だからだ。殺人者だろうが、呪いの塊だろうが、黄泉の者だろうが分け隔てなく接する。だから突出した能力故に大衆からはみ出すことも多い英傑達には安心して心を休められる拠り所なのである。

「……あ、ネンアミジオンさん。彼なら」

 ただの世間話で終わった。と思ったら二人でお茶を淹れている。特におかしな点はない。それでも心が締め付けられる。
 誰と何をしたのかは関係ない。
 自分以外の誰かと独神が親しいことが嫌なのだ。
 酷い自己嫌悪に陥る。

「何してるの?」
「主《あるじ》さま!? なんで!? あ、いえ、その……」

 嘘を吐きたい。
 監視をしていたなんて言えば独神に嫌われる。でも嘘を嫌う自分が嘘を言う矛盾に耐えられそうにない。

「……すみません。主《あるじ》さま。僕さっきまで君を監視していました」
「知ってる」

 顔から火が出そうだった。

「でもきっと何か理由があったんでしょう? スズメが悪趣味な監視なんてするはずないもの」

 綺麗な笑顔が罪悪感を増幅させる。

「……あ、主《あるじ》さまに恋人がいると聞いて……悪趣味な監視をしていました」

 情けないことを一番見られたくない人に晒さなければならない。
 独神は大きく笑った。

「恋人なんていないって。みんなして私が誰とお付き合うするかが気になってしょうがないのね」

 笑っている。

「監視も気にしなくて良いよ。私こういうの月に三回くらいあるから」

 約一週間に一度である。

「大変申し訳ございません。僕のことは舌を抜いて干物にでもして下さい!」
「しないよ。大袈裟だなあ。私は見られて困ることなんてないから好きに監視すると良いよ。……あ、でも偶に極秘の任務を進めている時もあるから気を付けて」
「承知しました!」

 と言って執務室へ戻っていった。
 独神が再び仕事に取り組み始めると、スズメは大きく溜息をついた。
 酷い日であった。だが収穫もある。

「監視しても良いって……。僕が主《あるじ》さまを知ろうとすることを悪く思っているわけではないんですね」

 恋人はいないと本人から言質を取ったことで少し安堵した。

「でも今後は判りません! 悪い虫がつかないように怪しい者達には目を光らせていないと」

 そして出来れば、今度は監視するのではなく、監視される方へ回ってみたいのであった。


[newpage]
 ◆フウジン

 ウチ、主《あるじ》様が好き。
 主《あるじ》様はウチの悪戯を笑って許してくれて、いっつもひっかかってくれる。
 ウチはここに来てから毎日楽しく過ごせてる。

 でもね、いつからだろう。少し怖くなった。
 主《あるじ》様、ほんとはウチをどう思ってるんだろうって。
 ウチみたいな子、本当は好きじゃないかも、なんて。

 でもウチはウチだからしょうがない。
 無理して可愛くなってもきっとすぐボロが出ちゃう。
 それに主《あるじ》様なら、どんなウチでも良いよって言ってくれるもん。
 だから大丈夫。
 そう思ってた────。

「大人しい子って良いよね。お淑やかな子。好きだなあ……」

 執務室に入ろうとしたウチはぴたりと柱に身を隠した。
 そっと聞き耳を立てる。

「……やっぱさ、あたしこんな仕事じゃん? しょーじき疲れるよ。ひとと話すの好きだし、世話も好きなんだけどさ、偶に『あ無理』みたいな時もあるわけ。そうなった時、誰かあたしのこと癒してくれるひとが家にいたらなって思うよ」

 嘘っ! ちょっとそれ初耳なんですけど!

「んー? ああそうね。あたしは、相手には家にいて欲しいと思ってる。お金はがっぽがっぽ稼ぐし、好きな物なんでも買ってあげるから、その代わり家にいてって……あー最近はこういうこと言ったら駄目なんだっけ? だからあたしは自分の好みはちゃんと隠してるよ。そりゃ独神だもん。みんなの思う独神像は崩さないよん」

 がっかり……。だってこれだとウチ、全然主《あるじ》様の好みじゃない!
 どうしよう! ちょっとヤバイって!

 じっとするなんて無理。
 悪戯やめるのもむーりー。
 風邪だって流行らせちゃうし、作物だって引っこ抜いちゃう。
 なんでも買ってくれるのは嬉しいけど、でも風のない生活なんてそんなのウチじゃない。

 で、でももしかしたら。
 ウチ主《あるじ》様のことめちゃめちゃ好きだし、少しは我慢出来る、かも。

 ウチはまず深呼吸をして、おしとやかと手のひらに書いて呑む。いっぱい呑む。
 その後はゆっくり足を床につけて、服の裾が膨らまないように素早くそっと執務室へ入る。

「ごきげんよう。主《あるじ》様」
「フウちゃんどしたの!? 可愛いけどさ」

 作戦は失敗した。

「ウチ、っじゃなかった、わたくしはわたくしですのよ?」
「馬鹿でしょ。女は我儘で身勝手で笑顔で全部チャラにするくらいが可愛いって言ってるでしょ!」

 嘘吐き!

「聞いたよ!! 主《あるじ》様ほんとは大人しくて癒し系が好きなんでしょ」
「え。へへへへ」

 その笑い、本当のことなんだ……。大人しい子が好きって……。

「やだやだ! ウチそんな主《あるじ》様無理! 好き勝手やってる子が良いって言ってよ!」
「そういう子も好きではある」
「でも、好みは大人しい子なんだ」
「へへ」

 かっちーんときた。いつもと言ってること全然違う!

「主《あるじ》様なんて!!!!」

 風袋を主《あるじ》様に向けて上空に吹き飛ばす。

「天罰!!!!」

 袋を閉じると、主《あるじ》さまはぴゅーっと落ちていった。
 地面にめり込んでるけどギリギリ死んでいない。
 独神は首を斬られても死なない程度には頑丈だって言ってた。

「ウチじゃ、主《あるじ》様に好きになってもらえないの?」

 頭だけの主《あるじ》様に聞いてみた。

「その感じ超可愛いけど、悪いけど出してくんない? 身体半分イってるんだけど」
「答えてくれなきゃ出してあげないもん」

 頭だけ主《あるじ》様がふっと笑った。

「十分可愛いよ。盗み聞きした挙句に勝手にキレて地面に埋めるような子なんだもん。ほっとけないし、見てて飽きないでしょ」
「……良い感じに言ってるけど、好きとは言ってなくない?」

 ぎくっという顔になった。

「主《あるじ》様!!!」

 袋の力を目一杯使って地面から主《あるじ》様を引っこ抜いて、また上空に放り投げる。

「台風に呑み込まれちゃえ!」

 風袋の力を最強にすると、本殿の真上に新しい台風が出来る。
 その中に主《あるじ》様を落してあげた。
 ぐるぐる。目を回してる。
 袋の口を縛ると台風が消えて、主《あるじ》様もまたぴゅーと地面に落ちて、今度は青白い顔をしていた。
 今にも吐きそうにしてるけど知らない!

「……主《あるじ》様最低」

 げっそりした顔。いつもだったらおかしくて笑ってるけど、今日はそんな気分じゃない。
 自分が好きなひとの好みになれないのは悲しかった。
 だってもうウチは諦めなきゃ駄目ってことなんだよ?
 そんなのすぐに受け入れるなんて無理だよ。

 死にかけ主《あるじ》様がウチへ手を伸ばした。助けてあげる気にはなれなくてすっと避けると、勢いよく主《あるじ》様は起き上がってウチに突進、もとい口付けた。

「そんな顏しなさんなって。今度はもっと強烈なもんやっちゃうよ」

 あわわわわわ。
 う、ウチ、主《あるじ》様とちゅ~したの!?

「さっきも言ったけど、今のまんまで良いんだよ。好み通りの子になるのも歓迎だけどね」

 顔がかあっとなって、すぐに言い返した

「ウチ絶対ならないから!」
「それが良いんじゃない?」

 よっこらせと起き上がった主《あるじ》様は、何事もなかったかのように本殿の方へ帰って行った。
 縁側から上がって、執務室でいつも通り机に向かっている。
 さっきまで何があったのかきっと誰にも判らない。

「……結局どっちが良いんだろう。ウチ大人しくなる?」

 考えてみたけど、やっぱりウチは大人しい神様にはなれそうになかった。
 風を司るウチは死ぬまでこのまま変わらない。
 多少は大人しくて良い感じの風の神になれるが、一時的なものだ。

「主《あるじ》様の方がウチよりずっと意地悪じゃん」

 でもなんとなく、主《あるじ》様がウチに変わって欲しいと本気では思っていないような気がする。
 そのままでいいと、何度も繰り返してたから。

「……本当はもう、ウチのことが好きだったりして?」

 人たらしの主《あるじ》様のことだから本音は判らない。
 でもウチに振り回されている主《あるじ》様は仕事と違って色々な顔をしているから、きっと嫌いではない。はず。

「ちょっとだけ、主《あるじ》様の前では良い子でいてあげよ」

 大きくは変われないけど、好きなひとの為だから、少しだけ変わってみる。
 だからウチのこと、ちゃんと好きになってね。

 あ、もっともっと好きになれって変化ならいつでも歓迎だよ。
 ウチ、主《あるじ》様のこと毎日大好きだもん。



 ◆ライジン

「主《あるじ》様。こういう服可愛いと思いませんか?」

 ライジンが持ってきたのは天将の英傑たちがよく着る服であった。

「可愛いとは思うけどさ……。私は着ないよ」
「どうしてですの?」

「お腹出すの好きじゃないんだよね。他の人がやる分にはいいけど」
「どうしてですの?」

「だから、お腹出したくないって」
「どうしてですの?」

「お腹冷えちゃうでしょ」
「どうしてですの?」

「……何。これ尋問なの?」
「いえ。本当はどういう理由なのか、お聞きしたくて」

 にこにこするライジンとは対照に、眉を顰めて嫌そうにする独神。
 そんな態度屁でもないと、ライジンは態度を崩さない。
 仕方なく独神は言った。

「……私、ずっとここにいるだけじゃん? なのにご飯だけは皆と同じじゃん? そりゃ……肉付きだって良くなるよね。
 判った? 太ってるのが見られるのが嫌なの! ここの英傑誰も太ってないから余計目立っちゃうでしょ!!」
「なるほどですの。でしたら私と運動でもいかがですか? 仕事の合間に気分転換になると思いますわ」

 独神はジト目だった。

「……なんか下心が見えるの気のせい?」
「気のせいですわ」
「じゃあさ、この服着たとして、お腹は出して良いけどおへそだけ隠していい?」
「いけませんわ!!!!!!」

 あっと口を押さえた。

「ほら見ろ! おへそ目的じゃんか!!!! 私絶対やらない!!!! 私のおへそは私のもんだから!!!!!」
「主《あるじ》様のいけず!! 主《あるじ》様のおへそを誰にも奪わせたくない私の気持ちも汲んで下さい!!」
「誰であっても私のおへそは触るな取るな!!!」
「じゃあ他の英傑のものは良いんですか?」
「いいよ。私のが取られないなら」

 あっさり贄を差し出した。

「てかさ、盗ったおへそでどうすんの」
「い~~~っぱい見ます。この子は小さいな、この子は上向き、この子は皮を被ってる、この子はくしゃくしゃの恥ずかしがり屋さん」

 独神はドン引きした。

「……深すぎて理解出来なかったわ」
「本当はそれも寂しいんです。フウジンちゃんはお友達ですけれど、おへその話では盛り上がれませんの……」
「(フウジンでもへそ話は無理なんだ)」
「私だって寂しいですの! 皆さん、刀や本や囲碁や観劇など多趣味ですのに、どうしておへそ趣味はいないんですか!?」
「(知らんがな……)」

 じわじわライジンが泣きだすと、外では黒い雲が近づいて来ていた。
 遠くでヤマヒメが手で大きなバツ印を作っている。
 今日は外に蒲団を干す日であった。
 今夜英傑達が蒲団で寝られるかどうかは、独神の腕にかかっている。
 やれやれと、独神は肩を竦めた。

「……確かに、私はライジンのへそ友にはなれない。でもへそを紹介する事は出来る。それも大量にね」

 甘やかな誘いにライジンの涙が一時的に停止した。

「まずは下準備だ。仕事サボるから適当に言い訳しといて! よろしく!!!」

 独神は良くも悪くも仕事が出来るひとであった。
 準備もすぐである。

 そして独神の言う事を全て聞いたライジンは、指示通り町へ出かけるのであった。

「あのー、ここでへそ占いが出来るって聞いたんですけど……」

 いたって普通の村人が一人、暗幕で入口を塞いだ小さな小屋を訪ねてきた。

「どうぞ。こちらへ」

 部屋には簡素な机と椅子があり、蝋燭の心許ない光が辺りを僅かに照らす。
 村人は椅子に座ると、服をめくってへそを見せた。

「む。むむむむ。これは……大変ですわ」
「先生! どういうことですか。私は病なんですか!?」
「心を静めて下さいまし。奥にご案内しますわ」

 黒子は不安がる村人を奥へ奥へと誘った。
 そして────────



 一週間後。
 町ではへそ占いが流行し、他の町からも客が訪れるようになった。
 へそを見てもらったものは口々に言った。

「雷先生が言ったんだ。汚いへそは病になっていずれ死ぬって」
「へそを雷先生に納めると浄化してもらえるんだ。そして俺たちは死なないって」
「独神様もありがたいと思っていたけれど、雷先生はもっとありがたいよ。庶民の味方だ!」

『へそ教』と呼ばれる宗教は爆発的人気を誇り、それは当然英傑の耳にも入る。

「……という報告があがっておりますが。主《あるじ》様はそれでよろしいのですか?」

 独神はウシワカマルに詰められていた。

「え、あ、ほら! ライジンの調子最近とっても良くない? 討伐数激増だし、いつも笑顔で」
「主《あるじ》様。いずれ『へそ教』は君の統治を揺るがしますよ」
「またまた。ご冗談を」
「冗談を言っているように見えるとは。主《あるじ》様の目は汚泥で洗っているのかな」

 視線でひとを射殺す勢いだった。
 本殿で一番偉い独神だって怒ったウシワカマルは怖いのだ。

「……えーっと。…………う、ウシワカマル様。この状況をどうすれば良いのか、馬鹿な独神めにお教えて下さいませ」

 迷わず土下座をした。ちなみに独神、土下座は朝飯前である。

「仕方ありませんね。僕の手を貸そう」

 大盛況のへそ教本部にウシワカマルが訪れ、教祖であるライジンに物申した。

「ええ!? おへそ集め駄目なんですか?」
「勿論ただで手を引けとは言いませんよ。ですから……」

 ごにょごにょごにょ。

「はい!! 判りましたわ! 今日でへそ占いは閉業いたしますの!」

 ウシワカマルの仕事は迅速で完璧だった。すぐに独神へと報告した。

「これでもう民がおへそを気にすることはありますまい」
「ありがと、ウシワカマル。お礼といってはなんだけど、お茶でも飲んでいかない?」
「折角のお申し出ですが、用があるのでこれにて失礼します」
「あっそう? ……とにかくありがと。じゃあね」

 入れ替わるようにライジンが執務室へやってきた。

「主《あるじ》様~」
「おかえり。どう? 少しは楽しめた?」
「はい。とっても! それに、主《あるじ》様がご褒美用意してくれてたなんて驚きましたの!」
「ん。……ごほうび? なんの?」
「では。……失礼いたします。……とう!」

 ライジンの動きは、何かを投げたような動作だった。

「……え。何したの。私見えなかったんだけど」
「ご安心を。それでは、失礼しますね」

 ライジンは素早く退室した。
 これにて一件落着である。独神は大きく息を吐いた。

「へそ教ねえ。段取りを組んだのは私とはいえこのご時世宗教って流行るよねえ」

 そっと腹に触った。
 凹凸がない。

「……ない。ない!?」

 腰の紐を緩めて白衣や襦袢をかき分けていくと、そこにはあるはずのものがなかった。

「私のおへそ!!!!!!!!」


[newpage]
 ◆ヤマオロシ




 独神になって英傑達にチヤホヤされてベタぼれされるのは当たり前。
 それで「うひひひ」していたのも数ヵ月。
 チヤホヤされるって意外とつまんないものだと思った。
 食べ物と一緒。
 同じ味って飽きちゃうのよね。

 だから、そんな時に本殿に来て、

「アーン、何見てんだよ。擦りおろすぞ」

 と、ぶちかましてくれたヤマオロシには、ビビー! ときたのだ。
 こいつといると絶対面白いって。

「君! 私のダンナになんない?」

 当然私は早速唾つけておいた。
 ちなみに私、皆には向こう見ずな馬鹿といつも褒めてもらっている。

「オレ様より料理が上手くねぇヤツは帰んな」

 ……う。
 私、英傑と英傑で英傑をボコボコ生み出すのは得意だけど、材料と材料で料理を錬成するのってあんま得意じゃないんだよね。
 命を扱うとこは一緒だけども。

「ねえ、他のになんないの? お金とか、物とか」
「ハッ! んなものでオレ様をどうにか出来ると思ってんなら安く見られたもんだぜ」

 くぅ。
 やっぱすぐに攻略ってわけにはいかないか。
 良いじゃん。やっぱ困難な方が燃えるよね!

「じゃあいいよ。そっちの希望に合わせてあげる。でも料理って具体的にどうすれば私の勝ちなの?」
「アンタのお題は……ネギ料理だ」

 ネギ? 薬味でおまけの?
 よくご自由にって書かれたネギがうどん屋にあるけど、私めんどいから入れたことない。
 所詮脇役じゃんネギって。

「……もっと別の」
「ネギ料理でオレ様が万一負けを認めることになったら、結婚してやってもいいぜ」
「するする! 勝負、するー!!」

 良いじゃんネギ。やったろうじゃないの!
 それからの私は、仕事を適当にこなしながらネギについての知識を増やしていった。

「ねー、ヒエダアレイ。君の見たことあるネギ図鑑ってこれでホントに全部なの?」
「書物として残っているものは全てですよ。あとは私の記憶の中に」
「それ、紙に書き写してよ」
「え。……いえ、それはちょっと……面倒です」
「私が頼んでるのに? んー、じゃあ終わったら二人きりでお出かけしてあげる!」
「んん……。はぁ、判りましたよ。但し時間は頂きますからね」
「ありがと!」

 ネギといえばでっかいネギとちっさいネギの二つだけだと思ってた。
 でも本を読んでいくうちに、ネギには沢山の種類があるって知ったの!!

「アスガルズにもありますわよ。見た目はリーキが近いですわ」

 と、異界のネギ情報も得られた。
 ネギ本体の情報を得ながら、ネギ料理の情報も入手する。
 これは本ではなく家庭料理を調べていく方が良い。
 同じネギでも地域によって味は変わる。
 家庭料理を調べていく事でそういった地域差をも理解することが出来るのだ。

「僕に乗れば八百万界中スイスイ行けるよ。えへへ、凄いでしょ、偉いでしょ」
「まあ、八百万界中を見られるし。良いぜ、ご主人のこと、どこまでも連れてってやる」

 海はミズチ、空はジロウボウを使った。
 独神に行けない場所などないのだ。

 いろいろな情報を集めた後は、ようやく実践に入る。
 今までの知識を総動員して、究極至高のネギ料理を作るのだ。

「独神さま……。またネギを食して……。わらわの愛らしい鼻が曲がるではないか」

 ネギへの道は高く険しいものだった。
 付き合ってくれた英傑達が次々に脱落していく。

「ヒミコごめん。……じゃあ、お伽番変更で」
「判った判った! もう少しやろう。……はあ。せめて日をあけてくれぬかのぉ」

 私がなかなか結果を出さないものだから英傑達も焦れたのだろう。
 ヤマオロシに直接ものを言いに行く者もいた。

「上様が毎日毎日ネギネギネギって、てめぇのせいだろ! 何食ってもネギの味しかしやしねぇ!」

 魚の臭みをとるのにネギはどうか、と毎日持っていってあげたことをあんなに喜んでくれていたのに。
 魚好きなイッシンタスケはネギに嫉妬するようになってしまった。

「良いだろ? 本殿がネギ色に染まってオレ様のネギも笑ってるぜ」
「ここ悪霊討伐の本部だからな!!! 判ってんのか!!!!」

 英傑達が「頼むからもうやめてくれ」と私を心配していたが、私は諦めなかった。
 ネギには無限の可能性がある。
 それを英傑達に伝えたい。

 ────ネギをもって世界を制する。

 これまで私がネギと向き合ってきて、気付いたことだ。
 ネギの切り口が丸いのは、世界を表していたのだ。
 どこを切っても丸いのは、刻んだはずなのに輪が繋がってしまうのは、世界の連続性を意味し、世界と世界が繋がっていることを意味していた。
 英傑も悪霊もなく、私たちは同じ、ネギなのだ。

 ネギは身近なものだ。けれどネギの心は遠い。
 知れば知るほどネギのことが判らなくなった。
 こんな私がネギの本質を世界に伝えられるはずがないと心が折れる時もある。

「私なんて……私じゃネギなんて極められないよ!!」

 台所でわんわん泣いていると、シュタッと現れたヤマオロシが怒鳴った。

「馬鹿言ってんじゃねえ!! そんな根性じゃ真っ直ぐなネギになれねえぞ」
「いい。私は曲がりネギだもん! 真っ直ぐになれなかったんだもん!!!」
「まあ悪くはない。って、そうじゃねえ!」

 ヤマオロシは私にネギを持たせた。

「ネギから逃げるな!!!」

 手の中のネギはにこりと私に微笑んでいた。

「……ヤマオロシぃ~~~~!!! ネギ様ぁ~~~~~!!!!」

 未熟な私の肩を、ヤマオロシはぽんと叩いてくれた。
 私、まだまだ頑張る。頑張れる! 
 世界にネギを!


……

…………

………………


「おーい……誰か言ってこい。ネギより魔元帥攻略しろって」

 独神達は知らないが、本殿や周囲の木々を倒して作った広大なネギ畑は、食卓以外にも恩恵をもたらしていた。

「……っく。なんですこの匂いは。私の混成獣《キメラ》たちが進めない……!!」

 本殿を突き止めたパズスたちであったが、ネギたちの香りに足踏み状態であった。

「こんな兵器を用意しているとは……。独神め」



 ◆オオクニヌシ

 丸太を運んでいたオオクニヌシ。
 本殿での修理依頼はしていなかったはずだが、と独神は尋ねてみた。

「またどっか壊れちゃった?」
「ははっ。大丈夫だ。今日はまだ壊れていない」

 一先ず安心した。

「なあ、主君。もし住むならどんな家が望まれるだろう?」
「いきなりだなあ……。んー導線が良い」
「機能重視か。なるほどな。貴重な意見感謝する」

 そしてオオクニヌシは行ってしまった。
 きっと住民に家づくりを頼まれたのだろう。
 気にすることなく独神も仕事へと戻った。


 とある作業場にて。
 裁断途中の丸太が並び、端材の上に黒髪の少年が座っていた。

「スクナヒコ。どうしたんだこんなところに」

 戻ったオオクニヌシは丸太を下ろした。

「相棒こそ、なんだよこれ。お頭の命令じゃないだろ?」
「主君ではないな」

 親友に答えながら作業を始める。

「……でもお頭と関係あるだろ」
「……」

 スクナヒコは溜息をついた。

「相棒ならもっとあったろ? 商売上手で金持ちで人脈があって完璧なのによ」
「君が褒めるなんて酒代に困ってるのか?」
「茶化したって相棒が重症なのは変わらねえよ」

 小さな神は唸ってしまった。

「……君から見て、俺はいったい何をしていると思う?」
「セッカ」
「せっ? ああ、鳥か」
「巣を作ってメスに求愛するやつ」
「確かに。そっくりだ」

 はあああとスクナヒコは特大の溜息をついた。

「散々ひとを惚れさせてきたオオクニヌシが、とうとう落とされちまったわけか」
「主君には言うなよ」
「言わねえよ。おれまで殺される」

 独神もまた行く先々で心を奪ってくるので、恋敵は八百万界全土に存在する。

「主君の未来について考えていたんだ。あの通り多忙だが、悪霊を倒せば民と同じただのひと。本殿にいたんじゃ、ずっと独神のまま変われないだろう。だから住み家は別にあった方が良いと思ってな」
「けど未来妄想の形がこれって痛すぎるだろ……」
「そうだな。自分でもどうかと思う」

 笑うばかりで、スクナヒコに蔑まれようとも止める様子はなかった。
 後日、出来た家屋に独神を連れてきた。

「うわ。ここに家が建ったなんて全然知らなかったよ……」
「中を見てくれるか?」
「いいけど……」

 家が出来たから個人目線の感想が欲しいと言われて来ただけの独神は、新築に自分が入っていいものかと遠慮がちに入った。

「台所、広いんだね」
「料理も一人とは限らない。二人でも出来る仕様だ」
「ふうん」

「部屋多いね」
「物置にも子供部屋にも使えるだろ」
「まあそうね。部屋数多いと掃除大変じゃない? 一長一短かな」

「良い木使ってるね。声が聞こえてくる」
「穢れのない場所のものといると心が落ち着くよな」
「私も、そういうの敏感だから良いと思うよ」

「この部屋は?」
「夫婦の部屋だな」
「夫婦? あっそうなの」

 一通り見ていった結果、独神からの評価はおおむね良いものであった。

「もし自分が住むならって考えると、この家は凄く良いと思う。日当たりも風通しも良いし、私ってきっと客人が多いから客間からの庭が綺麗なのって重要なのよね」
「主君がそう言ってくれると安心だ」
「待って。私の意見でしょ。ここに入る人は違うんだから」
「違わないんだ」

 息を飲む音がした。

「家を作って求婚してる」

 独神は瞬きを何度も繰り返した。反応に迷っているようだった。

「俺を馬鹿だと笑うよな……。はあ……。すまない」
「あ、いや。ただまずは単純に驚いてる。そういうの考えたこと無くて」
「そうなんだよな。俺も最初は考えてなかった」

 緊張が解けたのか膝から崩れ落ちるオオクニヌシの隣に独神もしゃがんだ。
 不思議そうに顔を覗き込んでいる。

「主君はもてるだろう。沢山の浮名を流してきた俺なんかと比べ物にならないくらい」
「そうかな……?」

 考え込んだ独神は本当にそう思っていないようだった。

「だから普通では駄目だと思った。色々考えて、そして気付いたら」
「建ててたの?」
「建ててた」

 独神は噴き出した。

「もう、変なひと。考え出すと手が動いちゃうんだから」
「面目ない。動いてると落ち着くんだ」
「御屋敷一つ建てるって相当だからね?」

 ツボに入ったようで笑い続けている。

「……そっか。建てちゃったか。じゃあ住んじゃうか」
「主君……!」
「オオクニヌシは遊びに来て。とりあえず、お客さん一号ってことで」
「……判った。今夜行く」


 ────それから一ヵ月後

「お頭は何の疑問もなかったのかよ」

 独神の邸宅にある日当たりのいい縁側では、よくスクナヒコが酒瓶を傾けている。
 仕事がない日、独神は本殿ではなく屋敷で過ごすようになっていた。

「正直に言うと、贈り物に家は重すぎたよ。ここまでさせて受け取らない訳にはいかないって……」

 スクナヒコが傍のオオクニヌシを殴った。

「でも住み始めるとすぐに私に馴染んでくれた。私があって欲しい所に棚があって、部屋があって、何も困らないの。家の方が私に合わせてくれてた」

 気まずそうだったオオクニヌシもこれには口元を緩ませた。

「オオクニヌシが私のことちゃんと見てくれていたからこそ居心地が良かったの。……だから、きっと、オオクニヌシと一緒にいれば、居心地もいいのかなって」

 オオクニヌシと婚姻を結んだわけでは無いが、部屋には私物があらゆる場所に置かれ、時間が合う日は二人で過ごしていた。

「けっ。結果的に大成功ってわけかよ」

 吐き捨てながらも、その横顔は寂しそうだった。

「スクナヒコも一緒にどう? 部屋いっぱいあるから」
「(……相棒、困ってんな。お頭も無自覚に酷ぇからな……)」

 二人の顔を伺った上で答えた。

「おれもここに引っ越すぜ!」
「遠慮しろスクナヒコ!!!!」


[newpage]
 ◆マガツヒノカミ

「マガツヒくん!」

 外出時。独神はマガツヒノカミの腕を抱いて歩き回る。

「我が愛しの君」
「恥ずかしいから二人の時だけにしてよ」
「では続きは夜にしよう」

 二人は町の視察を行っていた。
 最近不穏な噂が流れているので直接見にきたのだ。

「……不幸が匂う」
「そう?」

 独神が辺りを見ると屋根の修理をする子供を見つけた。

「……そう言われると、落ちそう、かも」

 独神が走り出すと、子供は落とした釘を拾おうとして体勢を崩した。
 屋根から落ちそうになったところを独神は寸前で受け止めた。

「独神様ありがとうございます!」
「いえいえ。安全には気を付けて」

 さっとマガツヒノカミの元へ戻って来た。
 ひそひそ。
 町人たちがマガツヒノカミを見て、何やら話している。

「どうする。場所変えようか」
「いや。このままで。我が有名過ぎるのが悪いのだよ」

 厄神はふふんと得意げに言った。

「見たいものは見たしあっち行こ!」

 二人は人気のない所へとやってきた。

「植物相手では我も無力よな」

 腰を下ろせそうな倒木を見つけ、並んで座っている。
 ここにはマガツヒノカミのことを悪く言う者はいない。
 恐れられず、マガツヒノカミは不満げだった。

「観念神は生物の感情に左右されるからね。植物から見れば、マガツヒくんもただの神だよ」
「我神ぞ? ただの神とは是如何に」
「私はうだうだ耳に入るの嫌いだから、こういうところの方が良いよ」

 独神からすると、好きなひとを悪く言う者は誰だって嫌いだった。
 共に過ごしている英傑でもぎりぎり許せず、見つけ次第咎めている。

「マガツヒくんは平気って言うけどさ、私はやっぱ慣れないよ。マガツヒくんのことだもん」
「我が君は心優しき者だからな」
「私多数派の自信あるよ。クシナダヒメだって櫛折ってたもん」

 マガツヒノカミが声を上げて笑った。

「あの豊穣の神も見かけによらぬではないか」
「それだけ好きってことでしょ」

 じっと独神は隣の厄神を見つめた。一切の曇りのない瞳にマガツヒノカミはたじろいだ。

「我が君に言われるとむず痒い気持ちになるな」
「自分は私のことベッタベタに褒めるくせに。言われるのはまだ慣れてないの?」
「我にとっての我が君は、聖域なのだよ。到底我には触れられぬ真なる神域よ」
「その聖域が君を選んでるんだから、もうちょっと土足でズカズカ入ってきなさいよ」
「おいおいな」
「いつよそれー」

 マガツヒノカミが座り直そうとすると、独神の指にふと触れそうになるが、慎重に避けた。

「……。困ったひとだね君は」

 一部始終を見ていた独神は呆れていた。

「君も含めて周りは私を過大評価しすぎだよ。悪霊と共に出現する独神も災厄の象徴なのにさ」
「いいや。我が君は光だ。厄神に恐れず触れる度胸には恐れ入るのだよ」
「同じ厄災同士。恐れるものでもないでしょ」
「それが、闇に微睡む我の中に光を落としたのだ」

 マガツヒノカミは、独神の髪の毛一つにすら触れない。
 まるで触れた瞬間に相手が焼けただれてしまうことを恐れるように。
 大切にしているが故の行動と判っていても、独神は不満だった。

「ねえ神様。もうちょっと我儘でも良いんじゃないかと思うんだけどー」
「我は黄泉の穢れで」
「それだ!」

 指を指した。

「よし! じゃあ悪霊を倒した後はこの八百万界を支配しよう!」
「な。なんだその案は……」

 と言いながらも、マガツヒノカミは落ち着かなさそうにうずうずしていた。

「黄泉の主催神はイザナミ。これは覆らない。でもその次に偉いひとって特にいないよねー。どう、私たちで目指してみない? 八百万界支配に向けてまずは黄泉を手中に収めようよ」
「我が君はおもしろい事を考える。だが我が君を黄泉へは連れて……」

 独神は得意げに笑った。

「独神、無敵だから。というか、私には生も死も似たようなものだからね」

 突然。独神との間に風が吹いた気がした。
 マガツヒノカミを震わせる。

「────輪廻。英傑の魂を他の英傑に取り込ませることだよ。産魂《むす》ぶことばかり注目されるけど、昇天も輪廻も私にとっては同列に使える力だよ」

 体温が戻ると、マガツヒノカミは大きく息を吐いた。

「我は我が君を侮っていたようだ。我が君こそ、災厄の神のつれ合いに相応しい! 当然、我の隣から逃げぬよな?」
「良いけど? 君こそ、英傑の頂点に立つ私を飼いならせるの?」

 独神はマガツヒノカミの手を取った。逃がさないように強く握った。
 厄神と恐れられ、どこにいることも拒まれる存在を素手で包み込んでくる。
 独神は末恐ろしいひとだ。

「我は力の全てを我が君に見せてはいない。退くなら今だぞ」
「勿体ぶってないで出せるだけ出しちゃって。もっと災厄の神らしくないと八百万界を滅亡の危機に陥れた戦犯と釣り合わないでしょ」
「良いだろう。我に溢れる闇の力を解放してみせようぞ」
「その意気! 私も闇用の衣装を作ろう! 見た目は大事だもん!」

 誰もいない森の中、血塗られた者同士で明るい妄想に耽った。



 ◆ワカウカノメ

「大変だ! 頭ぁ! 河が!」
「出動しまーす」

 大雨の中独神は行く。
 護謨製の防水靴を履いてぬかるんだ道を行くのも慣れたもの。
 イバラキドウジにもすいすいついていく。

「あそこだ!」

 島に唯一ある河川では橋が流れ落ちていた。
 土嚢の間から水が噴き出している。
 河の真ん中では水色の髪をした少女が虚ろな目で浮き上がっていた。
 濁流が轟音を響かせる中でぶつぶつ呟いている。

「何故ですか。靴下は丸めて入れないでって言ってるじゃないですか」

「ご飯粒は最後まで食べてって言ってるのに。なんで毎回言わせるんですか。調子が悪いって言うならお酒を何升も飲むなんておかしいですよ言い訳じゃないですか」

「みんなで協力して倒そうって言いながら真っ先に走って行って怪我して戻ってきてその後戦えないってなんなんですか何がしたいんですか」

「独神さま。私とお出かけしようって約束したのに。おめかしして待ってたのに、二分も遅れてきました。忙しいのは判りますけど……私ばっかりみたいじゃないですか」

「お頭! これは」
「ううむ。日頃の鬱憤ですのう。怒るのが嫌だからって溜め込んじゃタイプなんだよね」


「独神さまってどうしてわたしをおかしくするんですか。今日も見ているだけでどきどきしてしまっていい加減にして下さい」
「いやあ照れますなあ」
「照れる前にどうにかしてくれ!! もうもたない!! 決壊する!」

 ワカウカノメは河の氾濫に同調していた。
 このまま放っておけば怒りと共に地面を抉り、川下のものを食い殺していく。
 独神はこれを止めなければならない。

「ワカウカノメー!!!! 機嫌悪いのー? 美味しいもの食べてぱーっと忘れちゃおうよ!!」

 河の勢いが増した。

「機嫌が悪いからってお花や甘味を買えば帳消しになるって思われているんでしょうか。心外です。不快です」
「もうすぐ君と会って三年でしょ! そんな素敵な日まで綺麗なものや美味しいものや素敵なものに囲まれながらお祝いしたいんだ!! 今は言えないけれど、当日はワカウカノメを驚かせるようなことを用意してるから!! 今日は仕事サボって私と楽しくやろうよー!」

 ぴくりとワカウカノメの口元が動いた。

「……わ、私は誤魔化されません。……仕事だって……おさぼりはよくありません。でも独神さまと過ごせるのはやぶさかではない、です……」

 満更でもなさそうな態度になると河が落ち着いてきた。
 そこへ本殿から応援と思われる英傑がやってきた。

「主《ぬし》様! 無理はなさらずお逃げ下さい! カグヤとのお出かけはどうなるんですー!!!」

 ワカウカノメはギロっと独神を睨んだ。

「……独神さま。それ、どういうことですか」
「え? 仕事の一つだよ。ちょっと悪霊の情報を得たもんでね。カグヤが協力してくれるんだ」
「はい! 私、精一杯恋人役を努めますのよ! 折角楽しみにしているんですから、お風邪を召されないようにしてくださいましー!」

 あっけらかんと独神が答えたせいか、カグヤヒメの無自覚な発言のせいか、河はとたんに酷くなった。

「……ふうん。楽しみなんですか……」

 ワカウカノメは笑いだしたが、どう見ても良い意味ではなかった。

「あら。カグヤ何かやってしまいましたか?」
「頭(かしら)逃げるぞ! アンタも走れ!」
「走ると泥が着物に飛び散りますわね……」
「そんな場合か!!!」

 イバラキドウジはぼんやりしているカグヤヒメを抱え、独神に手を伸ばす。
 しかし独神は手を取らなかった。
 顎で撤退を命じる。

「頭……。死ぬなよ」
「ちょっと! 姫の私をもっと丁寧に扱いなさ、!」
「喋ってると舌噛むぞ」
「(かみまみたわ)」

 川岸の岩が水流に押し出される。
 周辺地域には避難命令を発令し、田畑が気になり外出する者達の監視に英傑を配置しているとはいえ、これ以上酷くなれば住民たちにも被害が及ぶ。
 ここで止めなければならない。

「ワカウカノメ……」

 独神はふっと笑った。
 ぬかるんだ泥の上で膝を折った。

「ほんとーにごめんなさい」

 土下座した独神の上にワカウカノメの剣がぐっさりと刺さった。



 ────後日

「いくら私でも串刺しは遠慮願いたいがね。主《ぬし》は本当に面白い。……好きだよ」
「ごっめーん。私ワカウカノメと付き合ってるから。惚れさせちゃってごめんねー」
「恋はいくつしても良、」

 フツヌシの首が曲がってはいけない方向に曲がった。

「あら。申し訳ございません。私ったら。うふふ」

 モミジが意味ありげに笑って、独神の包帯を解いた。

「いけませんよ。主《ぬし》様。ふらふらしてばかりではワカウカノメが可哀想です」
「私もそのつもりはないんだよ。気付いたら怒られてるけど」
「……お気の毒。勿論主《ぬし》様のことじゃございませんよ」

 こういうことは一度や二度ではない。
 一部の英傑は独神の奔放さに呆れている。

「ワカウカノメは今はぐっすり眠っておられますよ」
「ありがと。流石はモミジだね」
「お戯れはよして下さい。また河が氾濫してしまいますよ」
「それは……良くないね」

 腹に空いた穴に触れた。

「三日後にはなんとか閉じそうだ。良かった記念日には間に合う」
「主《あるじ》は嫌にならないのか」

 と、イザナギ。

「河の氾濫で機嫌が上下し、鎮められるのは自分だけ。しくじれば腹に風穴。……儂だったらとうに投げておるだろうよ」

 楽しそうに独神は言った。

「嫌なわけないじゃん! だって私にしか止められないってことは、私だけを必要としてくれてるじゃん。滅茶苦茶嬉しいけど、違うの?」
「うむむ……。やはり主《あるじ》は儂の子供らを率いる器の持ち主だな」
「イザナギだって、イザナミが殺しにきてくれるの嬉しくないの? 滅茶苦茶愛されてるじゃん」
「おぞましい。誰があんなの」
「あんなのとは、こんな顔か?」

 顎下の埴輪がイザナミの顔を照らした。

「ギエー! 化物!!!」
「安心しろ。黄泉へ行けばそなたも化物の住民だ」

 ふふふと笑いながら斬りかかっている。それを器用に逃げているイザナギ。

「やっぱ楽しそうじゃん。ねえ?」

 執務室の英傑達は誰も独神と目を合わせなかった。



 ◆タマノオヤ

 去年の大掃除、特殊な悪霊が現れて本殿の大掃除どころではなかった。
 なので今年は全体的に予定を早めようという命が下った。
 真面目なタマノオヤは素直に自室を片付けていた。
 本殿に来てからは八百万文界帳と写真の枚数が大幅に増え部屋を侵食していた。

「掃除早めて正解。アタシ、これ掃除出来るのかなあ……」

 ここにあるものは、捨てられない大切なものばかり。
 せめて整理はしようと、写真を写真帳にまとめていく。

「あ、この写真……。懐かしいな」

 紅葉した山々を撮った風景写真である。

「でもなんで撮ったんだろう」

 自分で撮ったはずなのに思い出せない。
 当時はきっと心が動いたはずなのだが。

「……ふふ」

 タマノオヤは写真を持って執務室へと向かった。
 独神が丸めた座布団を枕に大の字で寝ていた。休憩中だろう。

「主《あるじ》さん、ちょっと見てくれない?」

 写真を見て「ああ」と独神は言った。

「これって皆で黄金紅葉探しに行った時ですよね」
「……そうだな。随分懐かしい写真だ」

 黄金色の紅葉があるという言い伝えがあるが、そんなの偶々黄色になった紅葉のことを盛っただけだという話になり、実際に真相を調べようとなったのだ。
 その時は悪霊も少なく、そして英傑達は暇だった。

「でもアタシこれ撮った覚えないんだ。主《あるじ》さん知らない?」
「さあ。知らんな。君の手提暗箱《てさげかめら》なら君しかいないだろう」

 独神はゆっくりと起き上がった。

「そうだよね。……それで、あの、……そろそろ時期だよね。もし良ければ一緒に行かない?」

 本題はこれだ。写真は口実に過ぎない。

「ああ。明日なら調整出来る」
「じゃあ明日! 紅葉狩りなんてわくわくしちゃう! 誰か誘いたい子がいたら誘っていいからね」
「……判った」
「仕事の邪魔してごめんね。明日の朝よろしくね!」

 次の日。
 待ち合わせ場所に来たのは独神だけだった。

「主《あるじ》さん一人?」
「君も。保護者は良いのか?」
「いいのいいの」

 独神との約束は誰にも言わなかったが、イシコリドメは知っていた。
 一緒に行きたいと言われたが、出来るだけ傷つけない言い方で断った。
 もしも……の可能性を考えてしまい、タマノオヤは大事な友人を拒んだのだ。

「主《あるじ》さんはアタシと二人だと困っちゃうかな……?」

 独神はイシコリドメが来ると想定していて、二人きりは気が進まないのだとしたらと思うと怖かった。

「二人で良い。折角紅葉を見るなら静かな方が良いだろう」
「……そ、そっか! なら良かった! じゃあ行こ!」

 二人きりのお出かけ。
 始まると気まずさはなく、二人で綺麗な紅葉を見て楽しんだ。

「やっぱりこれ。アタシじゃない気がする」

 きっかけとなった写真を見てタマノオヤは眉を顰めた。

「気のせいじゃないのか」
「ううん、絶対違う。だって見て」

 タマノオヤは指差した。

「この写真はここで撮ってるの。でもアタシはこれを見てどんな気持ちだったか思い出せない」

 断言するタマノオヤの隣に立った独神は、写真と同じ風景を眺めた。

「それ。撮ったの私」

 秋風が赤や黄色の葉を舞い上げた。

「タマノオヤって他人ばかり撮るだろ。それで」
「でもこれ風景ですよね」

 タマノオヤが撮影する時、特に大勢といる時は被写体は人物のみだ。
 風景を写したい時も誰かが入るようにしている。

「一応勝手に撮るわけだからな。……それにバレるのは嫌だ」
「でもアタシがって……」
「君にはただの風景にしか見えないだろうが、私にはここに映るタマノオヤがちゃんと見える」

 それはタマノオヤだけが見えないタマノオヤの写真。

「……な、なんだか恥ずかしいね」

 独神の中にいる自分の姿を思うと照れ臭かった。

「そろそろ帰るか」

 用は済んだと先に行ってしまう独神を慌てて引き留めた。

「待って! ふ、二人でその……撮りませんか?」

 手提暗箱《てさげかめら》片手に、真っ赤な顔で頼んだ。

「……いいよ」

 独神はタマノオヤの肩を抱き、機械上部の突起を押した。


……

…………

………………


「……ってことあったよね」

 紅葉狩りの写真が三枚、壁に飾られていた。

「ねえお母さん、この写真。誰もいないのに温かい気がするね」

 それは黄金紅葉を見に行った時に撮られた写真だった。

「そうでしょ! 恥ずかしがり屋の誰かさんがアタシを好きな気持ちがいっぱい入ってるからね!」
「子供に言う事でもないだろ」

 離れた所で独神が文句を言った。

「いいえ、子供だからこそ教えてあげた方が良いって! 好きあって産まれたことを知られるって嬉しいに決まってるんだから」
「あー、はいはい」

 独神は呆れて奥へと引っ込んでいった。子供がタマノオヤの服の裾を引いた。

「怒ってる?」
「ただの照れ隠し。あのひとはお母さんのことが好きだけど、恥ずかしいんだって」
「大人なのに?」
「可愛いでしょ?」
「うん!」

 タマノオヤによく似た小さな女の子は満足そうに笑った。


[newpage]
 ◆イワナガヒメ

 八百万界で六月の結婚式が増えた。
 六月に結婚することで幸せになれると、誰が流行らせたのか定かではないが新しい風習を住民たちは受け入れていった。

 結婚といえば神殿や神社で行うことが通常だが、最近は新しい式場が建つようになっている。
 結婚式の服装も白無垢以外にも白い怒礼須《どれす》と選択肢が広がったので、選ぶ楽しさが倍増した。

「主様! 今回もお願いします!」
「よしきた!」

 手先が器用な独神は、針仕事を手伝っている内にいつのまにか戦力の一人となっていた。
 仕事ばかりの独神には良い気分転換になっている。

「つっかれたー。今日もいい仕事したー」

 花嫁から英傑へ依頼された怒礼須《どれす》の担当部分は終わった。
 満足そうな顔をしているが、本業はここからである。

 悪霊の被害の大小で英傑を振り分けたり、各地の偉い人へ打診する手紙を書いてみたり、派手さはない細々とした仕事を過不足なくこなす。
 仕事一辺倒ではなく、なんでもこなす器用さをイワナガヒメは羨ましく思っていた。

「凄いですわ。私なんて……」

 イワナガヒメは自他共に認める不器用剣士である。

「やってみりゃ良いじゃん。今お針子大歓迎だから」
「ですが」
「剣が上手くなりたい奴にあんたならなんて言うの。まず素振りしろ、でしょ?」
「……おっしゃるとおりですわ」
「幸いにもここには先生が沢山いる。いくらでも聞けるじゃん。初心者のあるあるなら私もな」

 独神に乗せられて一先ず縫ってみる気になったようで小さく頷いた。

「あんた最近白無垢が良いって話してたろ。じゃあ、白無垢作ろう」
「ぃえ!? もっと簡単なものからでは?」
「心が動いたものから始めれば、やる気も続きやすいだろ。あー、そうだ、自分じゃ布をあてるのも難しかろう、私が人形役やってやる」
「え!? 主《ぬし》様!?」
「私に合うもん作れよー」

 強引な独神に言われるまま、イワナガヒメは毎日白無垢をこつこつ製作していった。
 あまりの難しさに何度も投げ出しそうになったが、意地と周囲の応援で継続した。
 コノハナサクヤにも助言や実演をしてもらって、なんとか白無垢っぽい物が出来た。

「主《ぬし》様。お、お願いします」
「ん。任せよ」

 長襦袢まで脱ぎ散らかし、掛下、白無垢と着ていった。
 しかし、腕が一本出口を見つけられず中に籠ってしまった。

「……縫う場所間違ったな。それに……。ああなるほどな。最初の縫い目も力の具合もイマイチだが、……この辺は最近やったろ? 上手くなってる。偶に酷い縫い目なのはどうした、眠かったのか」

 イワナガヒメは肩を狭めて顔を真っ赤にしている。

「お疲れ様。一枚出来上がったぞ。頑張ったな」
「……申し訳ございません。やはり私なんて」
「私がどうして、私用に作れと言ったか判るか?」

 目を細め、口を尖らせる独神に、イワナガヒメは慎重に答えを探した。
 だが、先に独神が答える。

「あんたの自己評価が低いからだ。でも他人相手なら着物だけを冷静に見られるだろ? だから人のものを作る方が良いと思ってな」

 言葉のなくなったイワナガヒメに独神は続ける。

「あとは私的なものでな。ちょっと試したかったんだ。私に着せてやろうとするのはいるが、いっそ自分で着て確かめてやろうってな」

 独神は笑った。
 立場や能力、面倒見の良い性格と他人に好まれる要素の多い独神はよくひとに見初められた。
 今まで誰かと交際したと聞いたことはない。

「……主《ぬし》様は気になっている方はいらっしゃしますか?」
「相手? そりゃいないさ」
「でも、それだけお声がけされていて」
「相手の要望に応えてたら私死ぬぞ。何人とっかえひっかえすりゃいいんだよ」

 ころっと不満顔に転落した。

「私は民の求めに応じる。それだけだ。独神なんだからな」
「安心しました」
「……何が」

 声色がはっきりと低くなり、イワナガヒメは言い繕った。

「いえ、なんでもありません」
「どこに安心したんだよ」

 わざわざ追究するほど怒っているらしい。言葉を選びながら慎重に答えた。

「恋人を作る様子がないようなので……。いえ! ずっと同じ独り身でいて欲しいとは思っていませんよ? 主《ぬし》様のような方がずっと独り身なんてあり得ませんし……」
「ずっと独り身ってなんだよ」
「ですから、ずっとではないと」
「あんたは予定ないわけ?」
「ご存知でしょう。私を見初めてくれる方はいませんわ」

 責め立てられた挙句に触れられたくない過去まで引っ張り出され、イワナガヒメもむきになった。

「私は主《ぬし》様とは違うんですの」
「私みたいになったって良い事ないだろ。言い寄られたって断るだけだ」
「一度お受けすればよろしいではありませんか。主《ぬし》様を求める方は沢山いらっしゃるんですよ」
「めんどい」
「すぐそんな事を言って」
「あんたもだろ。いつまで自分を卑下するつもりだ」
「主《ぬし》様に、私の気持ちなんてお判りになりませんわ!」
「なら一生言ってろ」

 吐き捨てた独神はすたすたと障子へ向かう。手のない白無垢姿のまま。

「何をなさるおつもりですか。その恰好で外へ行くのはおやめ下さいまし!」
「そのへんの暇人に婿役でもやらせてみる。物は試しだ。私もその気になるかもだろ」

 イワナガヒメは想像した。
 自分が縫った白無垢で独神が誰かと愛を誓う姿を。

「お、お待ち下さい!!」

 思わず抜いた剣はすっぽ抜け、完成したばかりの着物に突き刺さり、独神は壁に縫い付けられた。

「ばっ……串刺しにする気か!?」
「すみません! すみません! すみません!」

 謝罪しながら袖を引いた。

「行かないで下さい。他の方とは真似事でも嫁入り衣装を合わせないで頂きたいです!!」
「判ったからまずこの剣を抜け。足ぎりぎりだったんだぞ」
「すみません」

 剣に伸ばした手が止まった。

「……本当に約束して頂けますか」
「するって」
「嘘ですわ」
「なんでだよ!?」
「私、嫁いでから帰らされたのですから、慎重にもなりますわ。主《ぬし》様が本当に私以外と式の真似事をしないのであれば、私に合わせた白い怒礼須《どれす》をつくって頂けませんか?」
「は? 怒礼須《どれす》って……あれの装飾鬼ムズだぞ。均等にひらひらを割り振るって地味でも出来上がりに大きく左右する。それを何ヵ所も。全工程を一人でするなんてとにかく時間がかかる」
「すぐに出来なくて良いんです。私ももう一度作り直しますので。主《ぬし》様とのお式を想って一針一針縫わせて頂きます」
「私の方が上手いからって落ち込むなよ」
「しませんわ。鍛錬と同じく何度も繰り返し練習させて頂きますので」

 ようやく剣を引き抜き、独神は安堵でその場に座り込んだ。

「では私、もう一度挑戦してみますね!」

 笑顔で出て行ったイワナガヒメが戻って来ないことを確認してから、大きな溜息を吐いた。

「……どうして式の真似事で満足するのかね。でも一応は前進か」

 イワナガヒメの不器用さは手先だけではない。
 独神が誰からの誘いも断る理由に気付かず、探れず、自身の気持ちを伝えることも出来ない。

「満足いく一着が出来るまで何年か付き合ってやるか」



 ◆タケミナカタ

 ────第298回。
 主人公になるにはどうすればいいか会議。始めます。

「僕なんて到底無理だ。どうせタケミカヅチの方が主人公が良いと言うのだろう? 僕が神代八傑達と行動を共にする間、タケミーろすに陥っていたのだろう? そして早くタケミカ戻ってきて! と声援を送っていたのだろう。主人公の格ではないといって、薄い板にぽちぽちぽちぽち僕に対する不平不満を書いていたのだろう。僕なんてどうせ繋ぎでしかない。そうだろう? 結局二番手。なのに当然のように看板面するなと、双璧ならフツヌシだろうとそう言うのだろう。突然三人で映っていて不快だと、みんなそう言うのだろう!!!!」
「ままそう言わずに。お酒追加しまーす」

 この会議はお酒をタケミナカタにしっかり注いでベロベロに酔ってから開始する。
 酒が入ると彼は後ろ向きな発言が多くを占める。

 これらはタケミカヅチに対する劣等感のせいだ。
 あとは薄い板を見たのが悪い。
 すっかり気にして自分が何しても悪口を言われていると思うようになってしまった。
 八百万界が薄い板を禁止にして良かったと思う。

「ほら英傑の皆の意見を集計したでしょ! そっち見て分析しましょうね」


 ・青枠
 ・病み仲間
 ・剣士は主人公っぽい
 ・横腹が出ているので女性受けする
 ・自然と住まう神様は優し気で良い
 ・水は生命の源だから主人公
 ・熱血は暑苦しいから、涼し気な感じで良いんじゃない?
 ・めちゃ愛してくれそうだから主人公いける!
 ・大体主人公は万物を愛し守るから、生きとし生けるものの守護者はあり


「ほらほら。こんなにあったでしょ」
「……はあ」

 お猪口の酒を飲み干し、溜息を吐いた。

「だが戦隊ものなら赤が主人公で青は脇役なのだろう」
「そうだったっけなー。最近は枠にはまらないのが多いから」

 と、ホシクマドウジが言っていたことをそのまま伝える。

「子供向けの黄表紙では、主人公が熱血ばかりだと」
「呪術を使うのとか、木を切る機械の主人公は熱血じゃないよ」

 と、ボロボロトンが言っていたことをそのまま伝える。

「……はぁ」

 手酌で一杯やり始めた。
 励ましの言葉を言ったところで本人には響かず、いつもこのような感じだ。

 いっそのこと……と思い、タケミカヅチの悪口をひたすら言った事もあった。
 その時は、

「……僕の主《あるじ》はそんな事言わない。英傑の悪口なんて悪霊に操られていても言わない」

 と解釈違いだから寝ると言って、本当に廊下で寝たこともあった。
 面倒くさい神である。

「そういえば主《あるじ》、最近タケミカヅチに何か貰っていなかったか?」

 目聡い。

「村の人が感謝の品だって。それを届けてくれたの」
「それにしてはやけに包装が綺麗だったような」
「村人全員で出し合ったって聞いた……それに京に近い所なの、あの辺って裕福だから」
「そうか」

 ────怖い。
 タケミカヅチに限らず、私が何気なく物を貰ったり、出かけたりすると、後日ちらっと言われるのだ。
 忍でもないのに監視しているのだろうか。いくら自分時間がない私でも怖い。

「主《あるじ》も本当は後ろ向きはやめてくれとうんざりしているんだろう。だから僕はいつまでも、主《あるじ》に重用されないんだ」

 あーあ。今度はこの話題になったか。
 タケミナカタはこう言っているが、お伽番率は十分高い。
 戦闘を主とする英傑はお伽番率が低い中、多くの日数を務めているのにタケミナカタは少ないと言う。
 頭脳労働が得意なミチザネやショウトクタイシと比べても仕方ないのと思うのだが。
 そう言っても、タケミナカタは納得してくれない。
 自身に満足せず、常に精進していく姿勢はきっと真面目故だろう。

 さてそろそろ、元気づけていこうか。

「ねえ。私は青が好きだし、暑苦しいのは苦手だし、別に問題ないと思うんだけど」

 『好き』の単語にタケミナカタが反応するのは297回も行った会議中に判明している。

「……なら、草と火と水とあったらどれを選ぶ?」
「水一択。歴代の携帯獣では水しか選ばないよ」

 水は生命の源。
 そんなのもあって、独神である自分は水が好きだ。
 元気づける為の即製の嘘なんかではない。

「て、天然脳筋と! 爽やかな後ろ向きとどっちがいいんだ!?」

 個人名が後ろに透けて見えるが、見えない振りをするのが大人である。

「んー、天然だから好きになることはないかな」
「そうか! 天然は嫌いなんだな!」

 大分歪曲しているが、本人はそうしないと心を保てないのだから気にしないであげるべきである。

「そうか。主《あるじ》は僕の方が良いんだな!」
「うん。タケミナカタは好きだよ」

 そう言ってあげると、酔いで赤くなった顔ではにかむのだ。

「そうか……そうか……」

 嬉しそうに酒瓶を抱いて、瞼を落とした。
 手足を触ると体温が上昇していたので、このまま寝てしまうだろう。
 私はタケミナカタを撫でながら、子守唄替わりの言葉を歌った。

「大丈夫大丈夫。頑張ってるの知ってるよ」

 落ち込むだけではなく、努力を重ねていることを知っている。

「主人公なんて本当はいないよ」

 主人公なんて言い出したのは本殿の外の者達だ。

「主人公が読者に夢や希望、生きる為の力を与える存在というなら、それは物語の誰もが主人公になれる」

 八百万界全域で英傑達への応援の言葉が届くが、特定の英傑だけではなく満遍なく頂いている。
 それは人によって、心を動かしてくれた英傑は違うからだ。
 英傑一人が救える数には限りがあり、みんな自分の得意分野で助けてくれている。

「君はタケミカヅチじゃないけど、タケミカヅチじゃなく君を好きになったひともいる。君のお陰で日々楽しく過ごせている人は必ずいる」

 タケミナタカのお陰で村が守られたと、最近もお礼の手紙が来た。

「君も光だ」

 誰かと比べることなんかない。

「だから君を必要とするひとをもっと大事にしなきゃ。……私とかね」



 ◆オモダル

「私が完璧になる為には独神殿が必要なんです」

 と言われて、

「勘違いだよ。嵌め絵じゃあるまいし」

 と返した。
 その時の私は、自己確立に他人を当てにするのは良くないと思っていた。
 自分をしっかり持っていなければ、他人を求めた所で頼りすぎてしまう。
 各々が地に足を着いた状態で、頼ったり頼られたりして相互扶助していくのが理想なのではないかと。
 アヤカシコネに後から耳打ちされた。

「あれ……。独神様へ告白したつもりなんです」

 寝耳に水である。

「いや。だって、あれで?」
「ええ。完璧を表すオモダルが、独神様も自分の一部であると言うのはつまりその、一緒にいて欲しいという想いからです……」

 私の勘違いから、とんでもないことを言ってしまい罪悪感が募る。
 断るにももうちょっと言葉があったはず。

「……ここで、私が謝ったらどうなると思う?」
「どちらにせよあまり良いとは思えませんね」

 やってしまったと頭を抱えた。

「もう休憩終えないと……アヤカシコネ、教えてくれてありがとう。あとはなんとかするから」
「何か伝えることがありましたら遠慮なく言って下さいね」

 片割れをこっぴどく振った私にも優しく、アヤカシコネはそう言ってくれた。
 気持ちだけ受け取っておこう。
 私の不始末は自分でつけなければならない。
 悪霊のこと以外で、独神が英傑の手を煩わせることを私は嫌った。
 私たちは悪霊を倒す為に一所に集い、便宜上私が組織の上に立っている。
 特異な力だけで上に押し上げられた私が、まるで私物のように英傑達のことを使うことは良くないことだ。
 私は中立の立場を保つため、そうやって自分を律してきた。
 今回の事も自分でどうにかしなければ。

「独神様。ありがとうございます!」

「主様、今回も完ぺきだったよ」

「悪いのはあっちだけど、まあお前の顔立ててやるよ。今回だけだからな」

 八百万界の平和を取り戻す事を目標に、その為に必要な事はなんでもやった。
 働く事だけが私の意義だった。

 それは言い訳だったのかもしれない。
 オモダルのことは心の隅に引っかかっていたのに、全く行動しようとしなかった。

「うわ。主早すぎ! もっとゆっくりでも良かったのに」

 今日出来ることは今日中にやる。
 仕事ならなんでも前倒しでやっていけるのに、オモダルのことは後回し。
 間違った行動だと判り切っているのに、私はいつまでも動けなかった。

 オモダルの態度がいつも通り変わらなかった事も行動を遅めた要因だろう。
 いつもの通りに任務を行うオモダルに、私がわざわざ謝ったり、埋め合わせをするのはどうなのだろうと言い訳が出来てしまった。

「まず謝れって話じゃない?」

 英傑達の雑談に無関係の私は胸を掴まれた。

「結局ずるずるずるずる何にも言わなくてさ、こっちが許すの待ってるわけ? こっちがなんでもないふりしたら嬉しそうにしててほんとムカつくんだけど」

 オトヒメサマの言葉にキリキリと胃が痛む。

「ね、主《ぬし》様。主《ぬし》様はそんなことしないよね?」

 空気が「しない」と言ってくれるだろうという期待に満ちていた。
 そこで私はうっかり「する。かも」と言ってしまった。
 当然、皆は私を見てぎょっとしていた。こうなると判っていたのに。

「主《ぬし》様……? どしたの? 悩みでもあるの?」
「ないよ。仕事で色々あっただけ」

 誤魔化す私をオトヒメサマはじっと見て、

「よし! 呑もう!」

 どこからともなく酒瓶を取り出した。

「真昼間だよ? しかも昼食すぐの」
「だから何? ねぇ、ちょっとー、誰かつまみ持ってきてくれない? 主《ぬし》様は普段付き合いでしか飲まないから、抵抗のない普通のおかずで。お酒は度数高いもの。まずは一気に呑ませるから!」

 と言いながら私を羽交い絞めにして酒瓶を咥えさせてきた。
 必死の抵抗もむなしく、私の中にはごぼごぼと酒が投入される。

 その後の記憶は曖昧だ。

 頭痛で起き上がった時にオトヒメサマが「主《ぬし》様可愛いとこあるじゃん。弱いところもっと出していきなよ。私たち主《ぬし》様に期待してるだけじゃなくて、支える為にいるんだから」とかなんとか言っていた気がするが、夢なのかもしれない。
 夢だとしたら摩訶不思議な夢で、胸に渦巻いていたものが整頓され、仕事にも励むことが出来た。

 一番の変化は。

「あ。オモダル。今夜時間あるかな?」
「勿論です。迅速に執務室の方へ参ります」
「それなんだけど、私の部屋でも良いかな」
「承知致しました」

 私が遅れて自室へ行くと、オモダルは直立で部屋の前で待っていた。

「ごめんなさい。討伐依頼の対応をしてて」
「お忙しい身であることは重々承知しております。ですからお気になさらず」

 自室は整えていたのでそのまま通した。
 干した座布団に座ってもらって、お茶を出した。
 仕事の話をして空気が温まったら、迷わず切り出した。

「以前のこと。冷たい対応をしたこと謝らせて欲しい」

 床に手を付け、頭を下げた。

「独神殿、やめて下さい」

 慌てたオモダルは私を無理やり起こした。

「あの時は私の方こそ申し訳ございませんでした。軽率な行動で独神殿にご迷惑を。……ですが、その……今まで私のことを考えておられたんですか」

 困惑したような、どことなく嬉しそうな表情をするオモダルに数度頷いた。

「迷惑じゃなかったよ。ただ本当に判らなかった。そういうこと考えたことも無かったの」

 オモダルは私を探るように見てきたので、私は目を伏せた。

「悪霊を一早くここから追い出して、平和を戻さないと。自分の事を考える余裕がなかった。自覚もなかった。多分このままじゃ、一人一人のことが見えなくなる」

 オトヒメサマとお酒をかけあいながら、私は色々なことを言っていた気がする。
 嫌だったこと、面倒臭いと思っていたこと、気になるのに聞けないこと。
 それらに対してオトヒメサマは私を容赦なく馬鹿にして、時には共感して、最終的には応援してくれた。
 情けない独神を肯定してくれた。それはオトヒメサマだけでなく、英傑達は皆そうだと教えてもらった。

「他人を頼りにするのは怠惰だと思っていたけど、今のままじゃ正しい独神にはなれない」

 私は欠けた生き物だ。
 神も妖も人も、欠けた存在だ。

「完璧な自分の為に私が必要だって話、今なら肯定するよ。生物ってそういうものなんだよね。当たり前のこと、すっかり忘れてたの」

 欠けているから補い合おう。
 その考えで皆がここに集まったはずなのに、私が忘れているなんてあってはならないことだ。

「私が気づけたのはオモダルがきっかけだった。それで……虫のいい話だとは判ってるんだけど……」

 ここまできて躊躇ってしまう弱い自分がいる。
 でも私には頑張れと応援してくれたアヤカシコネや他の英傑達がついていた。

「私にもオモダルが必要なの。だから、……傍で私を支えてくれないかな」

 言い切った。私は言い切ったよ、皆。
 オモダルは小さく笑っていた。

「勿論ですとも。このオモダル、独神殿の為全てを捧げましょう」

 出来た。ああ、終わった。ようやく胸のつかえがとれた。

「早速ですが、今日はお互いを知るためにもっとよく話しませんか。今夜の月は綺麗ですから」
「名案だね。縁側の方行こうか」

 オモダルにも、私のことを知ってもらおう。
 その中にはオモダルにとって都合の悪い私も沢山いるだろう。でもそれを含めて聞いてもらう。
 私がどれだけ完璧じゃないか、オモダルがどれだけ完璧じゃないのか、お互いに理解して二人で歩んでみよう。


[newpage]
 ◆ヌラリヒョン

「一緒に住まない? ……ずっと」

 緊張した面持ちで独神はずっとしまいこんでいた想いを告げた。
 今が戦時中であることも、自分が特別な身分であることも承知した上で、己の感情を吐露したのだ。
 ヌラリヒョンは意味ありげに笑った後、眉尻を下げて躊躇いがちに言った。

「……先を越されてしまったな」

 みるみるうちに独神の表情が変わった。

「先って……?」
「まさに今日。其方を今までになく驚かせようと思っていたのだよ」

 固唾を呑んで待っていた。

「……花嫁衣裳に興味はないか?」

 ぱっと目を見開いた独神は、今度は目を細め、眉を八の字にして泣きだした。

「ごめん。……ごめんね……。私、先走ったんだね」

 垂れてしまった頭を撫でながらヌラリヒョンは否定した。

「そうではない。其方もずっと望んでくれていた。どちらが先でもおかしくなかった」

 独神は首を振った。

「記憶を消してもらいにいってくる」
「やめぬか」

 ヌラリヒョンに掴まれた肩を振り払おうと身を捩った。

「私は、あなたが私のために考えてくれたことはその通りに全部したいの。一生に一度なんだよ!」

 本来ならば悲しみの涙を流す場面ではない。
 大事な所でしくじってしまった。ヌラリヒョンは申し訳なく撫でた。

「其方の考えは理解した。しかし記憶はこのままにしておくれ」
「どうして。だって本当は驚かせたかったんでしょう? 知った後は驚けないじゃん!」
「壱の案はな。儂もいくつか展開は想定していた」
「じゃあ」
「人生とは思いもよらぬもの。折角だからこのまま続けてみてはどうだろう」

 迷う独神に言った。

「心配せずとも、其方への求婚はもう一度行う。儂が思い描いていた通りにな」

 それを聞いて安心した独神は判ったと頷いた。

「英傑どもに知られるのは本意ではない。儂は其方と静かにその日を迎えたいのだ。だからくれぐれも内密に頼む」
「そんなの当然でしょ。私だってこれ以上邪魔されたくないよ」

 子供のように口を尖らせる姿が、ヌラリヒョンには微笑ましかった。

「儂は今のような其方を見ていたい。其方の変化が儂には眩しくてな。時に眩しすぎるのだが、身の程知らずにも手に入れたくなった」

 少し赤くなった。

「ご、後日って言わなかったっけ?」
「それはそれ。これはこれさ」

 独神は気まずそうに、だが嬉しそうににやけていた。

「ここまでの緊張はいつぶりか思い出せぬぞ」
「あなたでも緊張したんだね」
「そう言われると寂しいな」

 独神は驚いた。

「連れ添いたいと欲したのは初めてだったのだぞ」
「え……? それ……」 
「その通り。結婚を申し込むのは永い人生でも初めてのことだ」

 この告白には独神は驚きを通り越して固まってしまった。

「なんだ。儂が何度か所帯を持ったと思っておったのか」
「あってもおかしくないから……。それに、そんな話したことなかったでしょ」

 お互いに踏み込まなかった。
 それぞれに躊躇う理由があった。

「今日の今日まで、其方を好きだとも愛しているとも言えずにいた。其方が儂を悪く思っていない自惚れもあったが、それ以上に恐れがあった」

 ヌラリヒョンと独神は親しいながらも、独神と英傑の立場を崩さなかった。
 特別な祭りがある時には互いに贈り物をし、都度感謝を述べ、ほんのりと好意を伝えていた。
 この本殿ではよくある光景である。信頼や尊敬以上の感情が互いの間にあることに誰も気付かなかった。

「親しき者も死人の方が多くなってきた。別れは慣れぬものだ。心が通った者を失うのは己をも失うのだから」

 永い時を生きる妖。
 その中でも途方もなく永い時間を揺蕩い続けたヌラリヒョン。
 生を受け数年の独神には時の重さは判らない。
 判るのは、別れが寂しいことだけ。

「しかしとうとう、痛みすら厭わず手に入れたいものができた。それが其方だ」

 慈愛に満ちた表情を一身に浴びる独神は、慣れないことに汗がじんわりと滲んできた。
 焦りを誤魔化そうと茶化し気味に言った。

「こんなに自分のこと喋るの初めてじゃない? どうしたの?」
「胸の内を知りたいと言う其方をずっとかわしてきた。今は全てを伝えるつもりだ」

 完敗であった。
 独神が耐えられる羞恥心は器から溢れだし、心を保つには話すしかない。

「い。いつ好きになったの?」
「正確にはわからぬ。元々独神というものに興味を惹かれてここに来たのでな」

 打算ありきでの来訪はヌラリヒョンらしかった。

「時折手を繋いでくれたのは気を遣って? それとも戦略的行動?」
「単に触れたかっただけさ。ただ其方に拒否されてはかなわぬし、周囲の目もあった。手が丁度いい塩梅だったのだよ」
「触りたいって、本当はどこが良かったの?」

 立て続けに無遠慮な質問をくらい続けたヌラリヒョンはとうとう黙った。

「決めたとはいえなかなか……心を乱されるなあ。だが今だけは特別だ」

 大きく表情が崩れることのないヌラリヒョンも、今は頬がほんのりと赤味が差していた。
 独神よりはずっと薄い色ではあるが、乱れる心は同じだった。

「最初は頭を撫でてやりたかった。愛らしい幼さが爺には可愛くてな。其方が儂に触れられることに抵抗がなくなり、自分から手を取るようにもなった」

 ヌラリヒョンだから許したのか、英傑だから許したのか。
 独神ははっきりと言うことが出来ない。
 心の距離感は自分でも明確に把握できないものだ。

「もう役目が嫌だと言った時があったろう」
「いっぱいいっぱいだった時ね。懐かしいやら恥ずかしいやらだよ」
「初めて組み敷きたいと思った」
「………………そこで?」

 初めて英傑を昇天させた時のことだ。
 危険な任務であったが本人が任せろと強く望み、それを信じたから行かせた。
 そして、二度と帰ってこなかった。
 独神は自分の思い上がりを責めに責めて、だが立場上ふさぎ込む事も出来ずに暗澹とした感情を必死に押さえていた。
 英傑達は毎日独神を慰めた。その中にヌラリヒョンもいた。

「強引に身体を開けば泣き叫ぶのではないかという興味本位だ。其方を穢せば儂の違和感も晴れるのではと衝動の高まりも同時に感じた」
「黙って抱きしめてくれていた中で、そんな怖いこと考えてたの?」
「知らなければ良かっただろう?」

 己の全てを言う必要はない、知る必要はない。
 同種族であろうと、同じ個が存在しない以上判り合えないものだ。
 円満に”異物”と過ごす為には、互いに見せすぎないことが必須条件である。
 ヌラリヒョンはそうやって今までアクの強い妖たちとやってきた。

「もっと早く知りたかった」

 培ってきた交流の知恵を独神は否定した。

「寧ろ手を出さないから自惚れられずに不安だったよ。と言っても、抱きしめられるだけでも良いかなって、与えられるだけの日々に胡坐かいてた」
「そんなことだと思って儂は手を出すまいと律していた」
「我慢してたの?」
「柔らかい身体を無防備に押しつけて。儂とて気になるぞ」

 盛大なネタばらしに独神は安心して笑った。

「怖いぐらい対価を要求してこないんだもん。どこまですれば手を出すのかってちょっと試してるところあったかな」
「其方も人が悪い」
「お互い様でしょ」

 互いに一手ずつ進めて、出方をじっと観察していた
 一寸先の闇の中を探り合っていた。
 失敗は許されなかった。

「大事にされてる実感はあった。でもあなたの口から本音を聞きたいって思ってた。教えてと頼んで、もしも断られたり誤魔化されたら、多分私、離れてた。好きでいることが怖くならないように、我慢してた」

 何千人と見てきた独神は、生物たちの関係は移ろいやすいものだと判っていた。
 昨日の友は今日の敵であるように、極限状態に陥った者たちが本性を丸だしで噛みつき合う。
 環境の変化でひとは変わる。
 心地よい関係を続けたいのならば、互いをとりまく環境に手を加えてはいけないのだ。
 相手の心に触れたい欲が、相手を壊すことは到底ありうる。
 だからヌラリヒョンに対しては慎重に、変化を与えないように振舞った。

「考えないことを心掛けてた。何事も過ぎれば毒だから。好きになりすぎない。興味を持ち過ぎない。関わりすぎない。適度に適当に」

 自制するうちにほどよい所に収まる予定だったが、そう上手くはいかないもので今がある。

「……言ってもらえて安心した」

 不安や疑問が埋め立てられ、充足感に満ちていた。

「言うと言ったが、それらが真実とは限らぬぞ」

 水を差されても独神は変わらなかった。

「信じるよ。だから、信じて欲しいように言って。なんでも信じるから」

 これにはヌラリヒョンも両手を上げた。

「ただの戯れさ。なんでもと言うなら、もっと脚色しておけば良かったかな」
「どうぞ。お好きに」

 騙そうとすると意外と思いつかないものだ。
 双方共に満足していた。いるだけで幸福を噛みしめることが出来た。
 だが、時間は二人を待たない。

「……本殿、そろそろ戻らないとだね」
「其方を心配しておるだろう。既に探しだしているやもしれぬな」
「…………戻らなきゃ駄目かな」

 二人は本殿に背を向けた。






(20220920)
 -------------------
【あとがき】

 お疲れさまでした。私もお疲れさま。
 剣士の振り返りをざっくりします。


 ・カマイタチ
 なんかかっこいいイメージがあるやつ。
 声が良いってファンが言ってた気がする。
 でも私は『八百万大感謝祭』第十話でヌラリヒョンがついていってはいけないと言った後、
「なんでだよ? オレも虹水晶を持って帰って、主様に褒められたい」
 としょげてる差分が出てくる印象が物凄く強い。
 可愛い子かと思いきや……実際に書くと少しクールっぽくすると丁度良いくらい。
 傷つけるつけない云々の話好き。
 苦痛に歪む敵の表情を好む親愛台詞好き。妖ィ。


 ・ネコマタ
 ネコ。とにかくネコ。ネコ娘ではなく、ネコ。


 ・セイリュウ
 四霊獣のワード、キャラを一切使わず、「先生」呼びも無しで、セイリュウと一発で判る文を書けと言われたら書けない。
 キャラが強くないので、そういうのが好きな人は好きだと思う。好青年。
「逆鱗」ってのが作中に出ていたら、この子に対する見方が大きく変わっていたと思う。
 漫画の方がこの子の良さを表現出来る気がする。


 ・スザク
 綺麗な心を持つ者。夜会で言ってた。
 直情的なところを作中で見たかったな。暴走して歯止めがきかなくなったところ。


 ・タケミカヅチ
 主人公。公式の供給が非常に多かったので、多分皆さんと同じくらいの認識。


 ・ネンアミジオン
 こんな綺麗な顔して復讐の為に仏の道外れる所好き。
 感情的なんだ……ふうーん……。
 それとも儒教的なもの? それにしても仏の道に留まれなかったんだ。ふうん。
 相馬四郎義元が捨てきれない感じ非常に好き。
 人間じみてて凄く良い。


 ・ヤギュウジュウベエ
 一回目のバレンタインはこの子に渡しております。(当時ヌラは未実装。実装日は三月)
 剣振り回してわーわーしている女の子の一人。
 絶対にボケ。ササキの話を見れば判る。


 ・ダイコクテン
 これまたセイリュウと同じく七福神でなかったら、どう書けばいいのか判らない。
 メインの祭事もあったのに……。
 武神となってバッコバッコ斬り刻んでいる姿見たい。
 そう「終末のワルキューレ」に出てきそうな感じで!(六回戦は七福神戦)


 ・イザナギ
 イザナミとカグツチが好きな自分の鬼門。
 今回はイザナギ好きの立場に出来るだけなってみた。
 抜けているところが可愛いんだと思う。
 愛らしいながらも神の長として影響力もあって。
 ギャップ萌え系。


 ・スズカゴゼン
 剣もってわーわーしているうちの一人。
 鬼に対して容赦がない。
 でもそれ以外がごっそり欠けている。無頓着。
 こっちのスズカは人を率いた時も、従った時もあるとのことなので、経験を積んだ女性と見受けられる。
 ……本格的な戦闘メインの小説あったら輝きそう。
 前に立ち、人々から崇められる戦乙女……とっても良いと思う。


 ・バク
 遅めの実装だったのもあって、あまりよく判らないキャラ。
 なので今回じっくり親愛台詞を読み直した。
 この子自体が夢小説ネタ沢山持ってない? そう感じた。


 ・アマツミカボシ
 あちこちで語ったからいいや。


 ・サナダユキムラ
 親愛台詞好き。物凄く好き。夢女殺し。
 なので誰か書いて私に読ませて下さいお願いします。


 ・イザナミ
 好き。女の面倒臭いところをしっかり持っているところが好き。
 好きだから傍に置きたいから黄泉に引き込もうとする身勝手さ好き。


 ・ヤマトタケル
 草薙剣好き。
 だんだん出なくなったのは残念。
 シャーマンキングみたいにずっと浮遊して欲しい。
 ヤマト自身は他の人の方が造詣が深いので私が語ることはない。


 ・ブリュンヒルデ
 可愛いもの大好き男の娘。
 アシュラとは似たところにいるようで違う。
 ブリュンヒルデは女の子として扱われていそう。アシュラはどちらにも扱われる。
 女の子の姿して油断させておいて距離感バグらせるのほんとずるい。
 好きになったら厄介なやつ。


 ・オイナリサマ
 アイドルだと思っていたら違った(何年このゲームに触れてんだ)
「おっかけ」って言葉や、冬祭事でなんとなくアイドルだと思い込んでいた。
 親愛100台詞は物凄くタイプでめちゃくちゃくちゃくちゃちゃ好き。
 今まで可愛いできておいてそれって……ギャップ半端ない。
 油揚げって調理して食べるのかな? 油抜き前でも良いのかな。


 ・スズメ
 怖い。嘘が嫌いなキャラなので私とは相性がとても悪いです。
 だって恋愛って嘘を織り交ぜていく遊びだよ……?
 だからそういう駆け引き的なものではなく、普通に過ごして普通に好きになるのがスズメの正規ルートかと思います。
 フルプライスの乙女ゲーなら、女が嘘吐いて嫌われる場面は必ず入れる。
 情報自体は持っているけれど、基本的にはゆすらなそう(チヨメならゆする)
 でも「正しい」に囚われそうな怖さがあるので、ここぞという時にゆすりそう。


 ・フウジン
 可愛い。トニカクカワイイ。
 可愛いだけじゃなくてしっかり風を起こして人々の生活を乱す神様。
 悪意はない。
 神は良いものでも悪いものではないと本人も言っている。好き。


 ・ライジン
 泣いたことや怒った事は公式で出ていたでしょうか?
 私は今回書くまで理解していませんでした。
 泣いたら大雨、怒れば雷。
 超絶迷惑だぁ……なところに神様み。
 言ってどうにかなるものじゃない、自由な所が神様的でとても好き。


 ・ヤマオロシ
 一時期滅茶苦茶出たので、ユーザーは共通の認識を持っている。


 ・マガツヒノカミ
 闇が深い。
 さらっと語れる代物じゃなさすぎる。キャラが濃い。深い。
 好きになるまでは良いけれど、一緒になるにはとてつもなく大きな壁がある。
 それを乗り越えられる気概がないと恋は無理。
 厄神を好きでいる為には命捧げる程度で済まない。


 ・ワカウカノメ
 河。フウジンライジンと同じく自然現象がキャラクターに濃く反映されている。
 なので、うまくやらないと嫌われそう……。
 そういう面のない料理王では普通のキャラだった。
 でもこの子にしっかり向き合うと、そういう面倒なところややべー所とも付き合わないといけない。
 神を好きになるって、ほんと大変だよ。愛の力は凄いね。


 ・タマノオヤ
 写真の話ばかり書いてしまう。
 でも本当は報道系の子だから、ちょっと違うんだよね。写真家ではないのだ。
 シンと公式カップリング感が出ていたので、非常に扱いづらい。
 私は平気でタマ独を書いてしまうので、ご注意ください。百合好きです。


 ・イワナガヒメ
 色々なところで書いた。長編にも出した。
 好きなのでイワナガヒメの面倒なところ、頑固で曲げないところとも付き合います。


 ・タケミナカタ
 こちらも公式で出まくっているので語ることはない。


 ・オモダル
 ノブナガとのことが書かれていたら、描写はもっともっと変わっていた。
 六について語り過ぎると独神に呆れられると判っていながら語る六狂。
 完璧と名付けられたオモダルって、物語的に面白いものが書けそう。
 敵キャラだったら、主人公と戦っていると回想シーンがくるタイプ。


 ・ヌラリヒョン
 このひとがいるからここまでバンケツ同人やってこれました。
 語ることはもうない。過去の作品たちに書いてきたから。
 ヌラリヒョンに興味がない人に説明するならば……。
 優しい年上にもなれるし、裏工作マシマシ腹黒男にもなれます。
 淡泊にも、年の割に独占欲強い積極的タイプにもなれる。
 私はちょいS入ったやつ好き。
 公式も、余裕のある年上(本殿親愛台詞)と独神にそこそこガチ(NYANYALAND・道具奪還大作戦・夜会)と二通りあるので、お好みで。




 ……と、剣士は以上。
 サ終の時に撮影しまくった祭事動画見ていると、色々思い出すね……。
 公式ツイッター、少しは動いてくれんかな……。


 さて小話は次回は鬼人。
 トドメキサンキフツコノハシュテヨルムンと、好きなキャラが詰まってる。
 一方で、ゴクウやワタナベノツナといった、終盤に追加されたキャラがいるので結構難しそう。